はじめに
初めてERPを導入する企業にとって、業務の効率化を実現することは、非常に理想的で喜ばしい進化です。「ならばもっと早く導入すべきだったのでは」と考える経営層もいるのではないでしょうか。
ERPの導入を検討する際には、基幹業務への影響や効果、導入後の運用における注意点など、導入前に確認しておくべき要素があります。
この記事では、ERPの導入を無駄にしないために、導入する際のポイントや注意点などを解説しますので、導入を検討する際の参考にしてください。
ERPとは
「ERP」や「ERPパッケージ」という言葉を耳にしますが、この2つの違いを理解している人はどれくらいいるのでしょうか。ここでは、ERPとERPパッケージの違いや、ERP製品が担っている役割を解説します。
ERPとは「企業資源計画」
ERPとは「Enterprise Resource Planning(経営資源計画)」の略称です。企業の経営に必要とされる資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を総合的な観点から適切に分配し、経営行動に活かしていく計画、または考え方を示しています。
一方、ERPパッケージの意味は、経営資源計画であるERPを実行するために、基幹業務をデータベースで一元管理し、経営判断をサポートするシステムのことを意味する言葉です。
このように、2つの言葉の意味に違いはありますが、現在ではERPもERPパッケージも同じ意味合いで使用される場面が多く見受けられます。
シェア率が高い「SAP」との違い
ERPと同じくらい耳にするのが「SAP」という言葉ではないでしょうか。
SAPは、ヨーロッパの最大級ソフトウェア会社「SAP SE社」が開発・提供しているERP製品のことをいいます。
すなわち、ERPとSAPは、呼び名は異なるとはいえERP製品という意味では同様の意味ととらえてよいでしょう。
SAPを導入する際の初期費用は高額ですが、業務効率化やコスト削減効果に優れ、業務の変動に対する柔軟な対応を可能にします。数多く存在するERP製品のなかで高いシェア率を維持しているのは、世界中のさまざまな企業に適応する性能の良さを考えれば納得です。
ERPと基幹システムの違い
基幹システムとERPの大きな違いは、独立しているか、連携しているかです。基幹システムは、個々に担当のシステムが独立して存在しているため、例えば人事なら人事、売上管理なら売上管理、とバラバラに存在しデータの連携は基本的に難しいことが多いとされています。
一方でERPはシステムが連携しているため、上記の例でいけば人事データと売上管理データも連携することが可能で、誰がどのくらい売り上げたかを集計、といったことも可能になります。
ERPの導入①:「オンプレミス型」と「クラウド型」
ERPは「オンプレミス型」と「クラウド型」という2つのタイプがあります。ERPを適切に運用するには、自社に適したタイプのERPを導入するのがポイントの一つといえるため、それぞれのタイプを比較してみましょう。
オンプレミス型
オンプレミス型とは、自社専用にオーダーメイドされたもの、あるいはERPの構築環境が整っている企業向けの買い切り型ERPのことをいいます。自社の業務に適したシステム構築が可能で、細部にわたりカスタマイズできるという利点があるのが特徴です。
インターネット環境と切り離した運用により、外部に機密情報を保管することへの抵抗感を抱かずに運用できます。
しかし、自社専用のサーバーを用意するため、導入コストが高額になる点や、環境構築の準備期間があることを念頭に置いて検討しなければなりません。
オンプレミス型のメリットとデメリット
オンプレミス型のERPのメリット、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
メリット
オンプレミス型ERPの最大のメリットは、自社環境に合わせたカスタマイズがしやすいという点です。サーバーやハードウェアも自社に合わせた設定が可能なため、既存の基幹システムを有効活用できます。また、アドオン開発で自社の業務に合わせた機能を拡張することも可能です。
オンプレミス型は社内のローカルネットワークにシステムを構築します。そのため機密性が高く、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクを減らすことができます。ただし、セキュリティレベルは社内の運営・保守に依存するという点には注意が必要です。
デメリット
オンプレミス型ERPは、自社サーバーの用意・維持費用、ERPのアカウント料金などが必要なため、導入コストが高額になる傾向があります。また、オンプレミス型は社内でERPを保守・運用することもあり、その場合、社内に管理・運用が可能なエンジニアを確保しなくてはなりません。人材確保が難しい場合は、外部委託などを検討する必要もあります。
さらに、オンプレミス型はシステム導入に時間がかかる傾向があります。業務プロセスの見直しやシステム開発が必要な場合は、導入期間が2年以上になるケースもあります。
オンプレミス型は自社業務に合わせたカスタマイズができる反面、サーバーの台数を増やしたり、スペックを変更したりなど、柔軟に設定変更するのが難しいという点も留意しましょう。
