はじめに
企業の成長を左右するHR戦略において、採用業務の最適化は重要なテーマです。しかし、属人化された採用プロセスや、勘と経験に頼る採用活動は、ミスマッチや早期離職を招き、結果としてコスト増を招きます。
本コラムでは、データを活用し、属人化を解消することで、採用の質と定着率を向上させるための戦略を解説します。現状分析から具体的な改善策、成功事例までご紹介するので、貴社の採用業務を最適化するためのヒントにしていただけますと幸いです。
なぜ今、採用業務の最適化が企業成長の鍵となるのか
現代のビジネス環境において、企業の持続的な成長には優秀な人材の確保が不可欠です。採用活動は単なる人員補充ではなく、企業の未来を左右する重要な経営戦略と言えるでしょう。しかし、少子高齢化の進行により、日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少傾向にあり、2050年には2021年から29.2%減の5,275万人になると予測されるなど、労働市場は厳しさを増しています。さらに、働き手一人ひとりの価値観が多様化し、採用手法も多岐にわたる中で、従来の画一的な採用活動では変化に対応しきれなくなっています。
このような状況下で企業競争力を維持・向上させるためには、採用業務の抜本的な見直しが不可欠です。このセクションでは、なぜ今、採用業務の最適化が求められているのかを、外部環境の変化、内部プロセスの課題、そして求められる人事の役割、という3つの観点から掘り下げていきます。
激化する人材獲得競争と採用手法の多様化
少子高齢化が進む日本では、生産年齢人口(15~64歳)が1995年をピークに減少し続け、2050年には2021年比で29.2%減の5,275万人にまで減少すると予測されています。このような労働力人口の減少に加え、DXの推進に伴うIT・DX人材など特定のスキルを持つ人材への需要が集中しており、業種を問わず人材不足が深刻化しています。IPAの調査によれば、DX推進に関わる人材が足りないと回答した企業は24.8%に上るなど、企業間の人材獲得競争は激化の一途をたどっています。
このような環境下で、従来の求人広告に掲載するだけの「待ち」の採用手法では、求める優秀な人材になかなかアプローチすることが難しくなっています。そこで近年では、従来の「待ち」の採用手法に加え、多様な採用チャネルが活用されるようになりました。具体的には以下のような手法が挙げられます。
・企業が直接候補者にアプローチするダイレクトリクルーティング
・社員の紹介によるリファラル採用
・SNSを活用した採用活動
・オンラインでの採用イベント実施
採用手法が複雑化したことにより、それぞれのチャネルの費用対効果を正確に測定し、自社の採用戦略やターゲット層に最も適した手法を選択・運用する必要性が高まっています。この複雑化する採用環境において、限られたリソースで最大限の採用成果を出すためには、採用業務全体の最適化が喫緊の課題となっているのです。
属人化した採用プロセスが招く非効率とミスマッチ
採用活動が特定の担当者の経験や勘に依存し、評価基準が統一されない場合、採用ミスマッチを招きます。自社に合う人材を見逃したり、早期離職につながる可能性のある候補者を採用したりしてしまうリスクを高めます。実際、ある調査では採用した人材の約30%が入社後にギャップを感じているという結果があります。
また、採用ノウハウや情報が特定の担当者に集中する属人化は、担当者の不在・退職時に採用活動を停滞させ、引き継ぎを困難にします。プロセス全体がブラックボックス化し、データで課題を把握できないため、効果的な改善策を打てず、時間とコストを浪費するのです。
採用ミスマッチは早期離職を招き、大きな損失です。厚生労働省の統計では、新規高卒就職者の約4割、新規大卒就職者の約3割が3年以内に離職しており、再採用・再教育コストだけでなく、既存社員の負担増や士気低下といった悪影響も招きます。
「守りの人事」から「戦略人事」へ
従来の人事部門は、労務管理や給与計算、福利厚生といった定型業務や管理業務が中心的な役割を担ってきました。これらは企業運営に不可欠な機能ですが、主に社内規定の遵守や従業員の管理といった「守り」の側面が強く、経営戦略からは切り離されて遂行される傾向にありました。しかし、社会情勢や市場環境が激しく変化する現代においては、従来の「守りの人事」だけでは対応しきれない課題が生じています。
これに対し「戦略人事」は、企業の経営戦略と強く連動し、人材を単なるコストではなく、企業の重要な経営資源と捉えます。経営目標の達成に向け、どのような人材を確保し、育成し、適切に配置するかを戦略的に考え実行することで、事業成長に直接貢献することを目指します。「経営視点」を持って人的資源の価値を最大限に引き出すことが、戦略人事には求められます。
グローバル化やDXの加速、予測困難なVUCA時代*と呼ばれる市場環境に対応し、企業が競争優位性を維持するためには、この戦略人事への転換が不可欠と言えます。実際、ある調査では、約9割の企業が戦略人事の重要性を認識しているという結果が出ています。採用業務の最適化は、データに基づいた客観的な意思決定を可能にし、人事部門が戦略人事へと進化するための重要な第一歩となります。属人化の解消やプロセスの効率化を通じて、より戦略的な人材活用に時間を割ける基盤を築くことができるでしょう。
*VUCA時代…変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の4つの特性を持つ時代のことです。この時代は、予測困難で変化が激しく、将来の見通しが立たない状況を表しています。
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明日から実践できる!採用業務を最適化する5ステップ
