はじめに
DXの重要性が広く認識されるようになり、DX推進を主導する「DX人材」の需要が急速に高まっています。
DXは一度やれば終わるというものではなく、継続的な取り組みが求められます。そのため、長期にわたるDX施策の中で、DX人材の確保が課題となっている企業も少なくありません。
DX人材を確保する方法の一つとして、社員教育を実施し、社内でDX人材を育てるという方法があります。この際、個々人のスキルを管理する「スキルマップ」を導入すれば、DX人材の育成を効率的に進めるのに役立ちます。
この記事では、DX人材に求められるスキルと、実際にスキルマップを作成する方法について解説します。
DX人材とはDXの実行に必要な知識・スキル・適性を持っている人のこと
まずは、DX人材とはどのような存在なのか、なぜ多くの企業から必要とされているのかについて、理解していきましょう。
DX人材の定義
「DX人材」とは、企業がDXを実行する際に必要となる知識・スキル・適性を備えており、DX推進を担える人材のことです。DX人材には、企業のDX推進を主導し、ビジネスモデルの変革を実現することが期待されます。
DXとは、単なるデジタル化を指すのではありません。DXは企業がデジタル技術を活用してビジネス環境の変化に対応し、競争上の優位性を確立することが目的です。つまり、デジタル化はあくまでDXを実現するための手段の一つに過ぎないのです。
DX人材には、デジタル技術に精通していることに加え、既存ビジネスを理解し、競争上の優位性を確立するためのプランを立案・実行するスキルが求められます。DXは全社的な取り組みとなるため、プロジェクトをリードする能力があることも重要です。
DX人材が求められる背景
DXが必要とされる理由の一つは、経済産業省が2018年に発表したDXレポートで提唱された「2025年の崖(既存ITシステムの崖)」の問題が挙げられます。2025年の崖とは、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが足かせとなり、2025年を境に大きな経済損失が発生する可能性があるというものです。
企業のDXを成功させるには、DXに関する豊富な知見を持つDX人材の存在が欠かせません。近年、DX推進の重要性が高まっており、DX人材の育成・確保についての関心が高まっています。
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【役割別】DX人材における5つの人材類型と必要スキル
経済産業省が策定した「デジタルスキル標準」では、DX推進において必要とされる人材を、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5つの人材類型に区分しています。
それぞれの人材類型の特徴や、重要視されるスキルについて見ていきましょう。
ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトは、DX推進プロジェクトの全体像を把握し、DXの目的(ゴール)の設定や、目標達成に向けたプロセスや戦略を設計し、DX推進をリードする人材です。また、DXを推進するうえで必要となる関係者間の調整や、協働が活性化するよう働きかける役割も担います。
ビジネスアーキテクトの業務は、以下の3通りに区分されます。
● 新規事業開発
● 既存事業の高度化
● 社内業務の高度化・効率化
ビジネスアーキテクトの3つの業務で特に重要となるのは「ビジネス変革」に関連するスキルです。新たなサービスに関する戦略立案や、既存サービスをスケールさせるため、ビジネス戦略の策定・実行スキル、マネジメントスキル、ビジネスモデルの設計スキルなどが要求されます。
デザイナー
デザイナーは、ビジネス視点と顧客・ユーザー視点の両方から製品・サービスのありかたをデザインする役割を担う人材です。ビジネスの視点と顧客・ユーザーの視点を総合的にとらえ、製品やサービスの方針、開発プロセスを策定します。
デザイナーの業務は、以下の3通りに区分されます。
● サービスデザイナー
● UX/UIデザイナー
● グラフィックデザイナー
デザイナーには「ビジネス変革」スキルのなかでも、特にデザインに関するスキルが重要視されます。近年、デザインには造形美や使いやすさだけでなく、顧客体験をより魅力的にする役割も求められるようになりました。このような背景から、デザイナーにはコンテンツをデザインするスキルに加え、顧客・ユーザーの理解、ニーズを踏まえたサービスの提案・設計スキルが要求されます。
データサイエンティスト
データサイエンティストとは、DX推進において、データの活用領域で中心的な役割を担う人材のことです。データを活用した業務変革・新規ビジネスの実現に向けて、データ活用戦略を策定し、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担当します。
データサイエンティストの業務は、以下の3通りに区分されます。
● データビジネスストラテジスト
● データサイエンスプロフェッショナル
● データエンジニア
データサイエンティストには、高度な「データ活用」スキルが要求されます。データ活用基盤の設計・実装・運用スキル、データやAIを戦略的に活用するスキル、数理統計・多変量解析・データ可視化スキル、機械学習・深層学習に関するスキルなど、データ活用の専門家として幅広く高度な専門性が必要です。
ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアは、DXにおけるさまざまなアイデアを実現するため、製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアを設計・実装・運用する役割を担います。
ソフトウェアエンジニアの業務は、以下の4通りに区分されます。
● フロントエンドエンジニア
● バックエンドエンジニア
● クラウドエンジニア/SRE(Service Reliability Engineering)
● フィジカルコンピューティングエンジニア
