コラム
2025.12.5 更新

産業医と保健師だけでは限界がある。いま企業が「心理職」を活用すべき理由

 

 

近年、企業におけるメンタル不調者の増加はもはや一部の業界に限った話ではありません。特に中堅から大手企業では、仕事の高度化、リモートワークによる孤立、管理職のストレスなど、あらゆる層で心の健康課題が顕在化しています。
多くの企業では産業医や保健師を中心に産業保健体制を整えていますが、実際にはフィジカル面の対応が中心で、メンタルケアまで十分に手が回らないという声も少なくありません。一人あたりの面談時間も限られており、「じっくり話を聴く」ことが難しい状況にあります。その結果、一次対応が遅れたり、再休職を防げなかったりするケースも見られます。

こうした課題を補完する存在として、今注目されているのが「心理職(公認心理師・臨床心理士)」です。

 

保健師×心理職の“二人三脚”が生み出す新しい支援体制

 

企業内での心理職の役割は、「心の専門家」として社員一人ひとりにじっくり寄り添うことにあります。
心理職は思考や感情、行動の背景を丁寧にひもとき、必要に応じて行動変容を促したり、医療機関への受診につなげたりします。とくにメンタル不調を抱える社員にとって、会社内で相談できる心理職がいることは大きな安心感につながります。一方、保健師は社員全体を対象に、健康診断のフォローや生活習慣、心身の不調の相談など、幅広く対応します。

つまり、保健師は社員の健康管理を総合的にフォローできる存在として、心理職はメンタルヘルスに特化した存在として、昨今の産業保健ニーズに適する形で補完し合うのです。

※「産業心理職活用ブック」より抜粋

 

例えば、休復職の場面では、保健師が日々の体調や生活リズムを一緒に整えながら、社員が安心して職場に戻れるよう、環境面の調整を行います。同時に、心理職は不安やストレスとの向き合い方を一緒に整理し、再発防止のための心のケアをサポートします。産業医とも連携しながら、それぞれの専門性を持ち寄ることで、社員と職場にとって無理のない復職と、その後の安定した就業を支援していくことが可能となります。

ほかにも、保健師と心理職が連携することで、心身双方のサポートが必要な相談に柔軟な対応ができるようになります。たとえば、「がん治療中で仕事との両立が不安」「腰痛が続いて気分が落ち込む」など、身体の不調と心の悩みが複雑に絡み合うケースでも、治療状況の把握から働き方の調整、気持ちの揺れへのフォローまで、一連の支援を切れ目なく進めることができます。またLGBTQなどダイバーシティに関連する相談では、心理職が心理的安全性を高めながら、保健師とともに社員が安心して話せる環境を作ることができます。

 

実際の企業事例―心理職の配置で休職者が減少

 

弊社パソナのクライアント企業では、もともと産業医と複数の保健師のみで産業保健体制を組んでいました。しかし、ここ数年でメンタル不調による面談件数が増加し、対応が追いつかない状況に陥っていました。
産業医は1日あたり20~30人を15~30分単位で対応していました。保健師も常時5~6名体制でしたが、相談時間が短く、経過観察まで手が回らないケースが増えていました。
そこで、同社は保健師の活用に加えて、メンタルケアの専任担当に臨床心理士を活用することとしました。それまで一次相談はすべて保健師が窓口でしたが、以後メンタルに関するものは心理職が担当窓口となり、必要に応じて産業医にエスカレーションする仕組みを新たに作りました。さらに、社内報などで「心理職が常駐している」ことを周知しました。その結果、社員が感じる普段の悩みや心配事など、潜在的な相談も拾えるようになり、早期対応が進みました。
継続的に面談を行うことで、休職や再休職の予防にもつながり、結果的に休職者数が減少しました。人事担当者の業務負担も軽減されたといいます。

 

「心理職を活用するメリット」は人事にもある

 

人事部門では、メンタル不調者への対応が“想定外の業務”としてのしかかっていることがあります。たとえば、休職・復職の調整、本人との面談、本人の上司への助言などは、本来の人事業務とは異なり、心理的・時間的負担が大きいのです。
心理職を配置することで、これらのフォローアップを専門家に任せ、人事担当者は自らの業務に専念できるようになります。
また、心理職が入ることで、上司や管理職から「どう声をかければいいか」「どこまで踏み込んでよいか」といった相談にも的確に応じられるようになります。職場全体のコミュニケーションの質が向上し、結果として“メンタル不調を生みにくい組織風土”が形成されていきます。

以下は心理職が産業保健で担う役割とその効果をまとめた図です。従業員へのメンタル支援だけでなく、産業医・保健師・人事・管理職に対しても “心理”の専門家として適切な助言や支援を行い、職場の健康管理体制をより確かなものにします。

※「産業心理職活用ブック」より抜粋

 

企業内カウンセリングの価値―「相談できる安心」が離職防止にも

 

保健師から医療機関への受診を勧められても、「診断書を出されたくない」「カウンセリングが自費だから通いにくい」と感じる社員は少なくありません。
しかし、企業内に心理職がいることで、「まずは社内で相談してみよう」と思える心理的ハードルが下がります。
心理職による定期的な面談やカウンセリングは、適切な心理的介入を可能にします。心理的介入はストレスによる不調の早期改善や休職期間の短縮につながるという研究成果が報告されています。さらに、職場環境の調整を併せて行うことで、再休職のリスクを下げる効果があることもわかっています。 心理職は“再発予防”のフェーズでも重要な役割を担うのです。復職後の不安や職場適応の悩みを丁寧にサポートすることで、安定した職場復帰を支えることができます。

 

心理職の活用は「コスト」ではなく「投資」

 

心理職の活用にあたっては、「費用対効果」を懸念する企業も少なくありません。しかし、心理職が関わることで休職者の減少・早期復職・離職防止につながる事例が続出しています。結果として、採用や教育にかかるコストの削減、業務効率の向上、職場エンゲージメントの向上といった、目に見える成果が得られるのです。つまり、心理職の配置は「福利厚生」ではなく、組織の生産性を高める「健康経営投資」といえます。

 

「産業心理職活用ブック」のご案内

 

健康経営を進めるうえで、「心の健康」はいまや欠かせないテーマとなっています。産業医・保健師に加えて心理職が関わることで、社員一人ひとりの声に丁寧に寄り添い、ちょっとした心の変化にも早い段階で気づける体制が整います。その積み重ねが、社員の安心や働きやすさ、そして企業の安定した成長へとつながっていきます。
「メンタル不調を減らしたい」「社員が安心して相談できる環境をつくりたい」と考える企業こそ、心理職の活用を積極的に検討していくことを強くお勧めします。

今回、弊社パソナでは心理職導入に関するご相談が増えている状況を受け、産業心理職の役割や効果的な活用方法をわかりやすくまとめた『産業心理職活用ブック』を作成しました。本資料では、主に下記のテーマを中心に構成しております。

※「産業心理職活用ブック」より抜粋

 

本稿ではこの内容の一部を解説致しました。産業心理職の活用について、さらに詳しく知りたいご担当者さまは、以下のリンクよりダウンロードページへお進みください。