クラウド型
オンプレミス型とクラウド型の根本的な違いは、クラウド型の場合、ERP製品を所有してはいるものの、自社サーバーではなく外部サーバーを利用するという点です。自社サーバーを用意する必要がないため、準備期間や導入コストを抑えられるという特徴があります。
また、インターネットを利用できる環境であれば、端末や場所を問わず操作可能であり、場面を問わず対応できる安心感を得られるでしょう。
自社サーバーを構築する必要がないとはいえ、外部サーバーにデータを保存しなければならないことに不安を覚えるかもしれません。しかし、クラウド型の場合は、最新セキュリティ体制のデータセンターを利用するベンダーが多く、機密情報の保管方法は強化されています。
さらに、バージョンアップもベンダーが行ってくれるため、常に最新バージョンを維持できることから、自社セキュリティよりも安心できるかもしれません。
クラウド型のメリットとデメリット
では、クラウド型のメリットとデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
メリット
クラウド型ERPはクラウド上にシステムを構築するため、自社サーバーを用意する必要がありません。運用にかかる人件費も削減できるため、初期費用・導入コストを抑えることが可能です。月額課金型で利用できるサービスが多く、従業員数の増減にも柔軟に対応することができます。
システムの管理・運用もベンダーが行うため、常に最新バージョンでシステムを利用できるという点もクラウド型ERPの魅力の一つでしょう。
また、インターネット環境があれば場所を問わずアクセスすることができます。ERP製品がマルチデバイスに対応している場合は、パソコンのほか、スマートフォンやタブレットからも閲覧することが可能です。テレワークが普及している企業は、クラウド型が向いているといえるでしょう。
デメリット
クラウド上にシステムを構築するため、セキュリティ面が問題になります。ただ、クラウド型ERPはベンダー側で強固なセキュリティ対策を行っているケースがほとんどです。ERP導入前に、製品が自社の情報セキュリティ要件を満たしているかはよく確認しておきましょう。
またクラウド上にシステムがあるため、自社業務に最適になるようカスタマイズするのは難しいでしょう。オプションを追加することで多様なカスタマイズができる製品も存在しますが、場合によってはERPの標準システムに合うように業務自体を見直す必要もあります。
クラウド型はオフライン環境で利用できないため、停電などのトラブルに見舞われた際に業務がストップする危険性があります。ベンダー側が災害対策として予備電源やデータバックアップなどに対応している場合もあるため、障害発生時のサポートについても導入前に確認しておくとよいでしょう。
ERPの導入②:パッケージ型とフルスクラッチ型
ERPの導入形態には、汎用性の高い製品である「パッケージ型」と、自社業務に合わせてオーダーメイドでシステム構築をする「フルスクラッチ型」があります。それぞれの特徴について詳しくみていきましょう。
パッケージ型
パッケージ型ERPとは、企業活動に必要な基本機能が備わっているERP製品のことを指します。自社に合った機能を選択して導入できるため、初期コストを抑え、短期間で導入することが可能です。ERP導入後のシステムメンテナンスや従業員教育なども、サービス提供事業者が安価で提供しているケースが多く、アフターフォローも充実しています。
しかし、パッケージに備わっている機能が自社業務に必ずしもマッチするとは限りません。
もし十分にマッチしない場合は、業務やデータベースをERPシステムに合わせて変更する必要があります。
また、システムのライセンス維持やメンテナンスコストなど、運営にかかるランニングコストが高額になるケースも少なくありません。
フルスクラッチ型
フルスクラッチ型ERPとは、自社の業務に合わせたシステムを新しく構築して導入するERP製品のことです。そのため自社業務に最適なかたちでシステム構築ができるというメリットがあります。
独自性の高い業務が多い場合は、パッケージ型の標準機能ではERPをうまく適用できない場合も少なくありません。その点、フルスクラッチ型は企業ごとにオリジナルのシステムを構築できるためスムーズな導入が可能です。
フルスクラッチ型は社内でシステム開発のすべてを完結できるため、よりセキュリティやコンプライアンスに配慮した導入方法といえるでしょう。
フルスクラッチ型ERPはオーダーメイド製品のため、導入コストが高額になります。また、システム開発に時間を要するため、ERPの導入まで数年かかるケースも少なくありません。
ERPを導入する際に抑えておくべきポイント
業務の効率化により、スムーズな経営判断のサポートに一役買うERPですが、効率化を実現するために意識するべきことは何なのでしょうか。
ここからは、ERPの導入が失敗に終わらないために、抑えておきたいポイントを解説します。
自社業務と合っているか
