DXコラム

DX推進はどこから始める?レガシーシステムを刷新するモダナイゼーションの進め方を解説

#業務改善 

2025.12.23
システム開発 DX クラウド

DX推進はどこから始める?レガシーシステムを刷新するモダナイゼーションの進め方を解説

はじめに

企業の成長戦略において、DX推進は不可欠な要素となりつつあります。しかし、多くの企業が抱えるレガシーシステムは、その足かせとなりかねません。老朽化したシステムを抱えながら、どのようにDXを実現すれば良いのでしょうか。
本記事では、レガシーシステム刷新のためのモダナイゼーションについて、その必要性から具体的な進め方までを徹底解説します。現状分析、戦略策定、システム刷新、効果測定というステップを順番に確認して貴社のDXを成功に導きましょう。

DX推進が思うように進まない…その原因は老朽化したシステムかもしれません

DXは、今日の企業経営において喫緊の課題と認識されています。しかし、多くの企業でDX推進への取り組みが始まっている一方で、期待通りの成果が出ていない現状が見受けられます。例えば、ある調査では97%の企業が何らかのDXに着手しているものの、その進捗度にはばらつきがあり、約半数の企業が一部での実施に留まっていることが示されています。また別の調査では、DXの目的として「既存業務の効率化」が59%と最多である一方「ビジネスモデルの変革・創造」を掲げる企業はわずか7%にとどまっており、本来目指すべき変革が十分に果たせていない実態が浮き彫りになっています。

こうしたDX推進の足かせとなっている大きな要因の一つが、長年使い続けられ、複雑化・ブラックボックス化した「レガシーシステム」である可能性が高いと言われています。経済産業省が「2025年の崖」として警鐘を鳴らしているように、この問題を放置すると2025年以降、年間最大12兆円もの経済損失が生じると試算されています。2025年には、21年以上稼働しているシステムが全体の6割を占めるという予測もされており、レガシーシステムの問題は多くの企業にとって避けて通れない課題です。

レガシーシステムが引き起こす具体的な問題点は多岐にわたります。例えば、部門ごとに情報が分断され、横断的なデータ活用が困難になる「データのサイロ化」が進むことで、ビジネス上の意思決定や新たな価値創造の機会を逸失します。また、最新のクラウドサービスやAI、IoTといった先端技術との連携が難しく、新技術導入の大きな障壁となり、結果としてデジタル競争力低下の要因となります。
さらに、老朽化したシステムの保守・運用には多大なコストがかかり、IT予算の多くが既存システムの維持に費やされ、新規投資に回す余裕がなくなるという「高額な維持コスト」の問題も深刻です。セキュリティ面では、古いシステムは現代のサイバー攻撃に対する脆弱性が高く、情報漏えいや大規模なシステム障害のリスクを増大させます。

また、度重なる部分改修によってシステムが複雑化し、特定の担当者しか全体像を把握できない「ブラックボックス化」や「属人化」も進行します。これにより、変更や拡張がさらに困難になり、IT人材不足も相まって悪循環に陥るケースも少なくありません。
これらの課題を放置し続けることは、企業の競争力を著しく低下させ、事業継続そのものに深刻な影響を及ぼしかねません。企業が持続的な成長を遂げるためには、レガシーシステムの問題に正面から向き合い、抜本的な解決策を講じることが不可欠です。

そもそもモダナイゼーションとは?DX推進との関係性を整理

モダナイゼーションとは、老朽化した既存のIT資産(レガシーシステム)を、現代のビジネス環境や技術動向に合わせて最適化・最新化する取り組みです。これは単なるシステム移行に留まらず、企業の競争力向上と持続的な成長を実現する上で重要なプロセスと言えるでしょう。
DXが目指すビジネス変革やデータ活用、迅速な市場対応は、これらの古いシステムが足かせとなり、効果的に進めることが困難になります。モダナイゼーションは、このような障壁を取り除き、DXを加速させるための強固な基盤を築く上で不可欠な手段です。次項では、DXとモダナイゼーションの具体的な関係性や、類似用語との違いについて詳しく解説していきます。

DXが「目的」でモダナイゼーションは「手段」

DXは、単なるデジタル技術の導入に留まりません。その真の目的は、ビジネスモデルの変革や新たな顧客価値の創造を通じて企業の競争優位性を確立することにあります。市場ニーズの急速な変化に対応し、持続可能な成長を実現するため、企業全体の変革を目指します。
一方、モダナイゼーションは、このDXという目的を達成するための重要な手段として位置づけられます。モダナイゼーションによってデータ基盤を整備し、データが自由に連携・活用できる環境を築くことが不可欠です。単にシステムを新しくすること自体が目的化する「手段の目的化」に陥ることなく、常にDXという最終ゴールを見据える意識が求められます。

