はじめに
AIは、さまざまな分野の製品やサービスに革新をもたらす可能性のある技術です。ビジネスを支える重要な要素として、すでに本格的なAIの導入を果たしている企業も少なくありません。
一方で、「自社のビジネスにもAIを取り入れなければ競合他社に遅れをとってしまう」という危機感を持っていても、なかなか導入のアイデアに結びつかない企業も多いのではないでしょうか。AIをビジネスに活用するには、まずAIの特徴や何ができるのかを知ることが大切です。
そこで本記事では、AIの活用によって製品やサービスがどのように変わるのかについて、例を挙げながら説明していきます。また、AIを適正にビジネス利用するための課題にも触れるので、併せて参考にしてください。
急速にビジネス利用が進むAI(人工知能)の現在地
2023年の先進7ヵ国首脳会議(G7広島サミット)において、AIに関する国際的なルール整備について議論があったことは記憶に新しいところです。業界や業種を問わずさまざまな用途でAIの活用が急速に進み、またChatGPTのような手軽な利用環境も整ってきた一方で、使い方によってはプライバシー侵害などの問題を引き起こす懸念も出てきました。これからの企業には、AIの適正な利用に努めながらビジネスを革新し、市場での優位性を確立していく取り組みが求められているといえるでしょう。
実際にAIが組み込まれている例は、家電に搭載されたアシスタント機能のように誰の目にも明らかなものばかりではありません。ビジネスのコアでありながら、知らなければなかなか気付かないような部分にAIが用いられていることもあります。そうした製品やサービスの例について広く知ることが、自社のAI活用における画期的なアイデアにもつながるかもしれません。
AIがビジネスで活用されている7つの例
ここからは、AIを何に用いるとどのような効果が期待できるのかという点に注目しながら、ビジネスにおけるAI活用の例について紹介していきます。
スマート家電のアシスタント機能
AIの活用例としては、スマート家電を取り上げないわけにはいかないでしょう。スマートフォンやスマートスピーカーのバーチャルアシスタントは、AIによる音声認識や自然言語処理といった手法により、人の声でさまざまなものを操作できるようにします。
これは単にUIを会話形式に置き換えたものではなく、サードパーティが自社製品を拡張するためのプラットフォームにもなっている点が重要です。例えばロボット掃除機のメーカーであれば、スマートフォン用のアプリを配布することで、声による操作で掃除を開始する機能を追加できます。
ところが、こうした機能拡張を行う企業が、必ずしも開発コストに見合うだけの収益を得られているとは限らないことがわかってきました。ある調査によると、ニュースやレシピなどのコンテンツを主力商品とする企業が会話を通して情報提供するケースでは、平均1%の株価上昇がみられると報告されています。
一方、製品よりもサービスを主体とする企業がWebサイトなどの既存チャネルにある機能に会話でアクセスできるようにしても、大きな付加価値とはなりません。
チャットボットによる問い合わせ対応
ユーザーサポートや社内ヘルプデスクに、チャット形式の窓口が採用されるケースは少なくありません。近年では、その相手がAIによるチャットボットになっている例が増えてきました。
人間のように柔軟な受け答えをするほどの性能はなくても、AIは自然言語処理によって文脈を読み取り、必要な情報を示すことができます。瞬時に回答を返すことや、疲れ知らずで24時間稼働できる点は、人による対応の限界を超えた特徴です。
例えば、AIチャットボットを導入しているある企業では、人間に換算して9人月分もの働きを果たしているとの報告があります。状況に左右されるものの、このような成果を上げている会社も存在しています。
従来は人が行っていた業務をAIで代替することで、企業が得られるメリットは大きいでしょう。ビジネスを支える重要なプロセスのなかには、まだまだAIで置き換えられない部分もあるためです。AI導入による効率化で得られた人的リソースは、より重要な業務に割り当てることが可能です。
商品の売れ行きを予測
スーパーやコンビニエンスストアでは、AIによる需要予測の手法が仕入れなどに役立てられています。過去の需要データのほか季節や天候、近隣で開催されるイベントといった複数の要素から、商品の売れ行きを予測するというものです。パンや牛乳のような足が速い商品の販売数に見通しがたてば、フードロス問題の削減にもつながります。
AIによる予測は、ベテラン担当者が勘と経験を駆使して行う予測よりも的確な場合さえあるという点に注目すべきでしょう。これにより過剰な入荷による在庫が減り、属人的な発注業務も削減されると期待できます。労働力人口の減少にともなう人手不足のなかでも、業務効率が向上する可能性があるということです。
例えば、ある大手小売業のAIによる需要予測の検証結果では、発注業務にかかる時間が平均30%以上短縮し、欠品率も20%以上減少したとの報告があります。
タクシーのニーズを予測
AIによる需要予測の例を、あと少し挙げておきましょう。
タクシーの利用者数は、日によって変動します。そのため、ドライバーと乗客を効率良くマッチングするというのは、従来は簡単なことではありませんでした。AIを導入すれば過去の走行データのほか天候や時間帯、電車の遅延情報や大型イベントの終了時刻といった多数の要素から、どのエリアにどの程度の需要が集中しそうかを予測できます。併せて、ドライバーには最適な走行ルートを提示することも可能です。
例えば、ある交通サービス企業で新人乗務員がAIによる需要予測アプリを活用した結果、活用しなかった場合に比べて1時間あたり約5%以上、最大40%以上もの売上アップにつながったとの報告があります。
