はじめに
以前の記事ではDX推進の方法の最初の一歩としてRPAの導入をご紹介しました。
しかしRPAの導入後、その効果を実感する一方で、ベンダーへの依存度やコストの増加に課題を感じている方もいるのではないでしょうか。本記事では、RPAを内製化するための鍵となるロードマップを解説します。
RPAで自動化された業務を、自社でRPAシナリオの設計・開発・運用まで行う体制を構築することは、長期的なコスト削減や柔軟性の向上につながります。ぜひ貴社の移行方法検討にお役立てください。
内製化へ移行するメリットとは
多くの企業で業務効率化に貢献してきたRPAですが、運用が長期化するにつれて、新たな課題に直面するケースが増加しています。課題を根本的に解決し、企業の競争力をさらに高める選択肢として、近年「内製化」への移行が注目を集めています。本セクションでは、RPAを内製化することで得られる具体的なメリットについて詳しく解説します。
RPA運用で直面する「複雑化・属人化・コスト増」の壁
RPAの導入により業務効率化を進める企業が増える一方で、運用を続けるなかで多くの企業が「複雑化」「属人化」「コスト増」という、三つの大きな課題に直面しています。
業務プロセスの変更や機能追加を繰り返すうちに、RPAのシナリオはパッチワークのようになり、管理が困難になる「ブラックボックス化」の問題を抱えやすくなります。その結果、全体像の把握や修正が極めて難しくなる点が課題です。
RPA運用においては、開発や管理が特定の担当者に依存しがちなため、「属人化」が生じやすいという課題もあります。属人化が進むと、担当者の異動や退職によってRPAシナリオのメンテナンスができなくなるリスクが高まり、さらに、ノウハウや運用情報が組織全体に共有されないことで、他のメンバーがRPAを十分に理解・活用できずトラブル発生時にも迅速な対応が困難となります。こうした状況の背景には、体系的な教育や情報共有の仕組みが整備されていないことが挙げられます。
自動化の範囲拡大に伴い、RPAツールのライセンス料や保守費用といったランニングコストは必然的に増大します。このため、当初期待した費用対効果が得られにくくなるケースも少なくありません。
変化に迅速に対応できる開発スピードとノウハウの蓄積
RPAを導入した場合、最初は業務効率化の効果を感じやすい一方で、運用が進むにつれ、業務内容や要求仕様の変更が必要になる場面が多くなります。こうした変更に対応する際、外部ベンダーへ都度依頼していると、改修作業に多くの時間やコストがかかることがあります。
一方、社内でRPAの開発・運用体制が整備されていれば、仕様変更や機能追加といった業務改善のプロセスを迅速に社内で完結させることができるようになります。
また、自社で運用を進めていくことで、RPA開発のノウハウや業務改善の知見が組織全体に蓄積しやすくなります。蓄積されたノウハウは、将来的な機能拡張や他システムへの展開にも活用可能となり、業務の属人化防止にも寄与します。
この結果、持続的な業務改善が可能となり、組織全体の技術力の底上げと競争力強化につながるでしょう。
パソナでは業務改善などの課題に対し、Power Platformを活用したDX人材開発や内製化支援をおこなっております。
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RPAの内製化へ!成功に導く4段階の移行ロードマップ
RPAの内製化は、明確な計画なしに進めると、予期せぬ課題に直面し、時間やコストの無駄につながるおそれがあります。成功の鍵となるのは、段階的な移行を可能にする明確なロードマップです。体系的なアプローチを取ることで、リスクを最小限に抑えつつ、確実な内製化を推進できます。
本セクションでは、その具体的な移行プロセスを4つのステップに分けて詳しく解説します。各ステップを着実に実行することで、貴社独自の状況に合わせた柔軟なシステム構築が可能となり、持続的な業務改善と競争力強化につながるでしょう。
Step1.現状分析:RPAによる自動化範囲と課題を明確にする
内製化を成功させるには、現状分析が不可欠です。このステップでは、稼働中のRPAによる自動化範囲と運用上の課題を明確にし、投資対効果を判断するための基礎情報を得ることが目的となります。
