はじめに
総務省が2020年に実施した「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究」によると、何らかの形でデータ活用を行っている企業は大企業が約9割、中小企業でも過半数を超えていることがわかりました。この結果からも今やビジネスの成長とデータ活用は切り離せない関係ということがわかります。
さらに、IT技術の進化により、取得できるデータの種類やその活用方法の幅は広がりをみせ、どのような業種においてもデータ活用ができる環境が整いつつあります。
そこで今回はビジネスで重要な役割を持つデータ活用について、社内でデータ活用を進めるコツや今すぐ取り入れられるデータ活用事例のご紹介をいたします。
データ活用に取り組むメリットと心構え
データ活用のメリットについてご紹介します。企業によってさまざまですが大きく3つの効果があげられます。
事業戦略の立案・検証
社内外のデータを用いて分析することで、業界におけるポジショニング、自社の現状把握や課題を発見することができるようになります。課題を明らかにすることで、どういった戦略やアクションを取るべきか検討することができるようになります。また、戦略を実施した場合に本当に効果が出ているのか効果検証が可能になります。
意思決定のスピード向上
長年の経験や勘などの個人的主観に依存した定性的なデータでは、それが本当に正しいかは誰にも判断ができず、意思決定する際は多くの人とすり合わせする必要があります。信頼できる数的根拠を持った定量的なデータを用いることで、事実を正しく客観的に分析することができるようになります。このように主張を支える根拠のある情報は、意思決定を迅速に行うために非常に有効です。
業務効率化・コスト削減
業務をデータで数値化することによって、見落としていた問題点やボトルネックとなっている業務を改善することで業務効率化・コスト削減を実現することができます。
市場の動向やトレンドなどの常に変化する情報は、予測をすることが難しくなるため、データの鮮度を意識し、常に情報を取得することが重要となります。日々の業務のなかで常に最新のデータを取得するための環境を整備したり、外部から購入したりするなどの取り組みが必要です。短期的ではなく長期的に取り組んでいく心構えをしておきましょう。
社内でデータ活用を進めるコツ
社内でデータ活用を進めるためには、経営層の理解およびデータ活用をスムーズに行える環境を整えることが大切です。
そのため、経営層による理解と活動支援は不可欠です。実現したいビジネスモデルや解決したい経営課題の提示、なぜデータ活用が必要なのかを経営層から全社員へ説明いただくことがデータ活用の推進に有用です。また、データ活用には複数の部署が連携するケースも多くあります。部署ごとに異なるデータを扱っていると、企業全体でのデータ活用推進の阻害要因になります。本格的に取り組みを始める前にデータ活用を推進するチームの編成や、データサイエンティストの雇用などの推進しやすい組織体制、データを蓄積するサーバーなどの設備投資の環境を整備しましょう。環境を整備してもデータを適切に活用できなければ失敗に終わってしまうため、説明会や勉強会を実施し、理解を深めていく努力が必要です。
データ活用の注意点
データ活用において、顧客情報や社外秘の技術情報などは特に取り扱いに注意が必要です。もし情報が漏えいした場合は顧客からの信頼を失います。さらに、模倣品など被害の拡大など、最悪の場合には事業の継続が困難になることもあり得ます。そのため企業はセキュリティ対策を厳重に行う必要があります。データの保管方法には十分な配慮をし、取り扱いにはルールを設けるなど慎重に行わなければなりません。
近年実施された最新のデータ活用事例
データ活用に用いる情報は、AI/IoT(※)、ロボット、ビッグデータなど、デジタル技術の進展によって、その種類や活用の場面が拡大しています。
(※)AIとIoTについて詳しく知りたい方は、以下のコラムにてご紹介しています。
⇒AIとIoTの相乗効果が業務やビジネスにもたらす影響について
ここで、近年実施された最新のデータ活用事例をご紹介いたします。
製造業界×IoT
自動車部品メーカーである株式会社デンソーは、世界にある130カ所の工場をひとつのプラットフォームでつなぎ、各工場のさまざまな機器から収集したデータを活用しています。従来取得していた設備の稼働状況だけではなく、作業員の動きなどもIoT技術を用いてデータを取得することによって改善点を発見し、業務やコストの最適化を実現させました。
金融業界×SNS
野村證券株式会社は、Twitterでのツイート内容をデータとして、景況感指数(現在の景気や今後の景気動向に対して消費者がもつ感覚)調査を行っています。Twitterでのツイート内容(テキストデータ)をAIに学習させて指数化し分析することで、手間とコストを抑え景況感指数調査を把握することに成功しました。
農業×画像
株式会社伊藤園と富士通株式会社は、画像解析により茶葉(茶芽)の摘採時期を判断する技術を共同開発しました。およそ2年をかけて契約産地の一部で撮影した約4,000枚の茶葉の画像をもとに、色味調整など加工を施した合計約8,500枚の画像を用いてAI学習を行いました。この技術により、茶畑で茶葉をスマートフォンで撮影するだけでアミノ酸量と繊維量を推定でき、茶葉の摘採時期を簡便に判断することができるようになりました。茶農業の後継者育成や新規で茶農業に参入するハードルを下げるための「持続可能な農業」の推進に貢献しました。
EC業界×AI
巨大なECモールである楽天市場は、1億以上の膨大な顧客データが集約されます。そのなかで購買実績があるユーザーの属性・購買傾向・楽天グループサービス内の利用傾向などを含む約920項目のデータを分析・スコア化し、マッピングして購買見込みユーザーの予測をします。その予測結果をもとに精度の高いユーザーに広告配信を行うことで精度の高いターゲティングを可能にしました。
まとめ
データ活用をすることで、業務効率化やコスト削減が成功するだけではなく、新しいビジネスへの挑戦や既存の商品・サービスの改善に役立てることができます。データ活用は短期間で成果が出るとは限りません。長期的な目線で目標を立てて取り組みましょう。
また、取得したデータは会社の資産です。特に顧客情報などは外部に漏洩しないように厳重なセキュリティ対策が必要になります。
近年は技術の進歩によって取得できるデータの種類や活用場面が拡大を続けています。データ活用は、基本的にはどのような業種でも実践可能です。ぜひこの機会に自社でも取り組めることがないか検討を始めてみてはいかがでしょうか?
【事例掲載企業一覧】
・製造業界×IoT :DENSO
・金融業界×SNS :NOMURA
・農業×画像 :富士通株式会社
・EC業界×AI :楽天グループ株式会社