はじめに
さまざまな都市で再開発や建物の立て直しが進んでいますが、特に最近は東京の渋谷駅や新宿駅の再開発計画が話題になることが多く、皆さまもニュースなどで耳にされているかと思います。
惜しまれつつ閉店をした新宿西口の小田急百貨店新宿本店や、渋谷駅の東急百貨店は特に話題になっていました。
今回は2030年前後に竣工を迎える話題の建物について、その背景やリニューアル計画についてご紹介、ポイントを解説します。
2030年までに建て替えられる建物
新宿駅西口 小田急百貨店新宿本店の跡地
長きにわたって人々に愛されてきた小田急百貨店新宿本館は50年以上の歴史に幕を閉じ、2022年9月末に閉館しました。
今回の閉館は国家戦略特別区域の都市再生プロジェクトである「新宿駅西口地区開発計画」に伴うもので、2029年に再開発ビルが誕生する予定とのこと。小田急電鉄、東京メトロが共同で発表したリリースによると「駅とまちの連携を強化する重層的な歩行者ネットワークやにぎわいと交流を生み出す滞留空間を整備するとともに、災害時の帰宅困難者支援等による防災機能の強化、最新技術の導入等による環境負荷の低減に取り組んでいく」(引用:『新宿駅西口地区の開発計画について』)としています。
整備方針は以下の通りです。
<計画における整備方針>
(1) 新宿グランドターミナルの実現に向けた基盤整備
・ 駅とまちの連携を強化する重層的な歩行者ネットワークを整備します。
・ にぎわいと交流を生み出す滞留空間を整備します。
・ 人中心の駅前広場整備へ協力します。
(2) 国際競争力強化に資する都市機能の導入
・ 交流・連携・挑戦を生み出すビジネス創発機能を整備します。
(3) 防災機能の強化と環境負荷低減
・ 帰宅困難者支援や面的な多重エネルギーネットワークの構築による防災機能を強化します。
・ 最新技術の導入等による環境負荷低減に取り組みます。
高層部にはハイグレードなオフィス機能、中低層部には新たな顧客体験を提供する商業機能を備え、新宿グランドターミナルの一体的な再編を象徴する大規模開発となる予定です。
再開発の理由の一つは1960年代の高度経済成長期の整備から時間が経ち、建物の老朽化が進んでいることです。なかには半世紀余りが過ぎた建物もあり、安全性の懸念がありました。さらに、鉄道が増えたことによって駅の構造は「巨大迷路」と言われるくらい複雑になっていて、ビジネス街として分かりづらい構造に不満の声も多かったようです。
再開発後は、東西の移動がスムーズになる他に、車の導線と歩行者の導線が見直され、初めて訪れた方でも迷わない、便利で分かりやすい構造に生まれ変わる予定です。
渋谷駅 東急百貨店の跡地
幅広い年代層から愛され、渋谷を代表する商業施設の一つであった東急百貨店本店が2023年1月末で閉店しました。そして、東急株式会社は2027年竣工に向けて、渋谷の新たなランドマーク「Shibuya Upper West Project」を始動したことを発表しました。このプロジェクトは東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店の3社共同で進められているものです。渋谷の賑わい、松濤の静謐な住宅地、独自のカルチャーが息づく奥渋エリアの結節点に位置し「Tokyo‘s Urban Retreat」というキーコンセプトのもと、都会の喧騒のなかに安らぎと寛ぎを提供する計画がなされています。
また、東急グループとL Catterton Real Estateが掲げる持続可能な開発目標の達成に向けて、環境とサステナビリティに配慮した国際認証などの取得を目指しているようです。建物の構造としてウェルビーイングを体験できる空間も提供する予定で、非常に注目度の高い取り組みです。
スマートシティ要素を取り入れた建物
時代に合わせた、サステナブルな木造建築(東京海上日動ビル本館・新館)
東京海上ホールディングス株式会社は昨年10月、東京海上日動ビル本館および新館を立て替えて建設する新・本店ビルのデザインと基本設計を発表しました。
デザイン上の重要な役割は木材が担っていて、構造部材である柱や床に国産木材をふんだんに使い、木の使用量が世界最大規模となる高さ100mの「木の本店ビル」として生まれ変わります。
