昨今、業種・業態を問わず、あらゆる産業において最新のデジタル技術を駆使して新たなビジネスモデルを展開する企業が増加しています。既存企業においても競争力を維持・強化することを目的とした「デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション:DX)」は企業間の競争を勝ち抜くために不可欠な存在となっています。
コロナ禍によってビジネス環境は大きく変化し、さらにDXの取り組みは一段と加速しました。
一方で、すべての企業がDXによって効果をあげているわけではありません。効果をあげることができていない企業には、DXを推進する上でいくつかの共通した課題があります。
本資料ではその課題を解消し、DXを推進していく上での重要なポイントを解説します。
国内企業のDXへの取り組み
一般社団法人日本能率協会(JMA)が企業経営者を対象に行った「当面する企業経営課題に関する調査」をまとめた「日本企業の経営課題2021」をもとに、日本の企業のDX推進の現状を解説します。
各社におけるDXへの取組状況について尋ねたところ、2020年と2021年を比較し「すでにDXに取り組んでいる企業」は45.3%でした。昨年の28.9%より大幅に増加していることから日本の企業のDXへの取り組みは、着実に進んでいることがわかります。このような結果となったのは、これまでのDXへの関心の高まりに加えて、コロナ禍によってデジタル技術を活用したビジネスモデルへの転換が進んでいることが背景にあると思われます。
DXの取り組みを始めている企業において、大企業では6割超と高めになっているほか、中堅企業でも45%となっています。中小企業では、取り組みを始めている企業は3割弱に留まるものの「検討を進めている」「これから検討する」の合計が55.4%となり、関心の高さがうかがえます。従業員規模別に見ると、大企業では65.5%と高めになっているほか、中堅企業では45%、中小企業では27.7%がすでにDXに着手しています。企業規模が大きいほど、DXへの取り組みが進んでいるようです。
また「既に取り組みを始めている」と回答した企業に成果状況を尋ねたところ「おおいに成果が出ている、成果が出ている」と回答している企業は全体のわずか18.3%でした。「ある程度の成果が出ている」と回答した企業は40.6%でした。
全体でみると成果が出ている企業は58.9%という結果から、多くの企業がDX推進の途上にあることがわかります。また、この傾向は大企業や中小企業など企業規模に関わらず、あまり変わりはないようです。
国内企業のDX推進を阻む課題
なぜ、すべての企業がDXで成果を出すことができないのでしょうか?
理由としては、次の3つの課題があげられます。
課題1 戦略的なIT投資に資金を割り当てられていない
経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討~ ITシステムに関する課題を中心に ~」によると、日本企業では現在、IT関連費用の9割以上が老朽化したシステムの維持管理費に充てられており、何度もシステム改修を繰り返すことでプログラムが複雑化したり、担当者の変更が続いてブラックボックス化したりすることで、IT関連費用は長期的に保守・運用費が高騰する「技術的負債(Technical Debt)」となっています。
技術的負債は将来にわたって企業にIT予算やIT人材の負担を強いるため、企業のビジネス競争領域への投資を不十分にさせています。技術的負債によって予算を「守りのIT投資」に利用されてしまうため、DX推進による「攻めのIT投資」に予算を振り向けることができない要因となっています。
DXに関する経営者の関与が高いアメリカと比較すると、日本企業は「攻めのIT投資」ではなく「守りのIT投資」に偏重していることが示されています。
課題2 DXに対する具体的なビジョンや経営戦略が不足している
DXの推進はただ業務をデジタル化すれば良いというものではなく、企業全体を見据えて経営戦略を描きDXを通してどのようにビジネスを変革していくのかというビジョンを持つことが必要です。
