健康投資管理会計の戦略マップの作り方について、前回記事で解説しました。今回は続編として、健康投資シート、健康投資効果シート、健康資源シートの書き方について、わかりやすく解説していきたいと思います。
戦略マップの作成がまだの方は、前回記事からお読みいただくことをお勧めします。
本稿では、まず健康投資管理会計における各シートの概要と役割を説明しています。その後、各シートの書き方について、ひとつずつサンプルを見ながら、詳しく解説していきます。特に健康資源シートにおいては、多くの健康経営担当者が見落としがちな“正しい使い方”について言及しています。また、健康経営の年間スケジュールに沿った各シートの活用法についてもまとめました。最後に、上場会社の健康経営担当者であれば、必ず確認しておくべき、今後ますます高まる健康投資管理会計の重要性について、「改訂コーポレートガバナンス・コード」から解説しています。
前回記事と同様に、今回も本稿さえお読み頂ければ、担当者おひとりでも、健康投資シート、健康投資効果シート、健康資源シートを作れるようになります。できる限り丁寧な解説を心がけておりますが、「第三者の意見がほしい」「一部相談したい部分がある」「本当にこれでいいのか不安」という方のために、相談窓口を設けております。本ページの最後の「お問い合わせ」から、お気軽にご相談ください。
1. 健康投資シート、健康投資効果シート、健康資源シートとは?
3つのシートは、健康経営のPDCAを回していく上で、非常に重要な役割を果たします。その役割とは何でしょうか?役割がわかれば、作る意味が見えてきます。各シートの役割を理解するために、あらためて「健康投資管理会計」とは何であるか、おさらいしておきましょう。前回記事で、健康投資管理会計を以下のように説明しました。
健康投資管理会計とは“健康経営の取り組みの”投資対効果”を出すための会計と言えます。つまり、健康経営のあらゆる取り組みにかかった費用を”投資”と考え、それによって従業員の生産性向上など”効果”がどれほど得られたかを分かるようにしましょうということです。”
そして、健康経営の投資対効果は、次の3つを整理することで把握できます。①どんな健康施策にいくら投資し、②そこからどれくらいの“健康効果”が得られたか、そして、③いま社内にどれくらいの“健康資源”が溜まっているかです。すなわち、①をまとめた書類が健康投資シート、②をまとめた書類が健康投資効果シート、③をまとめた書類が健康資源シートと言います。
それぞれのシートの書き方を詳しく解説していきましょう。シートを作成するにあたり、経済産業省が配布する「健康投資管理会計作成準備作業用フォーマット(Excel形式)」を使えば、とても簡単に作れます。ダウンロードページは本稿の最後にリンクを貼っておきます。
2. 健康投資シートの書き方
健康投資シートは、①「どんな健康施策にいくら投資するか」をまとめた書類です。実施する健康施策は、すでに戦略マップの一番左側にまとめてあります。これらの施策にかかる予算を、「外注費」「減価償却費」「人件費」「その他経費」に区分し、金額換算でどのくらい投資しているかを整理すれば完成します。
ここでは具体例として、前回記事で紹介した戦略マップをもとに、健康投資シートを作成しています。

なお、健康投資シートは、フォーマットの「健康投資作業用シート」を使えば、簡単に作れます。戦略マップをもとに、以下のように作業用シートに記入していけば、健康投資シートに自動反映される計算式が入っています。

また、右側の「目的とする健康関連の最終的な目標指標ごとの按分率(%)」には、戦略マップに書いてあるアウトカム指標をすべて並べて書きます。そして、施策ひとつずつについて、各々のアウトカム指標にどれくらい寄与しているか、内訳をパーセンテージで入力していきます。この按分率の入力は、各施策とアウトカム指標のつながりを戦略マップ上で追いながら進めていくことで、迷うことなく完成させることができます。按分率の根拠を客観的に決めることは難しいので、主観的に決めて問題ありません。「この施策は主に何を改善するために行っているのか?」と問いながら、入力していきましょう。最もウェイトを占めるものを太字にすることで、その意識づけがしっかり出来ます。

3. 健康投資効果シートの書き方
健康投資効果シートは、②「実施した施策からどれくらいの“健康効果”が得られたか」を表した書類です。こちらも戦略マップをもとに作成します。

戦略マップで整理されたアウトプット指標、パフォーマンス指標、アウトカム指標について、経年でどのような健康効果(成果)が出ているかを整理します。もし成果が出ていない場合は、新たな施策の検討や推進体制の見直しが必要と判断できます。
さて、上記の戦略マップをもとに作成した健康投資シートが下の表となります。上段がアウトプット指標、中段がパフォーマンス指標、下段がアウトカム指標の経変変化をまとめています。

