データの力で、残したい未来を
2022年8月、スマートシティ領域での協業を発表した株式会社パソナテックと株式会社Eukarya(ユーカリヤ)。協業のきっかけや今後の展望、そしてデータの活用やその継承に込める想いについて、ユーカリヤ代表取締役の田村賢哉氏と、パソナテックDXソリューション事業部の小野寺悟と杉浦美岐が語り合った。
同じ視座で事業を生み出す
会社のご紹介をお願いできますでしょうか。
田村氏:私たちユーカリヤは、これからの未来に必要な次世代データベース技術を、誰でも使えるような形で提供する研究開発型のスタートアップです。3次元の地理空間情報をプログラミングなしで簡単に作成できるシステムをはじめ、さまざまなデータのアーカイブシステムを開発することで、利用者の知的活動や記憶の継承、そして新たな文化の創造を目指しています。
小野寺:あらゆる形式のデータを保存し、そしてそれらを生かしていく事業を展開されていらっしゃるわけですよね。
田村氏:そうですね。この事業はもともと、僕が大学院で行っていたデータのアーカイブに関する研究内容が出発点となっています。今の日本では残念ながら、若手研究者が十分な研究費を集めるのがかなり難しい状態にあります。そこで、会社を設立し資金調達を行うことで研究を継続していこうと考え、2017年に株式会社Eukaryaを設立しました。
田村 賢哉 氏
株式会社ユーカリヤ 代表取締役
小野寺:ユーカリヤさんと、この度協業した私たちパソナテックとしては、これからの社会課題を解決するうえで、ユーカリヤさんが研究開発されている次世代データベース技術に非常に大きな可能性を感じています。一方のユーカリヤさんとしては、どのようなことを期待されていますか?
田村氏:率直に申しますと、僕たちが日々作り上げている次世代データベース技術の活用方法やニーズを探るうえで、パソナテックさんから色々と知見をいただきたいと考えたのが、協業を決めた第一の理由でした。僕たちはこれまで研究開発に最も重きをおいてきたため、次世代データベース技術の使い方を的確に提案できていないことがネックになっていて。そこで、パソナテックさんとの協業を通じて、幅広い可能性を探っていきたいと考えたんです。
小野寺:たしかにパソナテックでは、教育や防災、位置情報そして福祉など幅広い分野でさまざまな方と共創してきましたので、ユーカリヤさんともぜひ、一緒に色々な挑戦をしていけたら嬉しいですね。
小野寺 悟
株式会社パソナテック
DXソリューション事業部
エグゼクティブビジネスプロデューサー
DX事業のビジネスプロデューサー責任者
田村氏:ありがとうございます。あとは、都市だけでなく地方でも事業を展開していらっしゃることや、年代や性別を問わずに働きがいのある仕事を創出することを大切にされているパソナテックさんとであれば、同じ視座で事業を展開できるのではと考えた側面もありました。たとえば、今話題の「スマートシティ」の実現にあたっては、データの入力や管理において、在宅で子育て中の方も業務に携わることができるようになると考えています。そういった部分でも、パソナテックさんとの協業は相性が良いように感じたんです。
オープンソースのテクノロジーを土台に、 これからの街づくりを考える
なぜRe:Earth(リアース)の開発に着手したのでしょうか。経緯を教えてください。
田村氏:僕たちはもともと、東京大学の研究室で、広島の被爆者の方々の記憶や想いを後世に残すために、デジタル地図上に証言を残す取り組みを行っていました。そして、研究の一環で色々な方にお話を伺っていた際に、同じ空間に被爆者がいる時といない時では、想いの伝わり方が全く違うということに気づいたんです。
同じテーマを扱っていても、当人がいるかいないかで、雰囲気やその場の質感が大きく変わってしまいます。今は「ビックデータの時代」と言われているものの、質感や文脈も含めて記録や保存、そして再現できていないことが非常に多い。そこで、コンピューターのデータベース自体をアップデートできないか、と考えるようになりました。
小野寺:なるほど。実は僕ももともとエンジニアだったので、ITの世界で歴史あるデータベース構造が抱える課題であったり、田村さんの着眼点というのは、本当に素晴らしいなと感じました。
田村氏:いえいえ、ありがとうございます。ですがそうしてデータベースのアップデートに可能性を見出した一方で、データベースそのものとしては、ビジネス化が難しいとされています。だからこそ僕たちは、データ自体が価値になる分野に焦点を当てて事業を作ろうと考え、まずはスマートシティに着目しました。スマートシティは、ありとあらゆるデータや情報を集めて、それらを活用し、社会を豊かにしていく取り組みです。そこで、僕たちは次世代データベースの技術のノウハウを応用し、コーディングなしで位置情報アプリケーションを作成し、公開できるプラットフォームRe:Earth(リアース)を東京大学と共同で開発しました。