「マイグレーション」との具体的な違い

マイグレーションとは、既存のシステム、データ、アプリケーションを新しい環境へ「移行・移設」するプロセスそのものを指す言葉です。代表的な例としては、オンプレミス環境からクラウドへの移行、あるいは古いOSやデータベースから最新バージョンへの移行などが挙げられます。このアプローチでは、システムの基本的な仕組みや機能を大きく変えずに、環境だけを刷新するケースが多いのが特徴です。

このように、マイグレーションは現行システムの安定稼働やコスト削減を主な目的とした「守りのIT投資」としての側面が強いです。インフラの老朽化対策など、既存システムを維持するためのアプローチと言えるでしょう。一方、モダナイゼーションはより広範な概念で、ビジネス価値向上を目指し、クラウドネイティブ化やマイクロサービス化といった新しい技術を取り入れてシステム全体を再設計する「攻めのIT投資」を指します。
ただし、両者は完全に排他的な関係ではありません。モダナイゼーションという大きな取り組みの中で、システムを新しい環境へ移行するマイグレーション(特に「リホスト」と呼ばれる手法)が、その実現に向けた具体的な手段の一つとして位置づけられることもあります。したがって、目的とアプローチに応じて適切な手法を選択することが重要です。

自社に合う方法はどれ?代表的なモダナイゼーション5つの手法を比較

モダナイゼーションのアプローチは多岐にわたり、それぞれが異なる特性を持っています。
ここでは、代表的なモダナイゼーション手法として「リホスト」「リライト」「リファクタリング」「リアーキテクチャ」「リプレイス」の5つを挙げ、その特徴をまとめました。
これらの各手法について、具体的な内容、メリット・デメリット、そしてどのような企業やシステム状況に最適であるかを詳しく解説します。

手法1:リホスト(現行システムを新しい環境へ移行)

リホストは、既存アプリケーションのソースコードやアーキテクチャにはほとんど手を加えずに、システムを稼働させているインフラ(サーバー環境)のみを新しい環境、特にクラウドへ移行する最もシンプルなモダナイゼーション手法です。このアプローチは「リフト&シフト」とも呼ばれ、手軽にクラウド環境へ移行できるのが特徴です。
最大のメリットは、他の手法と比較して低コストかつ短期間で実施できる点です。例えば、リビルドと比較して開発期間を短縮し、システム維持費を半減できた事例も報告されています。オンプレミス環境におけるハードウェアの老朽化や保守切れといった問題を迅速に解決でき、アプリケーションの改修を最小限に抑えることで、移行に伴うリスクも低く抑えられるでしょう。

一方で、デメリットとしては、インフラは新しくなるものの、アプリケーション自体が抱える複雑な構造や機能追加の難しさといった根本的な課題が解決されない点が挙げられます。抜本的なビジネス変革にはつながりにくい点に留意が必要です。
この手法は、以下のようなニーズを持つ企業に特に推奨されます。
• ハードウェアの保守期限が目前に迫っている
• まずはリスクを抑えてクラウド移行の第一歩を踏み出したい
• COBOLなど既存のロジックを大きく変更せずに環境を刷新したい

※なお、「リホスト」は“現状のまま新基盤へ移す”ことから、マイグレーションに近いアプローチです。しかし、クラウド技術活用の初期段階として、多くのITベンダが「モダナイゼーション戦略の入り口/ファーストステップ」と位置づけています。より技術刷新に踏み込む場合は、リライトやリアーキテクチャなど、他の手法を選択することも検討しましょう。

手法2:リライト(プログラム言語を書き換えて再構築)

リライトとは、既存システムの機能や設計は維持しつつ、旧来のプログラミング言語で書かれたアプリケーションを、JavaやPythonといった現在も広く利用されている開発言語に書き換える再構築手法です。この手法を用いることで、システムの基盤技術を根本から刷新できます。
主なメリットとして、以下が挙げられます。

• 最新技術との連携が容易になります。これにより、クラウドサービス、AI、IoTなどとの連携がスムーズになり、システムの拡張性や柔軟性が大幅に向上します。
• 処理パフォーマンスの改善や、保守性の向上が期待できます。
既存のビジネスロジックを維持しつつ、特定の言語への依存リスクを解消し、将来の技術進化に対応したい企業にとって、この手法は最適な選択肢となります。
一方で、いくつか注意点があります。プログラムを書き換える際は、既存の処理を完全に理解し、新たなバグを生じさせないよう細心の注意を払う必要があります。大規模なシステムでは、テスト自動化ツールを活用するケースも見られますが、プロジェクトには相応のコスト、時間、そして複雑な計画が伴うことを認識しておくべきでしょう。