経済産業省のDX推進ガイドラインではDX 推進のための経営のあり方、仕組みとして「DX を実現していく上では、デジタル技術を活用してビジネスをどのように変革するかについての経営戦略や経営者による強いコミットメント、それを実行する上でのマインドセットの変革を含めた企業組織内の仕組みや体制の構築等が不可欠である。」と明記されています。経営者が明確なビジョンがないのに、部下に丸投げして考えさせている、戦略なき技術起点の PoC は疲弊と失敗のもととなるケースが発生している企業も少なくないのではないでしょうか。
課題3 DXを推進できる人材が不足している
多くの企業では「DX 推進に関わる人材が不足している」ことが課題にあげられています。すでにDXに取り組んでいる企業でも、DX人材の獲得・育成が急務の課題になっています。
経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、IT人材は2030年までに、最大で79万人不足すると経済産業省が発表しています。特にビッグデータやIoT、AI、クラウドなどにかかわるIT技術を持つ「先端IT人材」の確保はさらに難しくなると予想されています。世界中におけるデジタル環境が加速化する中で、企業が後れをとらないためにIT人材の育成・獲得はDXを推進する上で大きな課題となります。
DXを成功させるための3つのポイント
DXの推進を阻んでいる、3つの課題を解消するポイントを解説していきます。
ポイント1 戦略的に一貫性を持ったシステム刷新を推進する
日本企業のITシステムは老朽化、複雑化、ブラックボックス化した個別のシステムを複数所持しているケースが散見され、それらシステムの連携ができず、データの活用を妨げています。また、レガシーシステムを刷新して新しいシステムを導入したい場合に一部の部署のみで実施してしまうと、個別のツールを選定したり、散発的にPoCを実施したりと、全社的に活用できる形でデータを持ったシステムが作られずに終わってしまうことが多くあります。
DXを成功させるためには、現在の情報資産を分析・評価し、現在の情報資産やIT資産を評価し、必要なものと不要なものを分けましょう。
更に、一貫性を持ったシステムが構築されれば、全社を通してシームレスにデータを活用できるようになり、企業の競争力が向上することが見込まれます。
ポイント2 DXで実現したいことを、ビジョンや経営戦略で明確にする
DXを成功させるためには経営層によって各事業部門に対して、DXが経営戦略やビジョンの実現と紐づけられた形で明確にする必要があります。
またDXの促進の成果は短期間で現れるものではありません。
経営層は、各事業部門において新たな挑戦を積極的に行っていくマインドセットが醸成されるような環境、経営戦略やビジョンの実現を念頭に、それを具現化する各事業部門におけるデータやデジタル技術の活用の取り組み推進・サポートするDX推進部門の設置等、必要な体制が整えられているか、などの新しい挑戦を促し、かつ挑戦を継続できる環境を整えることも重要になってきます。
DXの促進の成果は短期間で現れるものではありません。
企業全体をデジタル化して企業文化まで変革することを目指し、長期的な視点で取り組みましょう。
ポイント3 DXを推進できるIT人材の育成・確保
DXの推進には、DX人材の育成と確保が不可欠です。人材を確保するためには、自社内でデジタル技術を持つ社員を採用するか、既存の社員にデジタル教育を行うかの2つの方法があります。DX 推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保ができる体制にない企業は、外部から外注により専門性の高いIT人材を活用する方法もあります。
外部からIT人材を外注することで、不足しているリソースのみを補い、ミスマッチを防ぐだけでなく、従来かかってしまっていた採用・管理コスト削減も可能です。
まとめ
日々、ビジネスを取り巻く環境が変化する中、多くの企業が生き残りを賭けて日本企業の多くがDXに取り組んでいます。しかし、大きな成果をあげられていない企業が多いのが実情です。成果があがらない企業には、IT関連予算の不足、ビジョンや経営戦略の欠如、人材不足など、共通の課題があります。DXを推進するには、これらの課題を解決することが必要です。
DX推進の成功のためには時間・予算・企業体制など様々な観点でクリアしなくてはならない重要ポイントが存在します。DX推進部門や担当者任せにするのではなく、自社の存在意義が何かを、経営層と現場の社員が一緒になって考え直すことから始めてみましょう。