はじめに
業種・業界を問わず、近年あらゆる領域でデジタル化が進められています。市場における競争優位性を確保するため、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを始めている状況です。
なかでもAIやIoTなど、最新のIT技術を活用したDX推進は注目されています。AIは、活用の仕方によっては業務効率化や生産性向上などの効果が期待できる優れた技術です。
しかし、DXへの理解不足によって「AIなどのデジタル技術を導入すればDXが完了する」と誤解している方も少なくありません。
この記事では、DXに関する基礎知識や、DXとAIの関係性、DX推進にAIを活用するメリット、AIを用いたDX推進を成功させるためのポイントについて解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX=デジタル化ではありません。まずは、DXの意味や必要性について理解していきましょう。
DXの基礎知識
DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、企業の競争上の優位性を確立するための取り組みです。
経済産業省は、DXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
引用:経済産業省『「DX 推進指標」とそのガイダンス』
DXは、企業が「競争優位性を確立すること」がゴールです。AIなどのデジタル技術の活用は、あくまでDXを行うための手段の一つにすぎない点は押さえておきましょう。
DXが必要とされる背景
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、多くの既存システムが複雑化・老朽化・ブラックボックス化しており、これらのシステムが2025年まで残った場合、IT人材の引退やシステムのサポート終了によって大きな損失が発生する可能性があると指摘されています。
つまり、競争優位性を確立するには、DXにより2025年までに既存システムを刷新し、企業が抱えるさまざまな課題を解決していく必要があるのです。
近年、DXの重要性が広く知られるようになり、多くの日本企業がDX実現に向けて動き出しています。
参考:経済産業省『DXレポート~IT システム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(平成30年9月7日)』
DXとAIの関係性とは
DXを実現するために、AI技術を導入するケースは珍しくありません。DXとAIはどのような関係性にあるのかを解説します。
AIとは、機械学習を用いたシステム
AI(Artificial Intelligence:人工知能)は漠然とした概念であり、確立した定義はありません。一般的には「人間の思考プロセスに似た動作をするプログラム」といった理解が広まっています。
ビジネス領域では「機械学習を用いたシステム」全般をAIと呼ぶことが多い傾向にあります。機械学習とは、コンピューターに大量のデータを読み込ませ、データのルールやパターンを学習させることで、予測や判断などを可能とする技術です。
AIはDX推進のための手段
近年、パソコンやスマートフォン、スマート家電、センサーなどのIoT機器が普及したことで、膨大な量のデータ(ビッグデータ)の収集が容易になりました。ビジネス領域においても、ビッグデータの活用が注目されています。
AIシステムを導入することで、データの分析や、分析結果に基づく予測を自動化することが可能です。ビッグデータを人間の手だけで解析するのは現実的ではありません。AIシステムを活用すれば、膨大なデータを高精度かつ迅速に分析できるようになるのです。
AIによるデータの分析結果をもとに、事業戦略の立案や、業務効率化の施策を講じれば、変化の激しい市場ニーズにもスピーディーに対応できます。AIの活用は、DXの実現可能性を高める有効な手段といえるでしょう。
DXはAI導入だけでは実現しない
DX推進で大切なのは「何をどうしたいのか」を明らかにすることです。そこを明らかにせずに、AIなどのデジタル技術を導入することがゴールになる企業も少なくありません。
AIは、あくまで手段の1つという認識を持つ必要があります。
DX推進では、まず既存業務の抱えている問題を把握し、DXによりどのようなイノベーションを起こしたいのかを明確にします。そして、その目標に向けたデジタル技術を採用する必要があるのです。
AIで実現できること
DXにAIを導入するには、AIがどのような技術なのか、どのようなことが可能なのかを理解しておくことが重要です。AIの代表的な能力である「画像認識」「音声認識」「言語解析」「数値予測」についてそれぞれ見ていきましょう。
画像認識
AIは、画像認識の精度が非常に高いことが知られています。
