はじめに
近年、情報の有効活用はビジネスにおいて重要な課題とされています。しかし企業が成長し事業を拡大すればするほど、扱う情報は増え、データのサイロ化を生んでいるそうです。今回は、そのサイロ化がもたらす弊害と解消方法をご紹介いたします。
サイロ化とは
もともとサイロとは家畜の飼料、米や麦などの農産物などを個別に貯蔵しておく大きい容器あるいは倉庫のことです。各サイロは、互いの内容物が混ざらないように独立しています。そこから転じて、サイロ化とは組織の部門間またはシステム間で業務が完結していて、部門を超えた連携がうまくいかず、縦割り構造になってしまっている状況のことを指します。
2種類のサイロ化
サイロ化には組織のサイロ化と、システムのサイロ化の2種類が存在します。
組織のサイロ化は、縦割り構造で各部門が業務を遂行しているため、別の部門との情報共有ができない状態を指します。部門内での結束力や専門性に効果を発揮する特徴がありますが、互いに何をやっているか認識できないために、別の部門との連携において効率が悪くなります。
システムのサイロ化は、ソフトウェアによって取り扱っているデータの形式が異なるため、保存や活用、データ連携ができず、組織内で貴重なデータを分散してしまっている状態を指します。結局一部のデータしか取り扱うことができず、別のデータの取得には、多くの時間やコストがかかってしまう特徴があります。
サイロ化がもたらす影響
組織力の低下
近年、市場の急速な変化と多様化が進んでおり、企業が新たな市場価値を創出するためには、迅速な意思決定と的確な経営判断が不可欠です。
部門間の連携が取れず、業務プロセスが孤立してしまうと、企業で保有しているはずのデータを部門ごとに保有することになり、正しい分析ができないばかりか、データの独占も起こりえます。悪化すれば内輪の主導権争いが生じ、企業内での信頼の欠如につながる可能性もあります。
その結果、部門間のコミュニケーションロスのみならず、意思決定や経営判断が部門に伝わらず、組織の機能を果たさなくなります。
このような話を聞いたことがあります。
顧客の需要を明確に把握している営業がサービスの商品化を提案した際に、開発チームやエンジニアのリソースが割けず、やむなくサービスの商品化を諦めるといったケースです。
これは、部門間のサイロ化が生んでしまった結果です。本来、企業は1つの目標に向かってコミットするべきですが、サイロ化により部門独自の目標を重視したため、企業としての目標を見失い大きな機会損失を生んでしまったのです。
無駄なコストの浪費
多くの場合、部門ごとにサーバーやシステムセキュリティが設置されているため、サーバー代などは高額になってしまいます。
また、別の部門の状況が確認できないため、ある部門で既に完了している作業であっても、同じ作業に取り組んでしまう事態が発生します。このように貴重なリソースを無駄に消費してしまう状況が継続すれば、時間やコストを浪費する原因になってしまいます。
システムやデータがサイロ化されていると、結果、作業コストが上がってしまい、長期化すると徐々に社員の士気が落ちるのと同時に、業績に悪影響を与えることになりかねません。
データ活用の鈍化
ビッグデータは煩雑な情報の集合体であるため、適切な手法で蓄積させ、処理しなければ活用や分析はできません。データやコンテンツが分断されていると、必要な情報にたどり着くまでに多大な時間と手間を要してしまうので、情報の集約や一元化は必要不可欠です。データの活用が上手くできなければ、顧客の分析ができず、サービスの改善や新たなビジネスの創出もできないため、最終的に企業の業績にも影響をあたえるのです。
サイロ化解消のメリット
組織力向上とビジネスの発展が可能
部門間の連携を促すことで、チームメンバーが部門の壁を越えた関係を形成し、組織力を向上させることができます。全社横断的な業務連携が可能になれば、市場や顧客ニーズに対して迅速かつ的確に対応できる経営体制が構築しやすくなります。
例えば、経営判断が迅速かつ的確に伝わる体制が構築できれば、全社横断的な業務連携が可能になり、ひとつの部門だけでは成しえなかった大きな成果をもたらすことができます。
また、企業のあらゆる情報が統合的に管理されれば、定型業務やルーティンワークを自動化させ、無駄なリソース浪費を解消できるので、部門ごとないしは個人のモチベーションアップにもつながり最大限の成果が発揮できます。
速く最適な経営判断が可能
ビッグデータを解析・処理することにより、いち早く市場の変化や顧客の動向を予測でき、意思決定のスピードが向上します。そして企業にとって最適な経営判断が可能になります。
また、社会の動向を把握したり、ニーズを察知したりすることで、新たなビジネスヒントを獲得するチャンスが生まれます。ビジネスプロセスの変革や新規事業の立ち上げなど、今後の社会を担う大企業への発展を生むきっかけになるかもしれません。
サイロ化の解消方法
では、どのようにサイロ化を解決できるのでしょうか?
