はじめに
DX人材の不足が叫ばれる昨今、多くの企業がその必要性を感じています。しかし、実際にどのように人材を集めていくべきか、具体的な戦略でお悩みの企業も少なくありません。
そこで重要となるのが、社員のリスキリングと、それを通じたDX人材の内製化の推進です。本記事では、DX時代を勝ち抜くためのリスキリング戦略と、DX人材の内製化を成功させるための実践的な方法を解説します。自社の成長戦略を描く上で、ぜひ参考にしてください。
なぜ今、DX人材育成にリスキリングが不可欠なのか?
現代ビジネスにおいて、DXは企業の競争力を左右する不可欠な経営課題です。市場の変化と競争激化を背景に、あらゆる企業でデジタル技術を活用した事業変革が求められています。しかし、多くの企業がこのDX推進を牽引するデジタル人材の不足に直面しています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2024」の調査では、特に事業会社でDX人材の不足が顕著であり、製造業やサービス業では「大幅に不足している」との回答割合が高いと示されています。
この人材不足は、DX推進の大きなボトルネックとなりかねません。そこで、この課題を解消する現実的かつ効果的な手段として、既存社員に新たなスキルを習得させる「リスキリング」が注目されています。新規採用や外部委託だけに頼るのではなく、社内でのリスキリングを推進することが、持続的なDX実現の鍵を握るでしょう。なぜ今、リスキリングがDX人材育成に不可欠なのか、その重要性を深掘りしていきます。
リスキリングがDX人材育成の鍵となる理由
デジタル技術の急速な進化に伴い、AIエンジニアやデータサイエンティストといったDX人材の需要は高まっています。しかし、その確保には複数の課題があります。
・採用市場における獲得競争の激化
・新規採用のみで必要な人材を確保することの困難さ
・高い採用コストの発生
・デジタル人材の需給ギャップの拡大
このような状況から、既存の労働力だけでは企業のDXに対応しきれないのが現状です。
そこで、企業の持続的な成長のために必要とされているのが、既存社員のリスキリングです。自社の事業や業務内容を深く理解している社員が新たにスキルを習得することで、より実務に即した効果的なデジタル変革を実現できます。これにより、単なる技術導入に留まらず、既存の業務効率化やイノベーションの促進といった相乗効果が期待できるでしょう。社内での人材育成は、変化の激しい時代において、企業が持続的にDXを推進するための選択肢となります。
外部委託に頼るDX推進の限界とは
DX推進を外部の専門企業に委託するケースは多く見受けられますが、そこにはいくつかの課題が存在します。主な課題は以下の通りです。
・システム開発や運用に関するノウハウが社内に蓄積されにくいため、自社で継続的にDXを推進していくための基盤が脆弱になる可能性がある。将来的な事業展開の足かせとなるリスクがある
・外部委託先との綿密なコミュニケーションや、仕様変更のたびに発生する調整には多くの時間とコストがかかり、目まぐるしく変化するビジネス環境において、こうした対応の遅れは競争優位性を損なう要因となりかねない
・長期的な視点で見ると、保守・運用・改修のたびに継続的な費用が発生し、結果として内製化するよりも総コストが高くなる可能性がある
・特定のベンダーに過度に依存する「ベンダーロックイン」の状態に陥ることで、自社の戦略に沿った柔軟なシステム開発が困難になるリスクがある
このような課題を解決するため、パソナではDX戦略推進のための人材育成として「DX人材開発支援」のサービスをご提供しております。
パソナでは実践に基づいた「エンジニア育成」「ビジネスパーソン育成」という「テクニカル」と「ビジネス」両面において貴社をサポートします。
DX人材を内製化する3つの大きなメリット
自社内でDX人材を育成し確保する「内製化」は、企業の持続的な成長を実現する上できわめて重要です。自社の文化や事業を深く理解した人材がDXを推進することで、より実態に即した迅速なデジタル戦略の実行を可能にします。
DX人材の内製化がもたらすメリットは多岐にわたりますが、本章では特に企業競争力に直結する以下の3つの大きなメリットに焦点を当てて解説します。これらのメリットが、いかにしてDX戦略の成功と企業の変革を加速させるのか、その具体的な理由を紐解いていきましょう。
開発スピードの向上と変化への迅速な対応
DX推進を外部委託に頼る場合、要件定義や仕様変更のたびに外部ベンダーとの綿密な調整が不可欠です。このプロセスは多くのコミュニケーションコストを発生させ、時にはタイムラグが生じることでプロジェクトの進行を遅らせる要因となる傾向があります。市場の変化が激しい現代において、このような遅延は開発スピードを著しく低下させ、ビジネスチャンスを逃すことにもつながりかねないでしょう。
