はじめに
現実世界のさまざまなデータをまるで双子であるかのようにコンピュータ上で再現し、人流予測や防災対策に活用できるデジタルツインですが、技術の発達とともに活用を始める企業も増えてきました。
国土交通省でもデジタルツインに必要な3D都市モデルを自由に使えるように環境を整備していると発表しています。
では、具体的にどのような企業でどのような活用がされているのか、デジタルツインの最近の動向とともにご紹介します。
デジタルツインとは?
デジタルツイン(DigitalTwin)とは、2002年にアメリカのミシガン大学のマイケル・グリーブスによって広く提唱された概念です。
現実の世界から収集したデータを、まるで双子であるかのように、仮想空間(バーチャル世界)でリアルに表現する技術のことです。「ツイン(双子)」という言葉が表すように、IoTやAI、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)などの最新技術を活用して、現実世界をそっくりそのままコンピュータ上に再現することができます。
物理空間の仕組みや人やモノの動きなどを仮想空間にそのまま再現することによって、精度の高いシミュレーションを可能にします。そのため、業界を問わず注目を集めている技術です。
デジタルツインは、特定のプロダクトがあるわけではなく、さまざまな技術の連携で成り立つものです。例としていくつかご紹介します。
IoT:モノが持つデータを収集・反映
IoT (Internet of Things)はセンサーなどでモノが持つ情報を、インターネットを介して送受信することができます。IoTを活用することによって、あらゆる場所からデータ収集ができ、より高精度なデジタルツインを作成できるようになります。
5G:リアルタイムにデータ反映
前述したIoTで収集したデータをまとめたり、活用したりするためには、高速かつ大容量の通信技術が必要です。そのための通信手段が「5G」です。5Gの活用によって、リアルタイムなデータをデジタルツインの構築に活かすことができます。
AR・VR:仮想空間をリアルに表現
AR(拡張現実)は、現実世界にデジタルコンテンツを重ねて表示させることができる技術で、VR(仮想現実)は仮想空間を体感できる技術のことを指します。どちらも発展途上ですが、デジタルツインのシミュレーションをよりリアルに表現できるAR・VRに期待が集まっています。
最近のデジタルツイン の動向
アルテアエンジニアリング株式会社の調査によると、デジタルツイン技術の活用に関して10カ国にアンケート調査をした結果、10カ国全体の約7割程度が“活用している”と回答していました。それに対し、日本人の回答結果を見ると約6割が“活用している”と回答していて、10カ国中9位の結果となっており日本のデジタルツインの活用は他国に比べてやや遅れている状況であることが分かります。
しかし、日本人の95%がデジタルツイン技術は重要であると回答していることから、技術に対する意識自体は大きな開きがないことが明らかになりました。
また、IDC Japanが2月に発表した「国内の産業用メタバース/デジタルツイン市場の動向」の調査結果によると、国内の産業用メタバース/デジタルツイン市場は、よりよい働き方、より高い生産性、CO2排出量の削減、安全安心な社会などを実現するとしています。
市場の広がりについても言及していて、以下のような普及シナリオによって今後広がっていくだろうと予測しています。
最初に普及するのは、社内に設計と生産の両部門を有する大手製造業や大手建設業者です。この段階で限定的であっても、取引先や委託先へデジタルツイン構築に必要なデータを引き継ぎ、その先で活用をしていくことになると市場は急速に拡大していきます。
さらにこれらを人流、交通流、など広域のデジタルツインと組み合わせることによって、社会全体のデジタルツイン化が可能になります。
このようなデジタルツインの普及によって、働き方の改善、生産性の向上など、安全安心な社会が実現するとIDC Japan株式会社では考えているようです。
企業の活用事例を紹介
竹中工務店が「デジタルツイン空調」を名古屋市国際展示場に初適用
竹中工務店は2023年3月に大空間の最適な空調制御を行う新たな手法としてバーチャルセンサーを用いたデジタルツインによる空調制御システムを開発、初めて適用しました。
大空間の空調の自動制御をしたい場合、人が滞留する空間に向けてきめ細やかな制御を行うことが難しく課題となっていました。
「デジタルツイン空調」はシミュレーション技術によるバーチャルセンサーのデータをもとに空調環境を把握でき、さらにその仮想空間上の検証結果によりリアル空間の制御を可能にした日本初の取り組みです。
今後は大空間のみならず、省エネルギーとウェルビーイングを両立した建物の提供をしていき、脱炭素の実現やSDGsへの貢献も目指していくようです。