4. 健康資源シートの書き方
健康資源シートとは、③「いま社内にどれくらいの“健康資源”が溜まっているか」を表した書類です。健康資源とは、“従業員の健康に役立つ社内資源”と考えて下さい。現在、従業員の健康に役立っている資源も、今後役立ちそうな資源も、両方書いておくことがポイントです。次項でいくつか健康資源の例をあげましょう。
健康資源は2つに分類される
健康資源は「環境健康資源」と「人的健康資源」の大きく2つにわけることができます。さらに、環境健康資源は「有形」と「無形」にわけられます。例えば、社内に食堂やコミュニケーションスペースなどがあれば、これは有形の環境健康資源と言えます。また、メーカーなどであれば、自社商品そのものも、有形の環境健康資源となり得ます。例えば、アサヒ飲料株式会社では、乳酸菌関連の商品を多数取り扱っています。乳酸菌は健康に寄与しますので、このような自社商品を使って健康施策に取り組めば、有形の環境健康資源とすることができます。さらに、同社では、乳酸菌関連の自社商品を社内外に促進する「乳酸菌マスター」制度というものがあります。この制度を通じて、従業員は乳酸菌に関する知識を学び、自社商品への理解を深めます。ここで得た学びは、結果として、従業員自身の健康にも役立つため、この制度もれっきとした無形環境健康資源と捉えることができます。(出所:アサヒ飲料株式会社)
それから、人的健康資源は、「ヘルスリテラシー」と「健康状態」の大きく2つにわけて考えます。これらは、後に示す健康資源シートの例からわかるように、いずれも健康投資効果シートにまとめた数値を記入していきます。
さて、あなたの会社にはどのような健康資源があるでしょうか?以下に健康資源の整理に役立つ観点をまとめました。ぜひ参考にして、自社の健康資源を洗い出してみて下さい。

それでは、下に健康資源シートの例を載せておきたいと思います。なお、健康資源はさらなる健康経営の効果的な推進に活用していくことが重要です。次項で述べますが、これまで見落としていた健康資源の新たな活用方法はないか、是非じっくりと健康資源シートを眺めながら、検討してみて下さい。今回はそのヒントとして、いくつかのセルにコメントを追記しています。ご参考下さい。

9割の人が知らない健康資源シートの使い方
健康資源シートには、社内に存在する“健康資源”がすべて書き出されています。健康資源は“資源”ですので、これをさらなる健康経営の推進に活用しない手はありません。手持ちの資産を有効活用することは経営の基本です。そこで、いったん健康資源シートが完成すれば、シートを見渡してみて、来期の施策や推進体制の強化に具体的に使えるものはないか、充分に検討して下さい。
たとえば、社内に運動系サークルがあれば、タイアップイベントを実施することはできないでしょうか?ほかにも、もし毎回参加率の高いセミナーがあれば、別のイベントや制度の告知をして認知を広げるチャンスになります。これまでの活動で蓄積された資源を上手に使いこなすことで、健康経営をさらにアップグレードさせていくことができるのです。
5. 健康経営の年間スケジュールにあわせた各シートの活用法
さて、健康経営の年間スケジュールをあわせて、各シートをどのように使っていくことが最も効果的か、押さえておきましょう。
まず毎年8月~9月に、健康投資シート、健康投資効果シートを振り返りながら、アウトカム指標やパフォーマンス指標、アウトプット指標など、各指標の数値の経年変化をまとめていきます。この2つのシートをまとめていくことで、健康資源シートに新しい社内資源を書いて行くことができます。そして10月には、これらをもとに健康経営度調査に回答します。
調査票の回答を終えた後、11月~12月で、効果の低かった施策の見直しや新たな健康資源を使った取り組みを検討し、来期の予算確保をしながら、戦略マップを刷新していきましょう。
6. 2021年6月から人的健康投資がますます必要に。その理由とは?
上場会社にとって、人に対する健康投資が、今後ますます重要であることが明らかになっています。2021年6月11日、東京証券取引所は、上場会社のコーポレートガバナンス・コードを改訂しました。主な改訂ポイントのひとつに、「サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示」することが求められるようになりました。同社が公開する「コーポレートガバナンス・コード(改定前からの変更点)」に詳細が書かれています。

出所:日本取引所グループ
「人的資本の投資について、経営課題との整合性を意識しつつわかりやすく具体的に情報を開示・提供」することは、まさに戦略マップ、健康投資シート、健康投資効果シート、健康資源シートの作成し、これらをもとに、健康経営を推進していくことに他なりません。もはや健康投資管理会計は、上場会社にとって必要不可欠と言えます。
7. まとめ
健康投資管理会計の健康投資シート、健康投資効果シート、健康資源シートの書き方についてまとめてきました。それぞれのシートを作ることは決して楽な作業ではありません。しかしながら、戦略マップを含めた健康投資管理会計の書類をすべて用意し、フル活用していくことで、着実にPDCAサイクルに根差した健康経営を進めて行くことができます。重要なことは、シートを作っただけで終わらせるのではなく、健康経営のPDCAサイクルにうまく活用していくことです。
パソナでは、健康投資管理会計の各書類(戦略マップ、健康投資シート、健康投資効果シート、健康資源シート)の作成にあたり、無料相談窓口を設けております。「これから作るのでアドバイスがほしい」「第三者の意見がほしい」「わからない部分がある」という方は、以下よりご連絡ください。30分~60分程度、オンラインビデオ会議にて、作成のアドバイスをさせていただきます。
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