まず、社内で稼働している全てのRPAシナリオをリストアップしましょう。対象業務、利用ツール、管理部署、処理頻度、メンテナンス担当者などを洗い出し、RPA管理台帳として可視化することをおすすめします。
次に、リストアップしたRPAシナリオごとに運用上の課題を具体的に洗い出します。メンテナンスに要する工数、エラーの発生率、ライセンス費用、業務変更への追随の難しさ、特定の担当者のみが対応可能な属人化といった観点から評価します。特にエラーの解消に時間を要するケースや、運用が特定の担当者に依存するケースは、深刻な課題となり得ます。
これらの分析結果を基に、内製化するべき業務の候補を選定します。複雑なロジックを持つ業務や、頻繁に仕様変更が発生する業務、全社的に影響範囲が広い業務などが、移行の有力候補となるでしょう。客観的なデータに基づいて優先順位をつけ、次のステップへと進みます。
Step2.PoC(概念実証):小規模な開発で費用対効果と課題を検証
RPAの内製化における「Step2」は、PoC(Proof of Concept:概念実証)の実施です。PoCは、本格的な開発に着手する前に、システムの技術的な実現性や費用対効果を小規模な範囲で検証し、将来的なリスクを低減するために不可欠なプロセスといえます。具体的には、以下の点を検証することが重要です。
・RPAの機能を自社開発で代替できるか(技術的な実現性)
・RPAのライセンス費用や保守費用に対し、開発・運用コストが見合うか(費用対効果)
・移行後に必要なスキルセットや運用体制といった運用面の課題
PoCを成功させるには、対象業務の選定が鍵となります。例えば、影響範囲が限定的で効果測定が容易な業務、あるいは既存RPAの運用において課題が顕在化していた業務などを優先的に選ぶと良いでしょう。小規模な成功体験を積み重ねることで、内製化への自信とノウハウが蓄積されます。
PoCの完了後は、事前に設定したKPIの達成度を厳密に評価し、その結果に基づいて「Step3.社内展開」へ進むかどうかの判断を行うことが極めて重要です。
Step3.社内展開:成功モデルを標準化し他部門へ広げる
PoCで得られた成功体験を全社に展開するには、そのノウハウを「成功モデル」として標準化し、再現可能な形にすることが重要です。具体的には、以下の項目をテンプレート化し、他部門でも利用しやすいよう整備します。
・開発プロセス
・ドキュメント作成方法
・ソースコード管理
・テスト手法
テンプレート化は、成功したビジネスモデルやプロセスを分析し、言語化することから始まります。これにより、将来的なプロジェクトの効率化と品質向上に貢献するでしょう。
次に、どの業務や部門から内製化を拡大していくかの優先順位付けが求められます。この際、投資対効果(ROI)の高さや業務の類似性を主要な判断基準とすることが有効です。優先順位の設定において、ROIは特に重要な要素となります。市場環境やユーザーニーズは常に変化するため、固定的なロードマップではなく、定期的な再評価が望ましいでしょう。
社内全体への展開を円滑に進めるためには、内製化のメリットやPoCで得られた成功事例を全社に共有する啓蒙活動が不可欠です。社内説明会や成功事例共有会などを開催し、他部門の理解と協力を得ることが、内製化推進の鍵となります。さらに、全社的な推進体制として、専門部署の設置や、各部門への内製化キーマンの配置など、組織横断的な体制を構築することで、内製化の動きを加速させることが可能です。
Step4.継続的改善:KPIで効果を測定しシステムを最適化し続ける
システムを内製化した後も、その運用は継続的な改善が欠かせません。ビジネス環境は常に変化し、新たな業務ニーズも発生するため、一度開発したシステムをそのまま使い続けるだけでは、その価値を十分に発揮することはできません。自社で完結できる環境だからこそ、これらの変化に迅速に対応し、システムを最適化し続けることで、持続的な業務効率化と競争力を強化できます。
RPAの運用効果を客観的に評価し、改善の方向性を見定めるためには、KPIの設定が重要です。KPIはパフォーマンス改善の基準となります。具体的なKPIとしては、以下のような項目が挙げられます。
