はじめに
皆さま記憶に新しいと思いますが、新型コロナウイルスの拡大により、外出自粛が余儀なくされ、企業はテレワークの導入をせざるを得なくなりました。プライベートもできなくなったことが多くなり、特に人が大勢集まる場所へは行けなくなりました。
対面でのコミュニケーションが極端に減ったため、Zoomなどのオンラインコミュニケーションのサービスも増え、自宅にいながらできることを試行錯誤して新しいライフスタイルを確立させている人が増えています。
このような状況のなか、仮想空間でさまざまな活動を行う「メタバース」に注目が集まっています。
メタバースはこれまではオンラインゲームなどを中心に利用されていた技術です。近年はゲームの枠を飛び越え、ビジネスシーンでの活用事例も増えてきています。今回は、メタバースについて、基礎的な概念から近年の活用事例までご紹介いたします。
メタバースとは?
最近頻繁に聞くようになった「メタバース」ですが、皆さまはどのようなものかご存じでしょうか?メタバースとは「バーチャルな世界で人々がさまざまな交流や経済活動などいろいろな活動ができる仕組み」です。注目され始めたのも2021年の後半頃からと言われていて最近なこともあり、明確な定義はまだありません。
メタバースの語源は「超~」「高次~」のように超越した様子を意味する「メタ」と、宇宙を意味する「ユニバース」を組み合わせた造語です。
この概念自体は、映画『マトリックス』シリーズや、日本の有名なアニメ『サマーウォーズ』でもSFの世界が描かれています。今まではその世界は仮想のものでしたが、ようやくさまざまな技術によって実現できるようになりました。
メタバースが注目されるきっかけとなった一つが、2021年10月にフェイスブックが社名を「Meta(メタ)」に変えて、メタバース企業としてSNSプラットフォームからメタバースプラットフォームに転向すると発表したことだと思います。それに続き、さまざまな大手企業がメタバースに参入するニュースが発信され、注目度合いが高まっていきました。
メタバースの空間は、CGで表現した仮想空間で、現実とは異なる世界を構築することが可能です。
インターネット上の世界なので、現実のような制限もなく、どこまでも大きな空間を作ることもできます。また、アバターと呼ばれる“インターネット上の自分”で仮想空間内に入り、人と交流したり、買い物をしたり、ビジネスをしたり、さまざまな活動ができる点が大きな特徴です。
メタバースを支える技術
メタバースは、仮想空間という新たな空間を生み出すことができますが、そのためには高い没入感が必要になります。高い没入感を出すために、また快適なメタバース空間を作り出すために活用されているさまざまな技術をいくつかご紹介します。
AR・VR
AR(拡張現実)・VR(仮想現実)はメタバースにおいて欠かせない技術です。勘違いされやすいのが、AR・VR=メタバースではありません。
ARは現実世界を拡張する技術、VRはコンピューターによって作られた完全な仮想空間で、それぞれ特徴が異なります。
例えば、数年前に大流行したポケモンGOの技術はAR、プレーステーションVRに使われている技術はその名の通りVRです。ポケモンGOは位置情報との組み合わせにより、これまでにない顧客体験を生み出し、新たなビジネスモデルを確立しました。プレーステーションVRは、VRゴーグルを使いユーザーの五感を刺激することで、まるで本物のような仮想空間を体感でき、これまでにないゲームの楽しみ方を実現しました。
5G
メタバースは安定した通信が必要なため、通信技術の進化も求められます。
すでに全国的に使用可能となっている5Gの技術により、快適な通信環境でメタバースを楽しむことができます。メタバースの最大の魅力は前述の通り「没入感」です。より没入できるように、タイムラグや通信障害なく通信できることが非常に重要になります。
IoT
メタバースは、各機器をインターネットに接続させる必要があります。
IoTとは、すでにご存じの方も多いと思いますが「さまざまなモノとインターネットを接続する概念や技術」を意味しています。
まだ接続できるモノが限られていますが、今後より多くのモノとインターネットがつながれば、メタバースの世界もより充実したものになるでしょう。
メタバースを支える代表的なIT技術を紹介いたしました。
メタバースはまだまだ発展途中です。今後より一層進化するIT技術によって、より豊かな表現が可能になり、利用者も増えて必要不可欠なものになっていきます。
メタバースはなぜ注目されている?