社内にDX人材を育成し内製化を進めると、この課題は大幅に改善されます。ビジネス部門と開発部門の連携が密接になり、迅速な意思決定が可能になります。社内人材であれば、共通の目標認識のもと、外部との契約調整を待つ必要がなく、より柔軟かつ迅速に課題解決に取り組めます。外部との交渉なしに即応できる体制は、競合他社に先駆けて新しい価値を提供し、市場における競争優位性を確立する上で極めて重要なメリットとなります。
社内にノウハウが蓄積され競争力の源泉に
外部のシステムベンダーにDX推進を委託する際、納品されるのは完成されたシステムやドキュメントなどの成果物が中心となりがちです。そのため、開発プロセスや設計思想、課題解決に至るまでの詳細なノウハウは外部に留まり、自社には蓄積されにくい傾向があります。このような状態は「システムのブラックボックス化」を招き、メンテナンスや将来的な改修時に、自社だけで対応することが困難になるリスクを伴います。
DX人材を内製化すれば、開発の過程で得られた成功体験や失敗体験といった貴重な知見が社内に蓄積されます。例えば、自社の業務プロセスや顧客に関する深い理解があるため、開発過程でシステムに直接反映され、他社が容易には模倣できない独自のサービスや業務効率化を実現できます。結果として、継続的な改善や新たなイノベーションを生み出す土壌が育まれ、持続的な競争優位性の確立につながります。
長期的な視点での採用・外注コストの削減
専門スキルを持つDX人材の採用市場は競争が激化しており、採用コストは高騰の一途を辿っています。厚生労働省の調査によれば、正社員1人あたりの採用コストは、スカウトサービスで約91.4万円、民間職業紹介事業者経由で約85.1万円に達する場合もあります。経験豊富なDX人材には高額な年収提示が求められることも珍しくありません。また、外部ベンダーへの開発委託も、初期費用に加え継続的な保守・改修費用が発生するため、結果的に総コストが膨らむ傾向にあります。
DX人材を内製化する場合には、リスキリングや研修費用といった初期投資が必要です。しかし、一度スキルを習得した社員が複数のプロジェクトで継続的に活躍することで、長期的に見れば採用や外部委託にかかるトータルコストを大幅に削減できます。
内製化によって浮いた予算は、新規事業開発や新たな技術導入、さらにはより多くの社員へのリスキリングとして還元する、といった戦略的な投資に充てることが可能となり、企業の持続的な発展に貢献するでしょう。
現場のDX人材育成を担い、DXについての基礎研修からアプリ開発やデータ活用まで、一貫して研修を実施した製造業に関する事例もぜひご覧ください。
リスキリングでDX人材を育成する4つの実践ステップ
これまでは、DX人材の内製化が企業にもたらす多大なメリットと、その実現に不可欠なリスキリングについて解説しました。ここでは実際にリスキリングを成功させ、自社のDX人材を育成するための具体的な4つのステップを、順を追ってご説明します。
これらのステップは、単なる「学び直し」に終わらせることなく、戦略的かつ効果的にDX人材育成を進めるためのロードマップとなるでしょう。各ステップで何をすべきかを明確にすることで、企業が抱える課題を解決し、持続的な成長を遂げるためのDX人材を確実に育成できます。
Step1:自社のDX戦略に必要な人材要件を定義する
リスキリングによるDX人材育成を始めるにあたり、最も重要な第一歩は、自社のDX戦略と目指す姿を明確にすることです。これが、どのような人材を育成すべきかを見極めるための確かな基盤となります。まずは「どのようなビジネス課題を解決したいのか」「どのような新しい価値を創造したいのか」といった経営目標を具体的に設定しましょう。この目標から逆算し、それを実現するために必要な人材像(役割や職種)を洗い出すプロセスが不可欠です。
例えば、新しいデジタルサービスを創出する「ビジネスDX」を目指すのか、既存業務を効率化する「プロセスDX」を重視するのかによって、求める人材像は大きく異なります。
そうして洗い出した人材像には、具体的に必要なスキルセットを定義していきます。
必要なスキルセットの例:
・プログラミング言語
・データ分析ツールへの知見
・マーケティング知識
・プロジェクトマネジメント能力
・AIやIoTなどの先端技術への理解
・UI・UX設計力
この際、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定した「デジタルスキル標準(DSS-P)」が非常に有効な参考となるでしょう。DSS-Pでは、DX推進に必要な「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」といった五つの人材類型と、それに紐づくスキルが明示されています。この定義プロセスは、経営層、事業部門、人事部門といった関連部署が密に連携し、共通認識を持つことが成功への鍵となります。
