8月18日、令和7年度「健康経営度調査」の調査票が公表されました。本調査票は毎年見直しが行われており、今年度も複数の箇所に変更が加えられています。本稿では、昨年度からの主な変更点を取り上げ、それぞれの狙いや背景を分析・解説していきます。
なお、「すべての変更点をいち早く確認したい」という方は、記事後半に変更点一覧表をご用意しておりますので、そちらをご参照ください。
健康経営推進の3つの方針
まず変更点の解説に入る前に、経済産業省が示す今後の健康経営推進に関する基本方針を確認しておきましょう。経済産業省では、これからの健康経営のあり方を示した上で、今後の推進方針として以下の3つを掲げています。
・健康経営の可視化と質の向上
・新たなマーケットの創出
・健康経営の社会への浸透・定着
これらの方針は、実は昨年度から変わっておらず、今年度も引き続き重要な推進軸として位置づけられています。調査票の設問改訂においても、これらの方針が色濃く反映されており、内容の見直しに大きな影響を与えています。以下では、こうした背景を踏まえながら、今年度の主だった変更点を見ていきましょう
今年度の重要な変更点を徹底解説!
それでは、今年度の調査票において、特に重要な変更点をピックアップし、解説していきたいと思います。
経営トップの関与が明確に問われるように
今年度の調査票では、健康経営に対する経営層の関与状況が非常に高いレベルで問われるようになりました。これは最も大きな変化のひとつと言えます。
【Q17】の【SQ4】では、経営トップ自らが、従業員の理解や意識の促進のためにどのような取り組みを行っているか問われます。なお、こちらの設問は健康経営銘柄およびホワイト500の認定要件に係る設問となっています。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
【Q18】の【SQ1】では、社外への情報開示においても経営トップがどの程度関与しているか問われるようになりました。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
【Q23】では、設問文において「経営層がリーダーシップを持ち推進することが重要」と明記した上で、どのレベルの会議体で健康経営の推進方針が議論し決定されているか問われるようになりました。昨年度までは、意思決定の所在は問われませんでした。今年度は、経営層による意思決定が高い評価に繋がることがわかります。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
【Q73】では、健康経営の課題の改善状況をどのように検証しているか問われます。同設問の【SQ1】では、その検証結果の確認や最終的なレビュー、改善案の決定を誰が担っているか問われるようになりました。選択肢を見れば、経営トップの関与が期待されていることがわかります。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
性差・年齢に配慮した健康経営がより重視されるように
性差や年齢に配慮した取り組みができているか、昨年度より明確に問われるようになりました。
【Q38】の【SQ1】では、従業員の健康保持・増進施策について、管理職の教育内容が問われます。昨年度まではなかった「性差や年齢に配慮した職場環境づくり」という項目が新たに追加されています。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
【Q39】の【SQ1】では、 従業員に対する教育についても、昨年度まではなかった「更年期症状・障害(男女問わず)」という項目が新たに追加されています。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
【Q50】では、高年齢従業員に特有の健康課題に特化した取り組みが問われますが、昨年度に比べ、選択項目がより詳しく提示されています。高年齢従業員への具体的な取り組みが求められていることがわかります。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
PHRの活用がますます求められる
近年、PHRの活用は健康経営における重要な要素として継続的に求められてきました。今年度もその傾向は変わらず、設問にも数多く反映されています。
【Q40】では、従業員がPHRサービスを活用できる環境をどの程度整えているか問われます。昨年度にはなかった「従業員が自身のPHRを専門職・医療職に共有し、相談できる体制を整えている」という回答項目が追加されました。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
また、【Q40】の【SQ2】では、PHRの集計データをどの程度活用できているか問われるようになりました。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
健康経営は100社100様の時代へ
【Q17】では、健康経営の推進に関する全社方針を社内向けに明文化しているか問われます。これに関しては、昨年度も問われましたが、今年度は自社にとって必要な健康経営を独自に追求し、より本質的な企業価値の向上に貢献する実践が行えているか重点的に問われます。
具体的には「健康経営の推進方針」「健康経営の目標」「目標の達成状況を確認する指標(KGI)」について、自由記述による回答が求められます。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
この設問に関しては、今年度調査の方向性を示した「第3回健康経営推進検討会」での言及が、内容に反映されていると言えます。健康経営の推進方針は、調査票を教科書としてベースにしつつも、一方で100社100様であるはずという見解から、各社が独自に追求できる制度設計にすべきとの意見が出されました。
【Q17】の設問変更は今後の健康経営のあり方に大きな影響を与えるターニングポイントとなりそうです。

(※出所:第3回健康経営推進検討会事務局資料)
海外拠点の健康経営状況が評価対象に
日本の健康経営の仕組みをアジアを中心に海外展開する動きが加速しています。そんな中、今年度調査では、グローバル拠点における健康経営の実施状況を問う【Q20】が評価対象となりました。こちらの設問は健康経営銘柄およびホワイト500の認定要件に係る設問となっています。海外グループ会社を含め、グループ全体で健康経営を推進する企業ほど高く評価されることがわかります。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
取引先等への支援状況がより具体的に問われる
また健康経営の社会への浸透・定着が目指される中、企業には自社従業員を越えた健康増進の取り組みがますます求められるようになってきました。
【Q21】では、取引先や他社に対する健康経営の支援状況が問われます。昨年度と比らべ、今年度は設問の選択肢が大幅に変更され、支援内容に一層の明確さが求められるようになりました。また、昨年度は勉強会やセミナー等の開催も「支援」として認められていましたが、今年度からは注記が加わり、「事例共有、意見交換は支援に該当しません。具体的な実施手順の指導や独自のテンプレートの提供、個別の改善指導など、具体的なノウハウを提供している場合は支援として選択肢「1」~「3」に該当します」とされています。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
なお、自由記述欄では設問文に「具体的な支援先名や」と追記されましたが、こちらは「公表可能な範囲で」とのことから、回答への影響はほぼないと思われます。
ワークライフバランスの推進状況がより詳しく問われる
2025年4月1日から段階的に育児・介護休業法が改正されることを受け、今年度調査では、仕事と育児・介護の両立支援の状況がより詳しく問われるようになりました。
【Q44】では、仕事と介護の両立支援について問われますが、<施策実行>の項目が昨年度より具体的に記述されています。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
そして【Q45】は新設問です。介護制度の利用人数が問われます。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
健康風土の把握方法が新たに問われるように
【Q72】は新設問です。健康経営の継続的な実施により、組織に醸成される健康風土をどのように把握しているか問われます。

(出所:令和7年度健康経営度調査 調査票)
以上、今年度の調査票の主な変更点を取り上げました。冒頭でも述べましたが、昨年度から大きく変わったポイントは、“経営トップの関与”がはっきりと問われるようになったところです。それから、ここ数年間、常に重視されてきた内容がいよいよ設問に厳密に反映され、高いレベルで求められるようになりました。性差や年齢差に配慮した取り組み、PHRの活用、海外拠点の健康経営、他社への支援など、より具体的に掘り下げて問われるようになったと言えます。
変更点一覧表
以下に今回の調査票変更点を一覧でまとめております。ご参考下さい。
なお、PDF版をご希望の方は、以下よりダウンロードページにお進みいただき、必要事項をご入力の上、ダウンロード下さいませ。
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