はじめに
近年、多くの企業が事業開発の加速に向けてデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していますが、その成否を握るのは、まさに「DX人材」と言えるでしょう。
事業開発のスピードと複雑性が増すなかで、従来のIT人材や単なるデジタル人材では変化に対応しきれないという声が増えています。特に新規事業やサービスの創出、業務プロセス改革を伴う企業活動において、テクノロジーを戦略的に活用できる「DX人材」の存在は不可欠です。単なるデジタルスキル保有者ではなく、変革をリードできる人材こそが、今の企業にとって最重要の資産となりつつあります。
本記事では、DXを推進し、ビジネスを成功に導くために不可欠な人材について、必要なスキルや役割を徹底的に解説します。さらに企業の取り組み事例を紹介することで、皆様のDX推進の一助となることを目指します。ぜひ、最後までお読みください。
なぜ今、事業開発の成功にDX人材が不可欠なのか
現代のビジネス環境は、予測困難な変化と激しい競争の時代に突入しています。特に、顧客ニーズの多様化は著しく「お客様は皆同じ」という画一的なアプローチでは、もはや消費者の心を掴むことは困難です。健康志向の高まりや環境への配慮など、消費者の価値観は細分化し、企業にはこれまで以上に高度な対応が求められています。これまでの成功体験に基づく「勝ちパターン」の踏襲では、成果を創出しづらくなっているのが現状です。さらに、グローバル化やデジタルシフトの加速により競争環境は激化しており、従来の事業開発手法だけでは企業の持続的な成長が困難になっています。
このような状況下で企業が成長を続けるためには、新規事業の創出や既存事業の変革が不可欠です。その中核を担うのは、データやデジタル技術を最大限に活用するDXの視点です。DXは単なる業務効率化に留まらず、ビジネスモデルそのものを再構築し、企業競争力を抜本的に強化する可能性を秘めています。
しかし、単に最新のデジタル技術を導入するだけでは、DXの真価を発揮することはできません。重要なのは、そのデジタル技術をいかにビジネス価値へと転換し、具体的な成果を生み出すかという点です。このプロセスにおいて、専門的なスキルセットを持つ「DX人材」の存在が、事業開発成功の鍵を握ります。
DX人材は、以下の役割を担います。
・ビジネスの課題をデジタル視点で再定義する
・データを活用した意思決定を促す
・技術とビジネスを結びつける
彼らがいなければ、デジタル技術は単なるツールとして留まり、組織全体の変革には至らないでしょう。企業が持続的な成長を実現するためには、DX人材の育成と活用が喫緊の課題となっているのです。
パソナのDX人材開発支援については以下の資料をご覧ください。
事業開発を牽引するDX人材に必須の役割とスキル
事業開発を成功へと導くDX人材は、単なるデジタル技術の導入担当者に留まりません。彼らは、企業のビジネスモデルを深く理解し、既存の課題をデジタル視点で再定義するとともに、データや先端技術を駆使して新たな価値を創造するという、極めて中心的な役割を担います。そのため、最新のITツールや技術トレンドの把握に加え、事業の成長に直結する成果を生み出す力が求められます。
ビジネスの課題をデジタル視点で再定義する「ビジネス変革スキル」
事業開発を加速させるDX人材にとって「ビジネス変革スキル」は不可欠です。このスキルは、単なる業務効率化や既存プロセスの改善に留まらず、デジタル技術を前提に、企業のビジネスモデルや顧客価値そのものを根本から変革し、新たな価値を創造する能力を指します。DX推進スキル標準(DSS-P)においても、ビジネス変革に関するスキルは重視され、組織変革の核となるものとして位置付けられています。
具体的には、顧客の隠れたニーズや市場の構造変化を的確に捉え「そもそも何を解決すべきか」という本質的な課題を特定する『課題発見・定義能力』が重要になります。DXによって実現したい目標やビジョンを明確にし、既存の枠組みにとらわれず、SWOT分析などのデザイン思考を実践するためのフレームワークを用いて革新的なビジネスアイデアを具体的に構想し、実現可能な計画へと落とし込む力が求められます。これらは、コンセプチュアルスキルでいう「イノベーション力」や「戦略的思考力」に通じるものです。
さらに、新しいビジネスモデルの導入や事業構造の変革には、組織内の抵抗が伴うことも少なくありません。そのため、経営層や関連部署を論理と情熱で巻き込み、部門横断的な連携を促しながら変革を推進する『チェンジマネジメント能力』が不可欠となります。DX推進体制に経営トップや各部署のキーパーソンが関与することで、変革意識が醸成され、組織全体のデジタルシフトを成功に導けるでしょう。
データに基づいた意思決定を導く「データ活用スキル」
事業開発において、これまでの成功体験や「勘・経験・度胸」に頼る意思決定では、変化の激しい現代ビジネスにおいて限界があります。顧客ニーズの多様化や市場の目まぐるしい変化に対応するには、客観的なデータに基づいた判断、すなわちデータドリブン経営が不可欠です。データドリブンなアプローチは、主観を排し、具体的な根拠に基づいて経営判断を下せるため、意思決定の透明性を確保し、事業の成功確率を高めることにつながります。
データ活用スキルとは、単にデジタルツールを使いこなす能力にとどまりません。ビジネス課題を解決するために「データを収集・加工・分析し、有益な示唆を導き出す」一連の総合的な能力を指します。具体的には、SQLを用いたデータ抽出、PythonやRによる統計分析、そしてTableauなどのBIツールを活用したデータ可視化といったスキルが含まれます。