Step2:社員の現状スキルを可視化し、育成すべきスキルを特定する
Step1で定めたDX戦略に必要な人材要件を満たすためには、社員一人ひとりの現状スキルを正確に把握することが不可欠です。この「スキル可視化」を通じて、理想と現実のギャップ、すなわち育成すべき「スキルギャップ」を明確にすることができます。
スキルを可視化するための主な手法を以下にまとめました。
スキル可視化のための主な手法
| 手法 | 概要と目的 |
| スキルマップの作成 | 業務で必要なスキルと各従業員の保有スキルを一覧化する表です。これにより、人材育成、人員配置、技術伝承の促進に役立てます。 |
| アセスメントツールの活用 | 社員の論理思考力や経営・ビジネス知識などを客観的に測定し、個人および組織全体の育成課題を把握するために有効です。 |
| アンケート調査 | 社員自身の自己評価や意見を幅広く収集し、広範囲なスキル状況を把握します。 |
| 上長との1on1面談 | 上長との対話を通じて、個別のスキルレベル、強み、課題、キャリア志向などを詳細にヒアリングし、多角的な視点からスキルを把握します。 |
これらの手法で得られた現状スキル情報と、あるべき人材要件を照らし合わせることで、具体的なスキルギャップを特定します。その後、特定したスキルには緊急度や重要度に基づいた優先順位をつけ、全社共通で学ぶべきスキル、部署や職種ごとに特化して学ぶべきスキルなどに分類することが重要です。この分類が、効果的な育成計画の土台となります。
Step3:育成目標に沿った研修プログラムを設計・選定する
Step2で特定されたスキルギャップを解消するためには、具体的な研修プログラムの設計と選定が不可欠です。研修の学習形態には、オンライン学習プラットフォーム、外部の集合研修、社内勉強会、OJTなど、多様な選択肢があります。
社内で研修プログラムを設計する際には、学習ロードマップを作成し、知識習得(インプット)と演習・実践(アウトプット)のバランスを意識することが重要です。特に、現場の具体的な課題を題材とした実践的なカリキュラムは、学習効果を一層高めるでしょう。
いずれの方法を選ぶ場合でも、オンラインでの自己学習とOJTやメンター制度による実践・フィードバックを組み合わせる「ブレンディッドラーニング」の考え方を取り入れることが効果的です。このアプローチにより、知識の定着と実践力の向上を同時に図ることができます。
パソナでは「DX人材開発支援サービス」にてPower Platformのハンズオン講座の受講から「ローコード開発」を学ぶことができます。ハンズオン講座のあとは、実際にアプリを作成するハッカソンを実施した事例もぜひご覧ください。
Step4:学んだスキルを実践で活かす機会を提供する
得た知識を「使えるスキル」に高めるには、実際の業務で活用し、成果を出すことが不可欠です。リスキリングの成果を最大限に引き出し、DX人材を育成する上で、実践の場を提供することは非常に重要な段階と言えます。学んだ知識を活かす場としては、既存業務の改善プロジェクトや、業務自動化ツールの導入といった小規模なDX関連新規プロジェクトを任せることが有効です。
また、挑戦を奨励する企業文化の醸成も欠かせません。実践における失敗を責めるのではなく、「学びの機会」として捉える姿勢が重要です。これらの要素を整えることで、社員は安心して新しい挑戦に取り組むことができ、自律的に考え行動するDX人材の定着と育成が促進されます。
まとめ:リスキリングを起点に、持続的に成長できるDX組織へ
本記事では、DX時代における企業の競争力強化に不可欠なリスキリング戦略と、DX人材を自社で育成するための実践的なステップについて解説しました。外部委託への過度な依存がもたらす限界を乗り越え、自社でDX人材を育成することは、多大なメリットをもたらします。
DX人材の育成は、闇雲にスキルを習得するだけでは成功しません。本記事でご紹介した「Step1:人材要件の定義」から「Step4:実践機会の提供」に至るまで、計画的かつ戦略的に取り組むことが成功の鍵を握ります。自社に必要なスキルを明確にし、従業員の学習を継続できる環境を整え、学んだ知識を実務で活かす機会を提供することが、リスキリングを定着させる上で不可欠です。
変化の激しい現代において、リスキリングは企業の競争力を高め、将来にわたる成長基盤を築くための極めて重要な経営課題です。本記事を参考に、貴社でもリスキリングを起点としたDX人材育成に積極的に取り組み、持続的に成長できるDX組織の実現を目指していただければ幸いです。