ビジネスとの関わりについて
注目を集めている理由は大きく二つあります。一つは作り手(技術者)側も消費者側も「バーチャル世界に対するハードルが下がっていること」です。
前述の通り、技術の発展によってこれまで実現できなかったことが現実に叶っています。
例えば、これまではデジタル資産に対して所有権を明確に示すことが困難で、複数のコピー物が存在してしまい、作り手側の損失が大きいという課題がありました。しかし、NFT(Non-Fungible Token)ができたことによって、デジタル資産の所有権が明確になり、唯一無二であることが証明できるようになりました。その結果、希少価値が担保され、新たな制作や技術開発が進むようになりました。
このような技術の進化によって、メタバース上でのビジネスもハードルが下がっていると言われています。
※NFTとは… Non-Fungible Token(ノン-ファンジブル トークン)。
日本語に訳すと「非代替性トークン」。ブロックチェーン技術を活用することで、コピーが容易なデジタルデータに対し、唯一無二な資産的価値を付与し、新たな売買市場を生み出す技術として注目を浴びているもの
(参照元:ビジネス+IT FinTech Journal https://www.sbbit.jp/fj/)
消費者側もAR・VR、通信技術の進歩によって、誰でも気軽にメタバースの世界にアクセスができるようになり、ユーザー数もどんどん増加しています。
二つ目は「新たなビジネスチャンスの場である」ことです。新型コロナウイルスがきっかけで、これまで会社や外出先で過ごしていた時間を自宅で過ごす人が増えました。自宅から出ないことで、対面でのコミュニケーションが減ってしまい、メタバース内で人と交流する人が増えていると言われています。
そして、前述しているNFTによってメタバース内で商品やサービスを購入することへのハードルも下がってきており、ビジネスチャンスが広がっています。
これまでは、仮想空間でお金のやり取りをすることに消極的だった人も、メタバースを「一つの販売チャネル」として認識し、安心してモノの売り買いをするケースが増えているようです。この動きはさまざまな企業が注目していて、新たなビジネスの場として今後より拡張していくことが予想できます。
では、実際にどのようなビジネスが行われているか、ご存じでしょうか?いくつかご紹介させていただきます。
メタバースを活用したEC/バーチャルショップ
2021年12月に実施された「バーチャルマーケット2021」では、大手通信会社や洋服店、大手コンビニエンスストアなどが参加して、バーチャル空間で商品を販売しました。バーチャル空間ならではの商品(アバターやゲームアイテムなど)だけでなく、リアルな店舗に置いてある商品の販売もしていた点で話題になりました。
企業によっては、商品の販売だけでなく、ゲームの体験コーナーや交流コーナーを設けていて、ファンや消費者が存分に楽しめる空間だったと各方面から大絶賛されたイベントでした。
(参照元:バーチャルマーケット2021 https://winter2021.vket.com/)
バーチャルオフィスの活用
バーチャルオフィスとは、仮想空間上に作ったオフィスにアバターで出社をして、業務や同僚とのコミュニケーションを取ることができる新たな働き方の一つです。
実際にバーチャルオフィスを活用している企業は複数あり、現実世界と仮想空間をIT技術でつなげ、違和感のない働き方を実現しています。現実世界のオフィスで話しかけたい人を見つけて声をかけるように、バーチャル空間でも自分のアバターやアイコンを移動させることで声をかけたり会話をしたりすることができます。
大規模なネットワークイベントの実施
メタバースは仮想空間上の世界のため、場所や人数に制限されることなく、自由にイベントを実施することができます。イベントの内容によっては、これまでオフラインで実施していたものが、実はメタバース上で実施した方が効果的と考えられるものもあるでしょう。
実際に2021年には「オーディオメタバースイベント」が開催され、AR技術を用いたEDMライブイベントとして、多くの消費者・企業が参加をして注目を集めた実績があります。
アーティストが演奏している音楽を聞きながら声援を送ったり、他参加者と会話をしたり、単なる視聴者ではなく参加型で楽しめた内容が大きな反響を呼んでいました。
自宅からでもどこからでも参加ができる点、気軽にアバター同士でコミュニケ―ションが取れる点がメタバースの上手い使い方だったのだと思います。
まとめ
まだまだ発展途上のメタバースです。課題も複数あり、特に法律の整備は急務だと言われています。
現行法だと仮想空間でのビジネスを想定されていないため、今後誰もが安心して売買、人との交流をしていくためにはガイドラインや法律の策定が必要になります。現在、法整備を進めるための団体も発足されていてルールを整理しているので、ルールが固まればメタバースはさらに拡大するものと思われます。
ビジネスシーンによる活用の例でも書かせていただいた通り、今後はより一層さまざまな業界・業種でメタバースを活用した新たなビジネスが生まれていきます。私たちの暮らしも劇的に変化するかもしれません。
各IT技術の進化もより加速していけば、映画の世界だと思っていたものが現実になり、いつか“メタバースのなかで生活が完結できる世の中”になることも考えられます。
まだ発展途上のうちに、メタバースでできること、新しいビジネスのアイディアなど考え始めてはいかがでしょうか。