木材は、成長の過程でCO2を吸収・貯蔵する機能を持つ、環境にやさしい優れた建築素材とされていて、新・本店ビルは、一般的なビルに比べて建築時のCO2排出量を3 割程度削減できます。
また、高効率の設備や省エネルギー性に加えて環境保全などメリットの多い「地域冷暖房」の採用、使用電力に100%再生可能エネルギーを導入するなどの施策により、省エネルギーの推進、脱炭素社会の実現に貢献します。
最新技術の耐火国産木材を用いることにより、我が国の林業の再生や地方における雇用の創出、地方創生、地域循環型経済の構築に寄与することを目指しています。
交通の便と豊かな緑の共立(大阪駅 うめきたエリア)
2022年4月の閣議決定により茨城県つくば市とともにスーパーシティ型国家戦略特別区域に指定された大阪市は「まるごと未来都市」の取り組みを進めています。
2024年の夏頃に先行で街びらきをする「うめきた2期」は、更地をゼロから設計・建設するグリーンフィールド型の開発です。2027年に全体開業予定で、オフィスやマンション、商業施設、公園などからなる次世代都市と言われています。
“みどりとイノベーションの融合拠点”がコンセプトで、広大な都市公園が最大の特徴です。
開業に向けて、複数分野の先端的サービスや大胆な規制改革などによってスーパーシティを実現していくようです。
大阪のスーパーシティ構想が掲げるテーマは「データで拡げる“健康といのち”」ということで、以下の3段階のフェーズで実現を進めていくと発表しています。
(1) 万博開催前の段階では、AI分析などによる健康増進プログラムの提供、工事を円滑に進めるための作業員の健康管理や気象情報などのAI解析など
(2) 万博開催時に大阪パビリオンで未来医療が体験できるサービスの提供や自動運転車の実装、空飛ぶクルマの運航など
(3) 万博開催後には、データ連携基盤を通じて、健康・医療・介護・スポーツなどのあらゆる分野のサービスをつなぎ、より便利な健康管理を実現、空飛ぶクルマの日常普及など
スーパーシティに指定されたことで、うめきた2期区域の発展に行政機関がどう関わっていくのかに関しても注目が集まっています。
パソナのスマートシティの取り組み「Civic Earth(シビックアース)」
ここまでにご紹介した建造物はスマートシティの視点を取り入れているものが多く、IT技術の活用によって豊かでより便利な仕組みを期待されている建物が多くあります。
パソナでは、人々が豊かに暮らし続けられる持続可能な街づくりを支援する、スマートシティソリューションを展開しています。
「Civic Earth(シビックアース)」とは、デジタルツイン技術を活用して、現実(フィジカル)空間を、仮想(サイバー)空間に再現することで、現実空間で難しいシミュレーションを可能にします。災害対策や温暖化対策など、社会課題の解決までの時間や労力を大幅に短縮することができます。
例えば「災害対策」です。
予算不足や防災対策の不備、専従する職員不足などその企業や地域によってさまざまな課題があると思います。デジタルツインを使い、仮想空間のシミュレーションを行うことで、災害時の潜在的リスクや、避難計画を三次元的に可視化することができます。仮想空間でのシミュレーションによってあらかじめ被害規模の把握とその対策ができるため、迅速な対応と大幅なコスト削減が実現可能になります。
詳しくは、ぜひユースケースをご確認ください。
まとめ
渋谷、新宿の百貨店跡地の再開発やスーパーシティ型国家戦略特別区域の取り組み以外にも、国内のさまざまな場所で建物の建て替えや大規模開発が進められています。どちらの取り組みも、サステナブル・SDGsの視点を大事にしているものが多く、特にみどりとイノベーションの融合や、にぎわいと憩いの融合といった最新技術を活用してこそ実現できるような都市開発が多い印象です。
特に、2025年の大阪・関西万博に向けての再開発や新技術・新サービス導入を進めている大阪地区の取り組みは、日本のみならず世界からも注目を集める大きなプロジェクトです。空飛ぶクルマをはじめとする、さまざまな最新技術の活用は今後わたしたちの生活を変えていくでしょう。