ソフトウェアエンジニアには、アイデアを実現するための「テクノロジー」スキルが重要視されます。具体的には、フロントエンドシステム開発・バックエンドシステム開発・クラウドインフラ活用を中心としたソフトウェア開発に関するスキル、通信・ネットワークやそれに関連するスキル、安全性に配慮したシステムやソフトウェアを構築・運用するスキルが要求されます。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティは、デジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制するため、サイバーセキュリティリスクの評価やセキュリティ対策の実施を担う人材です。サイバーセキュリティは他人材類型と協働関係を構築しながら、DX推進に貢献することが期待されます。
サイバーセキュリティの業務は、以下の2通りに区分されます。
● サイバーセキュリティマネージャー
● サイバーセキュリティエンジニア
サイバーセキュリティは「セキュリティ」スキルが重要視されます。サイバーセキュリティマネージャーの場合は、セキュリティ体制の構築・運営、リスクマネジメント、インシデント対応に関する知識・スキルが求められます。サイバーセキュリティエンジニアは、サイバーセキュリティ対策を実際に導入・運用する役割を担うため、セキュリティに配慮したシステムの設計や運用スキルが必要です。
DX人材育成にスキルマップを導入する3つのメリット
DX人材を育成する際、個人のスキル管理に役立つのがスキルマップです。
スキルマップとは、業務で必要となるスキルについて、従業員がそのスキルを持ち合わせているかを確認・記録し、可視化するツールです。個人やグループ、組織単位でのスキル管理が可能となり、より効果的な育成計画を立てることができます。
スキルマップでスキルを可視化すれば、以下のようなメリットが期待できます。
● 人材配置が最適化される
● スキルアップの指標になる
● 公平な能力評価が可能になる
人材配置が最適化される
スキルマップで従業員のスキルを可視化すれば、誰がどのスキルを有しているのかが把握しやすくなり、適材適所の人材配置ができるというメリットがあります。
従業員が実力に見合った業務に携わることでよりパフォーマンスを発揮できるようになるため、業務効率や、業務品質の向上が期待できます。個人のパフォーマンスがアップすれば、チーム全体の生産性向上も期待できるでしょう。
スキルアップの指標になる
スキルマップによるスキルの可視化は、従業員のスキルアップの指標としても役立ちます。
スキルマップを活用することで、どのようなスキルがあり、どのようなスキルが不足しているのかを客観的かつ具体的に把握できます。個人に合わせた教育計画を立てられるため、人材育成・スキルアップをより効果的に進められるでしょう。
公平な能力評価が可能になる
スキルマップがあれば、従業員のスキルを客観的にとらえることが可能です。スキルの習得状況を可視化できれば、公平かつ正確な能力評価ができるようになります。
また、評価基準が明確になることで、評価に対して従業員の理解を得られる可能性が高くなります。公平な能力評価は、社員のエンゲージメント向上にもつながるでしょう。
DX人材のスキルマップ作成方法
DX人材に求められるスキルと、スキルマップについて理解したところで、実際に作成方法を見ていきましょう。
スキルマップを作成する目的を決める
スキルマップを何に活用するかによって、設定するスキル項目は変化します。そのため、最初に「スキルマップを作成する目的」を明確にすることが重要です。スキルマップをどう運用したいかが決まれば、作成したいスキルマップの形が見えてきます。
スキルの項目や分類を決める
次に、スキルマップに記載するスキルの項目を考えます。
スキルの分類は業務によって異なるため、まずは業務の種類や技術などの大項目を設定するとよいでしょう。次に、大項目に対して必要なスキルを細分化して列挙します。
スキル項目の書き出しは、業務全体の流れを把握している人が担当します。リーダーや管理職などを務めている人物であれば、業務に必要なスキルも把握しているでしょう。
DX人材のスキルマップの場合、前述の「デジタルスキル標準」に必要スキルが網羅されたリストがありますので、そのまま使うのも手です。
例えば、デジタルスキル標準を元にDXにおけるフロントエンジニアのスキル項目を作成する場合、以下のようなものが挙げられます。
〈テクノロジー_ソフトウェア開発〉
● コンピュータサイエンス
● チーム開発
● ソフトウェア設計手法
● ソフトウェア開発プロセス
● Webアプリケーション基本技術
● フロントエンドシステム開発
● バックエンドシステム開発
● クラウドインフラ活用
● SREプロセス
● サービス活用
スキルの評価基準を決める
スキルマップを人事評価に活用する場合は、スキルごとの評価基準を決めます。
評価基準は単にできる・できないだけでなく、3段階から5段階程度に分けると、習熟度がわかりやすくなります。評価基準を細分化し過ぎると、かえって評価が難しくなるため注意が必要です。
数字での評価に加えて「単独で業務を遂行できる」「指導があれば業務遂行が可能」などの基準を設けると、人的コストの可視化にも役立ちます。
ここまでで、スキルマップの作成が完了しました。ここまでのデータを元に、3人のメンバー用のスキルマップを作成すると以下のようなイメージになります。
スキルマップのマニュアルを作成する
スキルマップの作成が完了したら、運用マニュアルを作ります。これは、評価者によって評価が変わることを防ぐためになります。
マニュアルでは、スキルマップの評価方法や記入方法についての指針を明確にすることが重要です。また、評価者に対して研修を実施することも、スキルマップを適切に運用していくための体制づくりに有効です。
スキル評価を行う
最後に、実際にスキルマップを導入し、従業員のスキルを評価します。
スキル評価には客観的かつ平等な視点が必要なため、上司にあたる人物が評価するのが一般的です。スキルマップは定期的に内容の見直し・改善を実施し、ブラッシュアップしていきましょう。
スキルマップはDX人材の育成効率化・人材配置の適正化に役立つ
スキルマップは、DX人材を効率的に育成するために重要なツールです。
スキルマップを作成する際は「どのような役割を担える人材を育てたいのか」を明確にし、その役割に必要なスキルを習得できるように教育計画を立てましょう。
スキルマップを活用し、従業員が自分のスキルを自覚することにより、学習意欲の向上が期待できます。また、スキルアップが成果や評価につながれば、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
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