こうした手法は、交通のジャンルではタクシーばかりに用いられているというわけではありません。物流の効率化や、交通渋滞の予測などにもAIを取り入れる動きがみられます。
クレジットカードの不正利用を検知
キャッシュレス決済が広まるにつれて、「なりすまし」などによるクレジットカードの不正利用が急増し社会的にも大きな問題となっています。しかし、利便性を低下させるという理由から、セキュリティの強化が敬遠されるケースも少なくありません。例えばECサイトでは、不正利用を防ぐ目的で本人認証の手間が増えると、いわゆる「カゴ落ち」による機会損失も増加するといわれています。
こうした状況下で、人の目による監視を厳しくする対策はあまり効果的とはいえないでしょう。そこで、AIによる異常検知の手法が役立てられています。過去の決済データから学習済みのAIにより、個別のカード利用が正当かどうか、あるいは異常なパターンといえるかどうかを判定するというものです。
例えば、ある大手金融機関で不正の検知にAIを用いた検証を行った結果、正しく検知できる割合を従来の5%から90%に引き上げることに成功したとの報告があります。この手法には、ユーザーに追加の手間を強いることなく効果的にセキュリティを強化できるメリットがあります。
設備の点検作業を効率化・安全化
橋や道路などのインフラ設備には、定期的な点検作業が欠かせません。しかし、サビやヒビの程度を評価するというのは、ベテランの作業員でも個人差が出やすい部分です。また、こうしたノウハウは明文化されていないことが多いため、継承者の不足によって失われてしまう恐れもあります。
そこで、これまで作業員の目視に頼っていた点検を、AIの画像解析に置き換える例が増えてきました。AIであれば省力化を実現しながら、点検作業を平準化することも可能です。カメラ付きのドローンで離れた場所から操作できるようにすれば、高所作業などの安全性も高まります。
例えば、ある建設・不動産業の企業が、ドローンによる空撮を活用して外壁の画像をAIで解析した結果、劣化診断の工数を従来の1/3に短縮することができたとの報告があります。
安全性については、建設現場における例も参考になるでしょう。AIによる画像解析は作業員がヘルメットなどの装備品を適切に使用しているかどうかをチェックしたり、危険区域への立ち入りを検出したりといった目的でも活用されています。
農作業の省力化
農業は、AIとの相性が良いといわれている分野です。カメラやセンサーによるデータから青果の収穫時期を決めたり、収穫量を予測したりといったことが行われています。自律走行型のロボットによる収穫など、作業の省力化も進んでいる部分です。
ただし、こうした「スマート農業」への日本での取り組みは、海外に比べるとまだまだ遅れているといわざるをえません。日本として特に注目したいのは、オランダの農業でしょう。農地面積は日本の4割程度であるにも関わらず、農産物・食品の輸出額は農業大国アメリカに次ぐ世界第2位となっています。オランダの農業では、自動的に葉を剪定して日当たりを良くしたり、ハウス内を自動飛行するドローンで害虫を判別して駆除したりといったことにAIが用いられています。
AIを適正にビジネス利用するための課題
ここまでは、AIがさまざまな用途に応用できることをみてきました。しかし、AIの安易な導入が、かえって問題を引き起こすケースも考えられます。ビジネスにおける適正なAI活用のために、あらかじめ認識しておくべき課題について説明します。
データの適切な管理が求められる
AIは大量のデータを必要とするため、その開発工程に不適切な情報が紛れ込んでしまう懸念があります。データ提供者の著作権やプライバシーを侵害してしまうリスクについては、特に注意する必要があるでしょう。データを収集する段階から、企業には法令遵守のためのルール整備と適切な管理体制が求められます。
また、どのような行為が問題にあたるかは、国や地域によっても差があります。グローバルなビジネスを展開する企業では、この点にも留意した管理が必要になるでしょう。
信頼性を証明することが難しい
AIは、ときに人の想像を超えた答えを導き出します。なぜそのような結論にいたったのか、簡単にはわからないケースも少なくありません。
しかし、企業活動には公平性や透明性が求められるシーンもあるでしょう。AIを活用する企業には、偏った意見や倫理的に問題のある判断を避ける配慮が求められます。これは「責任あるAI」という考え方です。
責任あるAIを実現するには、AIはブラックボックスであってはなりません。導き出した答えについて理由や根拠を明らかにできる「説明可能なAI」を構築し、AIをより信頼できるものにしていくことが求められます。
技術として専門性が高い
企業がAIの活用を進めるには、経営や業務についての視点や、ビジネスを変えていこうとする熱意を備えた人材が必要です。
加えて、AIには技術力も求められます。ツールやサービスの充実もあって、AIの導入は以前ほどハードルの高いものではなくなってきました。それでも「機械学習」をはじめとする専門的な知識と、それらを扱えるだけのスキルを獲得しない限り、AIを効果的に取り入れてビジネスを変えていくことは難しいでしょう。
自社のビジネスにAIを取り入れるには
業界や業種を問わず、AIを応用したさまざまな取り組みが広まっています。今やAIは、ビジネスを支える重要な要素だといえるでしょう。
一方、AIを使いこなせる人材をいかに確保するかが、多くの企業に共通する課題となっています。ビジネスに革新をもたらすには、AIに限らずIT全般の基礎知識を備えた人材が社内のいたるところに必要です。
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