・業務削減時間
・コスト削減額
・エラー発生率
・ユーザー満足度
これらの指標を定期的に測定し、傾向を分析することで、改善が必要な領域を明確にできます。
設定したKPIに基づき、継続的な改善サイクルを確立することが重要です。「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「改善(Action)」の4ステップを繰り返すことで、効率的なシステム運用と改善につながります。ユーザーからのフィードバックを収集する仕組みや、改善要望を管理するためのプロジェクト管理ツールを活用することも有効です。
継続的な改善を組織全体で推進するためには、情報システム部門と業務部門の連携など、継続的改善を推進するための体制づくりが重要です。部門横断的な協力体制を築き、システムの価値を一層高めることにつながるでしょう。
移行プロジェクトを成功に導く2つの重要ポイント
RPAの内製化は、組織全体の大きな変革を伴うプロジェクトです。多くの企業が直面するように、技術的なロードマップを単独で実行するだけでは、期待通りの成果は得にくいでしょう。プロジェクトを成功に導くためには、技術的な側面だけでなく、組織的な土台作りが不可欠です。
本セクションでは、移行プロジェクトを成功させるために特に重要な2つのポイントに焦点を当てて解説します。
ポイント1:経営層を巻き込み、全社的な協力体制を築く
RPAの内製化は、企業の生産性向上やコスト構造変革に関わる「経営課題」として捉えることが重要です。全社的な方針決定には、経営層の強いコミットメントとトップダウンによる推進力が不可欠となります。予算の確保や部門間の利害調整においても、経営層の関与なしには困難でしょう。
経営層を説得するには、RPA運用の現状コストと、内製化によって得られるROIを定量的に示すことが効果的です。例えば、RPAツールの年間ライセンス費用や、外部委託時のシナリオ費用といった現状コストを明確に提示できます。これに対し、具体的な成果とROIを提示することで、論理的な説得が可能です。
ポイント2:外部パートナーとの関係を見直し、適切な支援を求める
RPAの内製化を成功させるには、自社のスキルやリソースの不足を的確に把握し、外部の専門家の力を借りることが鍵となります。外部パートナーからは、以下のような多岐にわたる支援が期待できます。
・高度な技術コンサルティング
・効率的な開発プロセスの導入支援
・特定分野における部分的な開発委託
・人材育成のサポート
重要なのは、単なる受託開発業者としてではなく、自社の内製化を真に支援し、技術やノウハウの移管に積極的な伴走型のパートナーを選定することです。既存のRPAベンダーやSIerとの関係性も、この機会に見直す必要があるかもしれません。これまでの外部委託主体の体制から、協働型体制へのシフトへ転換することを目指しましょう。外部の専門知識を最大限に活用することで、内製化の質を高め、より迅速かつ確実に目標達成へと導くことが可能になります。
大鉄工業株式会社がPower Platformを活用した業務効率化に関する事例も併せてご覧ください。
まとめ:内製化で、企業の持続的な成長を実現しよう
RPAは業務効率化に大きく貢献しますが、運用が長期化すると「複雑化」「属人化」「コスト増」といった共通の課題に直面することが多くなります。これに対し、内製化は、自社独自の業務に最適化されたシステムを構築し、柔軟な対応を可能にするだけでなく、社内に貴重なノウハウを蓄積できるため、持続的な競争力強化につながる大きなメリットをもたらします。
本記事でご紹介した「現状分析」「PoC(概念実証)」「社内展開」「継続的改善」の4段階からなる移行ロードマップは、RPAの内製化を体系的かつリスクを最小限に抑えて進めるための具体的な道筋を示しています。
まずは、貴社のRPA運用の現状を詳細に分析し、内製化によって大きな効果が見込める業務から、スモールスタートで内製化への一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。この変革が、貴社の企業価値を一層高め、未来を切り拓く力となることを願っています。