ERPにはさまざまなモジュール(システムの構成要素)があり、自社業務に適したモジュールを選定して導入するのが理想的です。代表的なモジュールには会計管理や人事管理、原価管理などがあり、外部取引先との連携が必要な業務には、モジュール以外のツールが搭載されている場合もあります。
しかし、メーカーにより対応するモジュール数は異なるため、自社が必要としているモジュールがあるかどうかを導入前に確認しておくべきでしょう。
自社の規模に適切か
ERPを導入する際、自社の企業規模は大企業か中小企業かで、使用するアカウント数や機能が異なります。
大企業のように、すでに何らかのシステムを導入している可能性が高い場合、移行作業や連携がスムーズに行えるような機能が必要でしょう。一方、初めてシステムの導入を検討している中小企業の場合、事業規模と予算に合わせ、必要な機能のみを拡張していく選択肢も考えられます。
このように、自社の規模に適した選択を行えば、少ないコストで期待する効果を得られる可能性が高いでしょう。
柔軟性に富んでいるか
事業拡大にともない、ERPを導入したあとでも、機能の追加が必要になる場合があります。カスタマイズや外部ツールとの連携など、どの程度まで許容しているのかを理解したうえで、既存の業務効率を下げずに機能を追加するのが重要です。
これまでに導入した既存の機能に影響があれば、最悪の場合、業務に滞りが生じます。機能の編集や追加など、これまでのシステムを壊さない柔軟性を見極めるのがポイントです。
将来を見据えての利用が可能か
ERPの導入は、単発的な利用目的のシステムではありません。根幹部分を変えることなく、長期間の利用が可能かどうか、がポイントになります。時間の経過や環境の変化に適した更新性も重要といえるでしょう。
万が一、数年で使えない状況になった場合、また一から再選定を行うなど、高額なイニシャルコストが発生する事態になりかねません。
ERPの導入により作業効率があがれば、将来的には人件費などの削減にもつながります。長期間の利用により得られる効果にも目を向けて選定しましょう。
ERPを導入する際の注意点
ERPを導入するということは、基幹業務という企業にとっての重要な部分に変化を与えることになります。その際に、何らかの影響を受ける可能性を最小限に抑えなければ、重大なトラブルにつながるかもしれません。
ここでは、ERPを導入する際の注意点を解説します。
社員への周知を徹底する
すでに独自の業務フローが確立されている企業の場合、導入するERPに業務を合わせなければならない可能性があります。既存の業務フローを変更するとなれば、何かしらの影響が起こりうることを事前に周知し、対策を講じなければなりません。これまでの業務フローと異なるため、新たな業務フローの習得には時間を要する可能性もあります。
しかし、業務効率化や生産性の向上など、従業員のみならず、企業全体にとって良いシステムだという理解を得ることが大切です。
経営者目線を重視して導入すべきではない
ERPは、リアルタイムの経営状況を可視化し、経営層の迅速な判断をサポートする優秀なシステムです。しかし、そのデータを入手できるのは、従業員がそのシステムを運用し、正確な情報を入力しているからだという事実を忘れてはいけません。
ERPを導入するにあたり、現場での業務フローを変更しなければならない企業も少なくないでしょう。そのような状況で、正確な情報を適切に扱い、経営層が求める情報を届けているのは、従業員がERPを適切に運用しているからです。
経営層が求める情報を追求し、現場の業務内容を無視した機能を選定した場合、現場の業務に適さない機能を追加してしまう可能性があります。その結果、従業員がERPを適切に扱えず、経営層が求めている情報を入手できないという可能性もでてきます。
経営判断のサポートとはいえ、経営者個人のレベルで活用されるシステムではないということを念頭に置き、自社に適した機能を導入しましょう。
トラブルが起こった際の対応策はとれるか
ERPの導入前に確認しておきたいことは、万が一トラブルに見舞われた場合、ベンダー側から受けられるサポートはどのようなものかということです。自社従業員が対応できない可能性を考慮し、サポートの許容範囲や迅速な対応は可能かなどを、あらかじめ確認しておかなければなりません。
ERPのシステムを構築するには、専門性の高い知識が必要です。ベンダーのサポート範囲によっては、専門のエンジニアを雇うなどして、導入後の運用や保守、拡張といった管理を行う必要があるでしょう。
ERPの適切な導入により継続的な効率化を実現する
自社に適した規模での運用が可能なことや、自社サーバーを構築しなくても導入できるなど、ERPを導入する際のハードルは低くなりつつあります。
しかし、導入したあとの適切な運用方法がわからなければ、本来の目的である「経営資源計画」を実現することはできません。また、ベンダーによるサポート範囲や、自社業務との整合性を考慮しなければ、運用の継続が困難になり、大きな損失を被る可能性が高まるでしょう。専門性が高い知識を要するため、運用への不安を払拭しきれない場合は、専門のエンジニアを雇って対応してもらうという選択肢もあると思います。
重要なのは企業の規模や経営状況に合わせ、従業員にとって最も運用しやすい最適なシステムを導入することではないでしょうか。