<データ活用スキルの具体的な活用場面>
•市場調査による潜在顧客ニーズの深掘り
•A/Bテストを通じたプロダクト改善
•マーケティング施策の効果測定
収集したデータをすぐに活用できるよう、使いやすい状態に整備しておくことも重要な要素となります。データ活用スキルを持つ人材は、これらのプロセスを通じて、客観的な事実に基づいた事業推進を可能にします。
技術とビジネスをつなぐ「テクノロジー理解力」
事業開発を成功させるDX人材には、最新のテクノロジートレンドを深く理解する能力が求められます。AI、IoT、クラウドといった先進技術が自社のビジネスにどのような影響を与え、どのような機会を生み出すかを把握することが重要です。これにより、市場のニーズに応じた革新的なサービスや製品の開発が可能となります。
このスキルは、技術的な専門知識を持つエンジニアや開発者と、ビジネス部門の担当者との間で「共通言語」として機能します。双方の意図を正確に翻訳し、スムーズなコミュニケーションを促進することで、プロジェクトを円滑に進める上での不可欠な「橋渡し役」を担います。
また、新規事業のアイデアが技術的に実現可能か、どの程度のコストがかかるかを評価する際にも、テクノロジー理解力は大きな力を発揮します。これにより、単なる夢物語で終わらせることなく、より現実的かつ効果的な企画へとアイデアを昇華させることが可能となり、事業の成功確率を高めることにつながります。
他社の事例から学ぶ!事業開発を成功させたDX人材育成の取り組み
企業が実際にどのようにDX人材を育成し、事業変革を実現しているかを知ることは、自社のDX推進を検討する上で極めて重要です。他社の成功事例からは、DX推進における具体的な課題解決のアプローチや、人材育成への投資がもたらす効果を学ぶことができるでしょう。
事例1:【製造業】現場の技術者からデータサイエンティストを育成
大手製造業A社では、長年の熟練技術者の「勘と経験」に頼る品質管理に限界を感じていました。また、膨大な生産データが未活用であるという課題にも直面していました。品質のばらつきや異常発生の見過ごしといったヒューマンエラーのリスクも、背景にあったのです。
そこでA社は、現場の業務知識を持つ技術者のなかから、データサイエンス習得に意欲的な人材を選抜しました。外部の専門機関と連携し、統計学や機械学習といったスキルを学ぶ育成プログラムを実施。これにより、熟練技術者の持つこれまでの知見や専門知識とデータ分析スキルを融合させることを目指しました。
育成された人材は、収集した製造データをもとに、不良品発生の予兆を検知するAIモデルを開発しました。このAIは、過去の稼働データや品質データを学習し、リアルタイムで異常を判定する仕組みを構築。その結果、生産ライン上の早期段階での問題発見が可能となり、不良率の低減と製品品質の安定化に成功しました。さらに、設備異常の予兆検知による計画的なメンテナンスが実現し、ダウンタイムの削減とコスト抑制にも貢献しています。
事例2:【小売業】全社的なリスキリングで新たな顧客体験を創出
小売業B社では、ECサイトと実店舗で顧客データが分断されており、画一的なサービス提供に留まるという課題を抱えていました。オンラインでの購買行動や実店舗での体験が複雑化するなかで、顧客一人ひとりの多様なニーズに応えきれておらず、機会損失が生じていました。また、社内の多くの従業員がAIを含むデジタル技術の活用に不慣れであったため、これらの課題解決に向けたDX推進を阻む要因となっていました。
この状況を打破するため、B社は全社的なリスキリングプログラムを導入しました。全従業員を対象にデータリテラシー研修を実施し、データに基づいた課題発見や意思決定の基礎を浸透させました。さらに、店舗スタッフ向けには、生成AIを含むデジタルツールの活用トレーニングを集中的に実施。オンラインとオフラインの顧客データを連携させ、パーソナライズされた接客を実現するための具体的なスキル習得を促しました。
リスキリングの結果、オンラインでの購買履歴や閲覧データに基づいた、実店舗での個別商品提案といったパーソナライズ接客が実現しました。また、ECサイトでは顧客の趣味・嗜好を分析するAIチャットボットを導入し、問い合わせ対応時間の短縮と顧客満足度の向上に成功しました。データ分析に基づく需要予測の精度向上により、不良在庫を30%以上削減する成果も報告されています。
まとめ:事業開発の未来は、DX人材の育成から始まる
事業開発を成功に導くDX人材の重要性、そして彼らに求められる「ビジネス変革スキル」「データ活用スキル」「テクノロジー理解力」という3つの核心的なスキルセットについて詳しく解説しました。現代の複雑なビジネス環境において、これらのスキルを持つDX人材は、企業の成長戦略に不可欠な存在であるとお分かりいただけたかと思います。
ご紹介した事例からもわかるように、DX人材の確保は外部からの採用に頼るだけでなく、計画的な社内育成によっても十分に実現可能です。
現代において、企業の持続的な成長と競争力強化は、DX人材の育成なくしては成し得ません。2030年には最大79万人ものDX人材が不足すると予測されるなか、各企業が未来の事業開発の成否を握る重要な鍵は、今日から始める人材育成への戦略的投資にかかっていると言えるでしょう。ぜひ貴社のDX人材育成を力強く推進し、新たな事業価値の創出を目指してください。