手法3:リファクタリング(内部構造を改善し保守性を向上)

リファクタリングとは、システムの外部的な振る舞い(機能)を変えることなく、ソースコードの内部構造を整理し、改善する手法です。主な目的は、いわゆる「技術的負債」を返済し、コードの可読性や保守性を高めることにあります。これにより、将来の機能追加や改修が容易になり、バグの発生率を低減する効果も期待できます。結果として、長期的な開発コストを抑える「保険」のような役割を果たすと言えるでしょう。

他のモダナイゼーション手法と比較すると、リファクタリングは既存のプログラミング言語やアーキテクチャを維持したまま実施できる点が特徴です。そのため、システム全体を刷新するような大規模な変更を伴うことなく、比較的リスクやコストを抑えやすいという利点があります。この手法は、機能的な問題はないものの、コードが複雑化し、わずかな修正にも膨大な時間を要するシステムに特に有効な選択肢となるでしょう。継続的な取り組みを通じて、開発スピードを維持しながら、持続的なシステム品質の向上を実現することが可能です。

手法4:リアーキテクチャ(設計を見直し柔軟なシステムへ)

リアーキテクチャは、既存アプリケーションの機能や外部仕様を維持しながら、その設計(アーキテクチャ)そのものを見直し、再構築する手法です。これは、単にシステムを新しい環境へ移行させるだけでなく、より柔軟で拡張性の高いシステム基盤を構築することを目的とします。
この手法の大きな利点は、将来的なビジネスの変化や新たな技術導入に迅速に対応できる柔軟性や拡張性を獲得できることです。
一方で、システムの根幹となる設計から見直すため、リホストやリファクタリングと比較して、より高度な技術力や専門知識が求められます。また、開発期間が長期化しやすく、それに伴いコストも増大する傾向がある点が課題です。
「現行システムの機能は維持しつつ、将来のサービス連携や機能拡張に備えて基盤を根本から強化したい」といった中長期的な視点を持つ企業に、この手法は特に適しています。

手法5:リプレイス(システム全体を新しく刷新)

リプレイスとは、既存のシステムを全面的に廃棄し、業務要件や最新技術に合わせて、全く新しいシステムをゼロから開発・導入する手法です。これは単なるシステム移行に留まらず、全社的な経営プロジェクトとして位置づけられます。最大のメリットは、レガシーシステムの制約から完全に解放され、ビジネスプロセスに最適化された最新システムを構築できる点です。クラウドコンピューティングやAIといった最新技術の導入により、セキュリティ強化、運用自動化、保守費用削減、ダウンタイム減少が期待されます。

一方で、これは5つの手法の中で最も開発コストと期間がかかる点がデメリットです。初期費用が高額になることに加え、プロジェクト失敗のリスクも高まります。また、リプレイス中の業務停止リスク、データ移行時のトラブル、従業員が新しいシステムに慣れるためのトレーニング費用も考慮が必要です。
リプレイスが最適な選択肢となるのは、主に以下のケースです。
• 既存システムの維持が困難なほど老朽化している場合
• 事業戦略を根本から見直し、ビジネスモデルの変革を目指す場合
ERPリプレイスの成功事例では「標準機能を軸に選定し、カスタマイズを最小化する」アプローチが、コストを抑えつつDXを加速させる鍵とされています。

まとめ:モダナイゼーションはDX推進の第一歩。未来への投資を始めよう

本記事では、DX推進に不可欠なモダナイゼーションについて、その本質から具体的な手法を解説しました。モダナイゼーションとは、老朽化し複雑化したレガシーシステムを、現代の技術とビジネス要件に合わせて最適化する取り組みです。これが、DXという目的を達成するための重要な手段であるとご理解いただけたことでしょう。

「2025年の崖」が示すように、レガシーシステムを放置し続けることは、年間最大12兆円もの経済損失リスクを招き、企業の競争力を著しく低下させかねません。モダナイゼーションは、単なるシステムの刷新やコスト削減にとどまらず、新たなビジネス価値の創出や市場変化への迅速な対応力を獲得するための「未来への投資」と言えるでしょう。
もし貴社がレガシーシステムの維持に疲弊し、DX推進の足かせを感じているならば、今こそモダナイゼーションへの具体的な一歩を踏み出す時です。未来を見据えた賢明な投資が、貴社のDXを加速させ、持続可能な成長と競争力強化へと導くことでしょう。

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