組織のサイロ化
1.企業文化の見直し
サイロ化の背景には企業文化が関わることがあります。日本の企業では縦割りの組織構造になっているケースが多く、組織内の分断が無意識に引き起こされていることも少なくありません。組織体系とシステムの分断は表裏一体であり、システムのサイロ化解消よりまず先に企業文化のサイロ化を解消する必要があります。例えば、新しくプロジェクトを発足させ、あらゆる部門からメンバーを集め部門を横断したチームを編成することで社内の部門間交流を活発化させることができます。そこには業務が発生するため、自然とコミュニケーションが生まれますし、単純な会話よりも密な意思疎通が必要とされるため、お互いの理解度を深めることができます。
2.社内DXで部門間のコミュニケーションを活性化
社内SNSのようなメッセージプラットフォームや専用のチャンネルを作成し、別の部門の社員と情報を共有できる環境を構築します。コミュニケーションのインフラを整備し、全社員が各々の仕事を把握できるようになれば、そのプラットフォームの利便性が認められ、もっと情報を共有したいと思うようになります。組織のサイロ化を防止するためには常にコミュニケーションを取るという基本的な原則を忘れないことです。社内のコミュニケーション活性化は組織のサイロ化を防止するだけでなく、積極的な情報共有によって「データのサイロ化」回避にもつながります。
システムのサイロ化
1.新しくシステムを構築する
新しくシステムを導入し、データを統合します。データが分散したシステムはそのままの状態でもデータを統合することが可能です。分散したシステムデータにはほとんど触らずにデータ統合を実現できるため、短期間でシステムのサイロ化を解消することができます。
統合システムにはデータ分析ツールも含まれているケースが多いため、データ統合後の解析も問題ありません。ただし、企業の環境やデータの種類に適合したデータ統合方法とデータ分析ツールが採用されているかどうかを、データ管理の担当者に事前に確認する必要があります。
2.1つのシステムに集約する
複数の情報システムでファイルやアプリケーションを保管している場合、どれか1つのシステムに絞り集約します。例えば、営業部門では顧客との契約履歴、サービス部門では問い合わせ記録、経理部門では請求・支払いデータと部門ごとに分散しているとします。顧客に関する情報を1つのシステムに統合するだけで、顧客情報のサイロ化は解消できます。
既存のシステムを活用するため、新たに導入費用は必要ありませんが、統合する既存のシステムに高い負荷がかかるため、耐えられる容量を保有しているか、一部強化が必要なのかの調査は必要です。
3.データのみ連携・集約する
既存のシステムをそのまま利用しながら、データを連携・集約して一元管理することが可能です。複数のデータベースからデータの抽出・収集、変換・加工ができるETLツールを使用すれば、分散したデータの収集から目的に応じた変換、格納などデータ単位で統合環境を作り出すことができます。ETLツールによるデータの管理には主に2つの処理があり「給与振り込み」「クレジットカードの引き落とし」など処理を行うタイミングが決まっているものであれば「バッチ処理」という処理方法を使い自動的に一括処理してくれます。
また「気象情報」やサイトの「アクセス情報」など常にデータを処理しなければいけないデータについては「リアルタイム(ストリーミング)処理」を使い常時処理させ管理することが容易になります。いずれにしても管理したい情報の特性に合った処理方法を選んで実施することが大切です。
まとめ
情報が溢れている今、企業のサイロ化は企業の成長を妨げる重要な問題です。企業が成長し組織が拡大すればするほどサイロ化は顕著になっていきます。サイロ化は業務の効率を下げるだけでなく、ビジネス変革や新しいビジネスチャンスの機会損失にもつながります。
今後企業として生き残るためには、時代に合わせて変革していく必要があり、このサイロ化の解消と変革は密接に関わります。
企業のサイロ化を見直して、組織力を高めると共にデータのサイロ化を解決すれば、データの分析やAIを使った需給予測などが可能となり、結果として企業の生産能力の向上や業績改善へとつながります。
縦割りの組織体系が無意識のうちに、文化として根付いてしまっている場合、その解消は困難かもしれませんが、今一度、組織が健全な状態であるのか、見直してみてはいかがでしょうか?