はじめに
「人材の開発や育成に課題はありますか?」という質問に対してほとんどの企業が「YES」と答えると思います。
多くの場合、サービスの向上や事業拡大には企業に勤める従業員の能力を最大限に発揮しなくては実現できないため、人材と企業の成長は切り離せない密接な関係があります。
しかし、人材の開発や育成には多大な資金がかかります。資金集めや予算確保に頭を悩ませている企業、ご担当者の方も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は厚生労働省から出ている「人材開発支援助成金」についてご紹介します。助成金と聞くと中小企業が対象というイメージがありますが、本日ご紹介する助成金は大手企業も対象です。
企業内の人材育成に取り組むご担当者の皆さまは、ぜひ参考にしてみてください。
人材開発支援助成金とは?
「従業員に対して計画に沿って訓練を実施した場合や、教育訓練休暇制度を導入し、その制度を従業員に適用した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成します。」 (引用:『厚生労働省』人材開発 | 事業者の方向け.pdf)
分かりやすく説明すると
企業が雇用する社員に対して業務に関連した、専門的な知識や技術を習得するための研修を計画的に実施した場合に、その研修経費や期間中の賃金の一部を補助してくれる制度です。
メリット
・人材の開発や育成の費用を軽減できる
費用が高い傾向がある専門的な知識や技術の研修費など、人材育成にかかるコストを下げることが可能。
・即戦力となる人材が育つ
実務に直結した知識や技術を身に付けることができるため、講習の受講後すぐに業務に活かすことが可能。
・企業と社員との関係性が深まる
キャリアに沿った人材育成支援を積極的に行うことで社員が資格を取得しやすくなるなど、キャリアに対する不安解消および仕事への意欲向上、企業への定着率向上に寄与。
デメリット
・申請に関する必要書類の作成や申請に時間と手間がかかる
・助成金支給までの間、一時的に費用を負担する必要がある
助成金コースの種類
人材開発支援助成金には以下9つのコースがありますが、そのなかで今回は比較的多くの企業で取り組みやすい「一般訓練コース」にフォーカスしてご紹介いたします。
◎一般訓練コース
企業が雇用する社員に、業務に即した専門的な知識および技術を習得するための研修を20時間以上実施した場合に費用の一部を補助 (特定訓練コース※1に該当しないもの)
その他
-特定訓練コース※1
-教育訓練休暇等付与コース
-特別育成訓練コース
-人への投資促進コース
-事業展開等リスキリング支援コース
-建設労働者認定訓練コース
-建設労働者技能実習コース
-障害者職業能力開発コース
※1 企業が雇用する社員に、労働生産性向上に即した研修、若年者への研修、あるいは厚生労働大臣が認定したOJT/OFF-JTを組み合わせた研修などを10時間以上実施した場合に費用の一部を補助
どのような研修が「特定訓練コース」に該当するかを確認されたい方は以下からご参照ください
参考:『厚生労働省』人材開発支援助成金 | 特定訓練コース
一般訓練コースについての概要
研修の対象者は、人材開発支援助成金の申請を行う企業が雇用している被保険者です。
補助金対象となる研修実施の条件は以下2つです。
・OFF-JTにより実施される研修であること
・該当する研修時間が20時間以上であること
ここの条件で出てくる「OFF-JT」について説明します。
「OFF-JT」は研修の形式を表しており「OFF-JT」と「OJT」の2種類あります
OFF-JT(OFF the Job Training)
通常の業務から離れ、業務作業と区別して行う教育・学習(外部スクール、セミナーへ参加、通信教育やe-ラーニングなども含む)を指します。講師は外部の専門的な人材に依頼するか自社内の社員が担う形を取ります。
OJT(On the Job Training)
実際の職務現場で業務を通して行う教育・学習を指します。企業内の適確な社員を指導者として実務に即した形で実習を行います。
ただし以下のような形式のOFF-JTは認められないので気を付けてください。
・ビデオ視聴など受動的に学ぶ形式のもの
・定額制サービスによるもの
・海外で実施されるもの
・専門的な知識/技術を持っていない講師によるもの
・計画書にないもの
など
また、繰り返しますが、以下のような目的で実施されるOFF-JTは一般訓練コ―スとはならないので、研修内容を検討する際は確認する必要があります。
・業務に直接関係のない知識/技術を習得することを目的としたもの
・一般的なスキルを身に付けることを目的としたもの
詳しくは以下を参照してください
参考:『厚生労働省』人材開発支援助成金 | 一般訓練コースpdf
助成金における注意点
助成金の種類は「賃金助成」と「経費助成」の2種類があり、その合計が企業に支払われる助成金となります。
教育・学習を受ける社員、1人当たりの受講時間に対して支給されるのが賃金助成です。上限を1200時間とし、1人1時間につき380円支給されます。
対して、経費助成は実施された訓練の経費の30%が支給されます。支給される金額の上限は訓練の時間によって変化し、100時間未満は7万円、200時間未満が15万円、200時間以上だと20万円と定められています。
ここで押さえておきたいポイントは、助成金が社員のキャリアアップ、ひいては企業の成長につなげていくためのものだということです。
企業が人材開発・育成を計画的に行うために「社員への投資」を支援する助成金です。
そのため、企業の取り組みにより企業の「生産性」が伸びている場合、別途追加で助成金を受け取ることができる制度が設けられています。
生産性要件とは
訓練を開始した会計年度に対して「前年度の生産性」と「3年後の会計年度の生産性」を比べた時に、6%以上伸びていることが条件です。
◆生産性の計算式
少ない労働者でどれだけ生産性を上げられたかが指標になります。生産性要件を満たした場合は、訓練開始の3年後の会計年度の末日から5カ月以内に必要書類を提出すると受給額との差額が支払われます。
生産性を計算したい方は「生産性要件算定シート」をご覧ください。
人材開発支援助成金を受給するまでの流れ
人材開発支援助成金を受給するために、大きく4つのステップがあります。
まず注意しなくてはいけないのが、職業能力開発推進者を選任して事業内計画(事業内職業能力開発計画※2)を作成しなければならないことです。
その後、訓練実施計画を作成し、実施1カ月前までに各都道府県の労働局へ提出します。
提出した訓練実施計画に沿って、訓練を実施したら2カ月以内に支給申請書と必要書類を労働局へ提出します。
審査が通れば助成金を受給することができます。
なお、申請する前に研修に関する費用は全て支払い終えている必要があります。
※2 自社の人材育成に関する基本的な方針および計画をまとめたもの
まとめ
人材開発支援助成金は、企業の人材開発・育成にかかる費用を一部補助することで、社員のスキルアップ、ひいては企業の成長をサポートする制度です。業種問わずに受給できる点で活用しやすい「一般訓練コース」を含めて9つのコースが用意されています。
コースごとに、賃金助成、経費助成の金額が用意されているうえ、生産性要件を満たした場合は追加の受給が可能となります。訓練実施計画の作成をはじめ、手続きに時間と手間がかかったり、受給までの間の費用を全額負担したりとデメリットはありますが、人材の成長を促す機会を作りやすくする制度としてのメリットがあります。
人材開発支援助成金は申請手続きが複雑で、必要書類の作成は骨が折れる作業かも知れませんが、活用の仕方次第で企業の成長につながると思います。
ぜひ検討してみてはいかがでしょうか?