(参考:株式会社竹中工務店リリース『日本初、バーチャルセンサーを用いたデジタルツインによる空調制御システムを開発・初適用』)
産業技術総合研究所が人とロボットの協働作業の「デジタルツイン化」
実証実験にトヨタ自動車が協力
産業技術総合研究所は2023年1月に人とロボットが協働できる作業環境のデジタルツインを開発し、実証実験を実施したことを発表しました。
開発したデジタルツインをサイバーフィジカルシステム(現実世界の情報を仮想空間に取り込み、分析結果をフィードバックするもの)に活用することで、ロボットが作業者(人間)のスキルや身体的な違いを考慮しながら業務のサポートをし、作業者(人間)はロボットが苦手な細かい作業をサポートするなど、相互扶助ができる環境を構築しています。
実証実験としてトヨタ自動車の工場における部品供給作業を再現できる模擬生産工場を構築、人とロボットによる自動車部品の協働取り出し作業を実施しました。
作業者(人間)の負担になる作業をロボットが優先的に担いながら手分けをして作業を進めた結果、生産性を10~15%向上させ、人の身体(腰や肩)にかかる負担を約10%軽減することに成功したとのことです。
(参考:国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究成果記事『生産性の持続的向上と人の負担軽減を両立するデジタルツインを開発』)
社会課題を解決するデジタルツイン
NTTコミュニケーション科学基礎研究所
本研究所では、信号機を使うことなく交通をスムーズにして、全体の移動時間を最適化する研究とそれに基づく実証実験を続けています。
仮想空間上でAIが状況を学習して、未来の交通状態の最適な状況を導き出し、その結果をもとに現実世界で交通を制御していく取り組みが、注目を集めています。
(参考:NTTコミュニケーション科学基礎研究所『オープンハウス2022 研究展示 信号機を使わないリアルタイム分散交通制御』)
キャドセンター
キャドセンターでは、3Dモデル活用技術「バーチャル・スマート・シティ」で社会課題を解決しようとしています。例えば、市街地の日陰ができる場所を時系列で追うことができるため、イベント会場の選定や夏の熱中症対策として活用することができます。こちらは2020年代後半には実用化されるかもしれません。
(参考:キャドセンター『【PLATEAU提供のオープンデータに対応!】3D都市データ可視化ソリューション「Virtual Smart City」によるビューワ提供を開始』)
株式会社三菱総合研究所/凸版印刷株式会社/国際航業株式会社
複数企業共同でデジタルツイン技術とVPS技術を組み合わせて自動車運転の安全性を高める取り組みを進めています。VPSとは「Virtual Private Server」の略で「仮想専用サーバー」などと呼ばれています。
車載カメラの撮影映像と仮想空間を照合し、自車位置の向きや方角などの細かい位置情報を取得することによって、これまで起きていた事故を未然に防ぐなど自動運転車の安全性アップを試みているようです。
(参考:PLATEAU by MLIT『自動運転車両の自己位置推定におけるVPS(Visual Positioning System)活用』)
パソナのデジタルツイン技術
「Civic Earth(シビックアース)」
「Civic Earth(シビックアース)」とは、デジタルツイン技術を活用して、現実(フィジカル)空間を、仮想(サイバー)空間に再現することで、現実空間で難しいシミュレーションを可能にします。災害対策や温暖化対策など、社会課題の解決までの時間や労力を大幅に短縮することができます。
例えば「災害対策」です。
予算不足や防災対策の不備、専従する職員不足などその企業や地域によってさまざまな課題があると思います。デジタルツインを使い、仮想空間のシミュレーションを行うことで、災害時の潜在的リスクや、避難計画を三次元的に可視化することができます。仮想空間でのシミュレーションによってあらかじめ被害規模の把握とその対策ができるため、迅速な対応と大幅なコスト削減が実現可能になります。
詳しくは、ぜひユースケースをご確認ください。
まとめ
数年前まではどう取り入れて良いか分からない状態だったデジタルツインも、技術の発達とともに活用を始める企業が増えてきました。
リサーチ会社のIMARCによると、市場規模は2021年の103億ドル(約1.4兆円)に対して、2027年は546億ドル(約7.5兆円)と急拡大すると予測されています。ビジネスに直接関係がなくても、デジタルツインの進化によって私たちの生活は劇的に変化していくでしょう。
事例紹介にもある通り、まだ実証実験の段階でもどんどん実用化・実社会での活用が進んでいます。ぜひ今後のデジタルツインの動きに注目してみてください。