採用業務の最適化と聞くと、何から手をつけて良いか分からないと感じる方もいるかもしれません。しかし、一連のプロセスを分解し、段階的に取り組むことで、着実に改善を進めることが可能です。
具体的には、以下のステップが挙げられます。
・現在の採用プロセスを可視化し、ボトルネックとなっている部分を特定する
・データに基づいた客観的な採用基準を明確にし、社内で共有する
・テクノロジーを活用して、応募者対応などの定型業務を自動化する
・候補者とのコミュニケーションを見直し、体験(CX)を向上させる設計を行う
・具体的なKPIを設定し、PDCAサイクルを回すことで、継続的な改善を図る
これらのステップを通じて、属人化を防ぎ、より効率的で効果的な採用活動の実現を目指します。
【成功事例に学ぶ】データとツールで採用を変革した企業戦略
採用業務を最適化するための具体的な5つのステップが、実際の企業でどのように実践され、確かな成果につながっているのか。本セクションでは、データ活用やテクノロジー導入によって採用活動に変革を起こした企業の成功事例をご紹介します。
採用現場が抱える「採用工数が多すぎる」「なかなか求める人材に出会えない」「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」といったリアルな課題に対し、データに基づいた分析や適切なツールの導入が、どのように効果を発揮したのかを具体的に見ていきましょう。貴社の状況に置き換えて、実践のヒントを見つけてください。
ソフトバンク:AI導入でエントリーシート評価の工数を75%削減
大手企業の新卒採用においては、毎年数万件にも及ぶエントリーシート(ES)の確認作業は、人事担当者の大きな負担となります。ソフトバンク株式会社も、新卒採用における膨大な確認作業に多くの時間と工数を費やしており、これが課題となっていました。この非効率な状況を改善するため、同社はテクノロジーの活用に着目しました。
課題解決策として導入されたのが、IBM社の人工知能(AI)「Watson」を活用したES評価システムです。このシステムは、過去の選考データをもとにAIがESの内容を学習し、合否の一次判定を行うという仕組みです。評価前のESをAIが分析し、基準に基づいて振り分けることで、人事担当者の手作業による評価をサポートします。
AI導入の結果、ES評価にかかる作業時間は年間680時間から170時間へと大幅に削減されました。これは実に約75%の工数削減に相当します。このような定量的な成果に加え、人事担当者はES評価という定型業務から解放され、候補者とのコミュニケーションや面接、入社後のフォローといった、より付加価値の高いコア業務に集中できるようになったという定性的な効果も得られました。このソフトバンクの事例は、AIをはじめとするテクノロジーを活用することで定型業務を自動化し、採用担当者の業務をより戦略的なものへとシフトさせることが可能であることを示す良い事例と言えるでしょう。
株式会社BP:コミュニケーションツール活用でアルバイト定着率が30%向上
多くのアルバイトスタッフを抱える株式会社BPが直面していた課題は、スタッフの早期離職でした。特に店舗数が多い場合、情報伝達にばらつきが生じやすく、新人スタッフが職場に馴染めず孤立してしまうことが主な原因となり、定着率の低迷を招いていました。
この状況を改善するため、同社は社内コミュニケーションツールを導入しました。業務連絡だけでなく、日報共有や互いを称賛する「サンクスカード」機能などを活用し、スタッフ間の双方向コミュニケーションを活性化させました。心理的安全性を高め、職場への一体感を醸成することを重視しました。
ツール導入後はスタッフ間のコミュニケーションが活発になり、心理的安全性が向上しました。職場への帰属意識が高まることで、アルバイトの定着率が約30%向上という成果につながりました。この事例は、コミュニケーションの質が従業員エンゲージメントと定着率に直結することを明確に示しています。
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まとめ:採用業務の最適化で、持続的な企業成長を実現しよう
本コラムでは、現代において採用業務の最適化がなぜ企業成長に不可欠なのかを解説しました。少子高齢化による人材獲得競争の激化、特定の担当者の経験や勘に依存する採用プロセスの属人化が引き起こす非効率やミスマッチといった課題を克服するためには、データに基づいた戦略的なアプローチが求められます。
採用業務を最適化するための具体的なステップとして、5つのステップをご紹介しました。
これらのステップを通じて採用業務を最適化することは、単に採用活動を効率化するだけでなく、データに基づいた客観的な意思決定により、採用のミスマッチを大幅に減らし、入社後の早期離職を防ぎ、優秀な人材の定着率向上に直結します。これは企業の人的資本の強化につながり、変化の激しいビジネス環境下でも競争優位性を維持し、持続的な成長を実現するための強固な基盤となります。データ活用やAIによる業務効率化、そして候補者体験の向上は、担当者の負担を軽減しつつ、採用活動全体の精度と効果を高める上で非常に有効です。
採用業務の最適化は、一度取り組めば完了するものではなく、市場や状況の変化に応じて継続的に改善を重ねていく活動です。まずは、本コラムで紹介した【STEP1】の「現状プロセスの可視化」から着手し、自社の課題を明確にすることをお勧めします。この一歩が、属人化を解消し、データに基づいた戦略的な採用活動へと転換するためのスタート地点となるでしょう。貴社の採用業務を最適化し、企業成長に貢献する人材戦略を実現してください。