AIをビジネス領域で活用する際も、画像認識の技術が適用されることが多くあります。画像認識を活用すれば、通常は人間の目で見て判断している業務を、AIに置き換えることも可能です。
音声認識
AIは音声認識にも優れており、単純な言葉であれば、ほぼ正確に聞き取ることができます。聞き取った音声データを、自動でテキストデータに変換することも可能です。
音声認識の技術を活用すれば、これまで人間が自分の耳で聞いて判断していたことを、AIで自動化することができます。
言語解析
言語解析とは、音声データやテキストデータの内容を解析する技術です。
言語解析は、画像や音声ほどの精度には到達していませんが、翻訳などの定型的な処理であれば、十分実用化レベルに達しているといえます。
数値予測
数値予測は、AIが非常に得意とする分野です。蓄積された時系列データをAIに学習させることで、将来起こりうる事象の発生や、数値を予測できます。
市場ニーズや商品売上を予測できれば、より最適な戦略を立案することが可能です。従来は勘や経験に頼って予測していたことも、AIの活用によりデータに基づいた精度の高い予測ができるようになります。
DXへのAI活用における課題
AIは、DXを実現するために有効な手段の一つです。しかし、AIをビジネスに活用するには、AIシステムを扱える人材の確保や、個人情報の取り扱いなどの課題があります。
DXへのAI活用における2つの課題について、詳しく見ていきましょう。
AI人材の不足
企業がAIを導入する際の大きな課題は、AIを扱える人材の確保が難しいことです。
AI人材は、高度な専門性と幅広い知識が必要な為市場価値が高く、採用や社内育成も簡単ではありません。
AIを活用するためには、必要な人材をどう確保するのかの工夫が重要です。
個人情報への配慮
AIは大量のデータと組み合わせることで、分析や予測が可能となります。個人情報をAIに読み取らせることで、顧客ニーズの分析や、自社の業務状況の把握など、より精度の高い結果を導き出すことができます。
ただし、個人情報を取り扱う際は、プライバシー保護に十分な配慮が必要です。情報漏洩や不正アクセスなどが発生すると、社会的な信用や企業イメージを損なうリスクが高いでしょう。
AIを活用してDXを実現する際には、個人情報を取り扱う体制を構築することも非常に重要です。
DXを実現するためのAI導入のポイント
大量のデータ処理を得意とするAIを導入すれば、精度の高い分析や予測が可能となります。
AIの分析結果をもとに事業戦略や施策立案を行えば、より市場ニーズに適したビジネスモデルを構築することも可能です。しかし、AIを導入したものの、思うような成果が得られないと悩んでいる方も少なくありません。
DXを実現するためにAIを導入する際は、2つのポイントを押さえておくことが重要です。DXを実現するためのAI導入のポイントについて、詳しく見ていきましょう。
データの収集
AIを十分に活用するためには「AIが読み込むためのデータをどれだけ集められるか」が重要です。
AIをビジネス領域に用いる場合、AIで大量データの分析や予測を高精度化・効率化することが目的であるのが一般的です。そのため、データ収集が進んでいない・情報がデータ化されていないなどの状態では、AI導入による効果を実感できません。
また、データ内容に誤りや偏りがあると、AIの分析精度が低下する要因となってしまいます。AIの効果を十分に得るには「量」と「質」の両面を満たすデータが重要なのです。
目標を明確にする
DXでは「AI導入によってどのような課題を解決したいのか」、自社のビジョンを明確にすることが大切です。ビジョンは経営層だけではなく社内全体で共有することで、従業員全員が同じ視点でDXに取り組むことができます。
DXの目標によっては、AI以外のデジタルツールの活用なども検討するとよいでしょう。また、AIは導入してすぐに高度な処理を行えるわけではなく、データの分析精度も100%ではありません。そのため、AIの分析精度がどの程度であれば実用化できるのか、基準となる数値を具体的に設定しておくことも重要です。
まとめ
DXは、デジタル技術の活用により競争優位性を確立することがゴールです。それに対してAIはデジタル技術の一種であり、DXを実現するための手段にすぎません。
DX実現のためにAIを導入する企業は多く存在します。しかし、なかにはAI導入自体がゴールとなってしまい、ビジネスモデルの変革に至らないままDXを中断してしまうケースも珍しくありません。そのような実態に陥らないためには、DXのゴールを明確にし、手段とゴールが入れ替わらないよう留意することが大切です。
AI導入による効果を十分に得るには、社内にAIを扱える人材を置く必要があります。しかし、高度な専門性を有するAI人材は市場価値が高く、人材の確保は容易ではありません。人材が確保できない場合は、社内の人材に対して教育を行うことも視野に入れるとよいでしょう。
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