小野寺:コーディングの必要がない、いわゆるノーコードというのは大きな特徴ですよね。
津波時の浸水エリアと、避難所の位置をRe:Earth上に表現 都市や地方が持つ地理空間データをもとに、バーチャル空間上に街を再現
災害時における被害状況、津波時に利用可能な高台の避難所の確認、避難ルート想定などのシミュレーションから地域の避難マニュアルを作成するなど、持続可能なスマートシティの実現を支援します。
リアースはどのような技術なのか、改めてもう少し詳しくお伺いできますでしょうか。
リアースは今後どのようなシーンで活躍すると想定されますか。
田村氏:そうですね。リアースは、たとえば地方創生や防災対策など、色々なジャンルに使うことができますが、分野によって必要な機能は異なりますので、それぞれにあったプラグインを作成、応用できるようにした点が主な特徴です。皆さんの中には、Google Earth(グーグルアース)との違いがわかりづらいと感じる方もいらっしゃるかと思いますが、自身で機能を拡張できることや、IoTセンサーと組み合わせられる点などが大きな違いです。今後は観光や地方創生をはじめ、地方の自治体や企業さんに活用いただくことで、地方での新たな雇用と経済活動の創出にもつなげていきたいですね。
杉浦:地方に新たな雇用を作る重要性は、私もすごく感じています。スマートシティをはじめ、リアースは色々な可能性を秘めていると思いますので、ユーカリヤさんと一緒に楽しく前向きなサービスをつくっていきたいですね。
小野寺:これからパソナテックでは、ユーカリヤさんと共に、リアースを活用して地域課題の解決を目指すスマートシティソリューション「Civic Earth(シビックアース)」を本格的に提供していきます。これは、都市や地方の地理空間データをもとに、バーチャル空間上に街を再現し、人流に沿った適切な街づくり計画の策定や、災害時における浸水状況のシミュレーションから地域の避難マニュアルの作成などが可能になるサービスです。今後はデジタルを活用して効率的に課題を解決し、持続可能なスマートシティの実現を目指していきます。
自分たちの手で、残したい未来をつくるために
今後の『Civic Earth』のビジネスモデル展望について教えてください。
田村氏:データベースが抱える現状の課題については先ほどお伝えした通りですが、個人的には、スマートシティやメタバース(仮想空間)をはじめ、新たな技術や概念に関わるサービスが東京に集中していることにも課題を感じています。これをグローバル規模で捉えると、最新技術やその投資というのは、先進国に中心に集まっています。もちろん最近は、日本も地方創生に力を入れていますが、蓋をあけてみると、仕事の発注先は東京の企業であるという場合も少なくはありません。ですが僕たちは、IT技術はどこでも誰でも使えるものであるからこそ、リアースやシビックアースを用いて地方に仕事を作り、雇用を生み、新たな人の流れをつくっていきたいと考えているのです。
小野寺:田村さんのおっしゃるように、私もこれからは「東京や首都圏の目線」だけで物事を捉える必要はないと思いますし、パソナグループとしても地方創生に力を入れているのは、田村さんと同じ課題意識を持っているからです。そのなかでユーカリヤさんの場合は、海外にも開発メンバーがいらっしゃったりと、非常にユニークなチームを構成されていますよね。
田村氏:そうですね。僕たちは、テクノロジーは全ての人に開かれるべきだと考えています。そのため、これまでに僕たちが開発してきたソフトウェアは、オープンソースにこだわってきました。ただ、いくらテクノロジーをオープンソースにしていても、そのツールを使う人が十分な教育を受けていなければ、またそもそものネットなどのインフラ環境が整っていなければ利用できません。なので僕たちは、最も過酷な環境にある難民キャンプにいたエンジニアを第一号社員の仲間として巻き込み、一緒に開発をしています。僕はこの世界のありとあらゆる情報を保存し、後世に残していきたいと考えています。そのためには「残したい」と思えるような、あたたかい世の中であってほしいと切に願っています。だからこそユーカリヤでは、この先も最先端の技術開発だけでなく、最先端の技術を取り巻く環境の改善にも力を入れて、自分たちの手で残したい未来を作っていきたいと思います。
小野寺:その素晴らしいビジョンにご一緒できるよう、パソナテックとしてもこれから色々な取り組みを進めていきたいと思います。田村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
※2022年10月1日、株式会社パソナテックは株式会社パソナを承継会社とする吸収分割を行いました。
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