はじめに
企業のDXを成功させるためには、企業の経営戦略として整合性のとれたDX戦略を立案し、それに沿って施策を実行していく必要があります。ではDX戦略をどのように検討するのでしょうか?
本記事では、DX戦略を成功へと導くフレームワークについて詳しく解説します。
DX戦略とは
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略語です。2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授が提唱した概念で「IT技術の浸透によって、人々の生活があらゆる面で良い方向に向かっていくこと」というものでした。また、経済産業省などにより定義付けされている内容を見ると「デジタル技術によって、ビジネスモデルや人々の生活を根底から変えることを目的とするもの」とされています。そして、DXの推進を目的とする中長期的なロードマップを「DX戦略」と呼びます。DX戦略を検討することで、現状の課題を把握でき、あるべき姿が可視化されるだけではなく組織全体で意識共有ができるので、いざというときに立ち返れる指標となります。
経済産業省提唱 DX成功パターンのフレームワーク
経済産業省は、日本の企業がDXを推進するために、2020年12月に「DXレポート2」を発表しています。そのなかで、企業が具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DXフレームワーク」を説明しています。「DXフレームワーク」はDXの熟練度(デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション)ごとに具体的なアクションの領域を整理することで、企業の目指すべきゴールに対して、逆算して今後の取り組みを検討する際に参照することを想定されています。
DX戦略に役立つビジネスフレームワーク
DX戦略はビジネス戦略・マーケティング戦略などで活用するビジネスフレームワークを活用することができます。
ビジネスフレームワークを活用することで、関係者間の共通言語になり、課題発見や施策提案を行う際に、正しくコミュニケーションを取ることができます。さらに、提供する商品・サービスがどのような顧客体験を提供するのかを明確にすることができます。
ここでは、代表的なビジネスフレームワークについて紹介します。
PEST分析
新型コロナウイルスの流行や為替相場による急激な円安などの予想できない事象の影響を企業は大きく受けました。このような企業の意思とは関係なくコントロールできない影響要因を分析するために役立つビジネスフレームワークがPEST分析です。
PEST分析は政府の政権交代や方針転換、法改正、規制の強化や緩和などの「Politics(政治的要因)」、景気や為替、株価、金利などの「Economy(経済的要因)」、人口動態や生活者のライフスタイルの変化、文化、教育制度などの「Society(社会的要因)」、特許や新技術開発などの「Technology(技術的要因)」の4つの項目から自社が属する業界に与える影響の要因を読み解く分析手法です。
5フォース分析
5フォース分析は特定の業界や競合各社に対する競争環境を分析するためのビジネスフレームワークです。
競争環境を作るのには5つの要因があるとアメリカ合衆国の経営学者マイケル・E・ポーターが提唱しました。5つの要因とは「競合他社」「代替品」「新規参入」「買い手」「売り手」のことを示します。5つの外部環境要因と自社を比較しながら環境を分析することで、収益構造を明らかにし、自社がさらされている脅威を読み解く分析手法です。また、現状の自社のポジションを把握し、脅威に対しての改善施策を図る場合にも有用です。
<5フォース分析の要因>
-競合他社
競合他社との直接的な競争を表します。競合他社との競争では、価格の値引きやコストカットになるケースが多く、競争が激しければ収益性が下がります。競合他社が多く、サービスの差別化が難しい業界の場合、競争は激しくなります。競合他社の数や知名度、資金力など力の強さを明確にしましょう。
-代替品
自社の製品・サービスのかわりになる製品・サービスを表します。以前からある機能をまったく別の機能に変えてしまうような、業界の外からやって来る代替品の脅威を指します。例えば書籍に対する電子書籍、フィルムカメラに対するデジタルカメラなどです。代替品と自社製品との価値の差や、代替品へ乗り換える際の手間やコストなどを明確にしましょう。
-新規参入
自社と同じような製品・サービスに他社が参入することで発生する、競合が激化する脅威のことを表します。新規参入が容易な業界であれば競合他社が増え価格競争が激しくなります。参入を防ぎ、勝ち残るためには「ブランド力・知名度」「資金力」「強固な流通チャネル」などが必要です。自社の影響力を明確にしましょう。
-買い手
直接の顧客・消費者(買い手)との間にある力関係のことを表します。買い手の情報量が多い、製品・サービスの供給過多や、価格競争が激しくなれば企業の提供する単価が下がり「買い手市場」となり、自社の収益性は落ちていきます。買い手と売り手の力関係は対等か、適切な価格設定ができているかなどを明確にしましょう。
-売り手
事業活動における必要な資源を自社に供給する企業との間にある力関係のことを表します。売り手の企業が少数、代替えがきかない供給品を取り扱っているなど事業にとって売り手の存在が重要な場合は「売り手市場」となります。売り手との力関係は対等か、他の供給会社への乗り換えた場合に発生するコストなどを明確にしましょう。
3C分析
自社の事業をより具体的に分析する際に活用するビジネスフレームワークが「3C分析」です。
3C分析は、「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Corporation(自社)」の3つの指標を総合的に評価する分析方法です。それぞれの強みや弱み、ニーズなどを洗い出し俯瞰的に分析できるため、顧客の再認識、自社の強みの発見、競合他社との差別化ポイントを知ることができます。3つの指標のうち、最初に分析するべき対象は「顧客」です。
顧客を知らないままでは、他の指標である他社と自社の評価ができないためです。
– Customer(顧客)
対象事業がターゲットにしている顧客・消費者のこと。ターゲットの年齢や職業などの基本情報と、サービスを利用する際の気持ちや状況などを分析します。
– Competitor(競合)
自社の事業の競争相手のこと。競合には、自社と同じサービスを売り出している「直接競合」と、自社とは異なるサービスで顧客のニーズに応える「間接競合」が存在します。競合の分析とする対象は、顧客のニーズによって変わるため、まずは顧客の分析から実施しましょう。
– Corporation(自社)
自社の事業の現状、資本力、強み、弱みなどです。顧客の分析と競合の分析が終わったら、最後に自社分析で自社の状況・ポジショニングを明確にしたうえで、自社製品・サービスが成功するための勝ち筋を探りましょう。
SWOT分析
市場機会の発見の際に活用するビジネスフレームワークが「SWOT分析」です。
SWOT分析は自社の内部環境である「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」と、自社を取り巻く外部環境である「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」の4つの指標をかけあわせて分析する方法です。自社既存事業の強みを今後も活かしていけるかどうか、将来的に自社の弱みがさらなる脅威を生む可能性はないかなど複数の要素を正しく把握、分析することが可能になります。
– Strengths(強み)
自社が競合に対して差別化できて長所や得意とするところ。内部環境のプラス要因です。
– Weaknesses(弱み)
自社が競合に対して劣っていて、ユーザーのニーズを満たせないところ。内部環境のマイナス要因です。
– Opportunities(機会)
社会や市場の変化によって、自社の事業の成長の機会と考えられること。外部環境のプラス要因です。
– Threats(脅威)
社会や市場の変化によって、自社の事業の成長に悪影響を及ぼし障害となること。外部環境のマイナス要因です。
まとめ
DX戦略を策定するにあたり、現状を知り、今後の施策を考えることが重要です。経済産業省では企業が具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DXフレームワーク」を公表しています。
さらに戦略を決めるためには、外部環境や自社・競合・市場、将来への脅威・機会など幅広い観点から検討する必要があります。そこで考えを整理し分析に役立つのがビジネスフレームワークです。
今回はDX戦略における代表的なビジネスフレームワークについてご紹介しました。年度の切り替わりなど、戦略を立案するタイミングで、ぜひフレームワークの活用を検討してみてください。