コラム
2022/12/16 更新

健康経営に取り組んでも不健康社員が減らない本当の理由

健康経営に取り組んでも、不健康な社員がいっこうに減らないということがあります。その理由はざまざまで、決してひとつに絞ることはできません。しかしながら、年間350社以上の健康経営を支援する中で見えてきた実態は、健康経営に対する“誤った捉え方”が、健康経営が思うように進まない大きな要因となっているようです。

 

 

 

1. 健康経営の“誤った捉え方”とは?

これまで法令対応をきっちりやってきた会社が、健康経営に取り組み始める際、得てしてウォーキングイベントや健康セミナーの実施など、ポピュレーションアプローチ中心の健康経営になりがちです。具体的な施策としてイメージしやすく、経営陣にも説明がつきやすい分、すぐに実行に移せるところがメリットですが、一方で、これらは病気や不調の予防施策であることがほとんどで、これだけではハイリスク者が置き去りのままとなります。

逆に健康診断で明らかになったハイリスク者だけに対応したとしても、潜在的リスクのある社員をケアすることはできません。対処療法的に応じるばかりでは、次から次へと不健康社員が現れ、モグラたたき状態となります。

 

組織全体の健康維持・増進を目的として考えれば、ポピュレーションアプローチだけをやることも、ハイリスク者対応だけで良しとすることも、健康経営としては不十分であり、誤った捉え方であることが分かります。このような問題を解決するためにも、今一度、健康経営とは何であるか、明確な定義を再確認することが肝心です。定義が確認できれば、健康経営を正しく捉え、成果の上がる活動として何をやるべきかが見えてきます。

2. 鳥の目で正しく捉える健康経営俯瞰図

経済産業省では、「『健康経営』とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。では、「従業員等の健康管理を実践する」とは、どんな活動を指すでしょうか?普段の健康経営施策として行うポピュレーションアプローチもそうですが、そもそも法令対応や産業保健も含まれることは、誰の目にも明らかです。つまり、健康経営の定義を俯瞰的に図化すれば、以下のようになります。

それぞれの活動項目には、健康経営を効果的に進める役割があり、いずれも等しく重要な活動と言えます。ゆえに、健康経営が思うように進まない時に考えられる原因は、次の2つに絞ることができます。(1)いずれかの活動の不在、不足または機能不全、(2)各活動の有機的な統合が出来ていないこと。

(1)の場合、最も多いのが産業保健の不在や不足です。(2)の場合は、オペレーションに課題があることも多いですが、もっと根本的なところで、年間を通した健康経営全体のスケジューリングが意識されていないケースもあります。

今回は、産業保健の重要性について、もう少し掘り下げたいと思います。スケジューリングの方法論に関しては、次回コラムでご紹介します。

3. 産業保健不在の健康経営は何が問題か?

産業保健の抜け落ちた健康経営は何が問題なのか。先にも述べた通り、健康診断で明らかになったハイリスク者と健康に全く問題のない社員との間には、往々にしてたくさんのグレーゾーン社員がいます。産業保健体制が不十分な場合、そういったグレーゾーン社員への対応がごっそり抜け落ちてしまう可能性が高いことが問題なのです。

産業医が担う就業判定では、「通常勤務」と判断された社員の中にも、例えば、翌日に心筋梗塞を起こしても不思議ではない人もいるのが事実です。これは決して産業医の判断が誤っているわけではありません。法令で定められた判定方法には、「就業制限」や「要休業」として制限をかけるか、「通常勤務」として制限をかけないかのいずれかしかなく、産業医はどこかで線引きをしなければなりません。つまり、「就業制限」のほんの一歩手前にいる人が「通常勤務」と判定され、健康上なんら問題のない人として扱われてしまうのです。

もちろん産業医によっては、グレーゾーンにいる社員を個別に面談することもありますが、あくまで任意の判断です。また、就業制限や要休業と判定する際のリスクも、産業医の腰を重くしてしまう原因と言えます。会社の事業活動に支障を与えるリスク、従業員の働く権利やキャリア形成への阻害リスク、疾病利得(病気であることによって得られる利益)を生むリスクなど、さまざまなリスクが生じるため、判定はシビアにならざるを得ません。

しかし、産業医以外の産業保健体制がしっかり整っていれば、グレーゾーンにいる社員をフォローできる術が出てきます。例えば、産業看護職です。保健師や看護師がいることで、人事部では閲覧することのできない社員の健診データを個別にチェックすることが可能となり、就業判定で取りこぼしたグレーゾーン社員に面談設定、保健指導、二次検査の受診勧奨を個別に行えるようになります。

他にも、ストレスチェックで明らかになった高ストレス者に対して、人事部から突っ込んだ話を聞くことはできませんが、産業看護職であれば、対象者に人事評価や社内の人間関係を気にさせることなく、相談機会を作り出すことができます。また、役職クラスなど、組織内で影響力の大きい社員、また気難しい社員への対応も、産業看護職には守秘義務があるからこそ、フォローしやすくなります。

4. 産業保健体制づくりでよくある失敗とは?

産業看護職がいれば、産業医だけではフォローしきれなかったハイリスク者への対応やグレーゾーン社員への個別のアプローチなど、できることが相当に増えます。次から次へと出る不健康社員に歯止めをかける“盤石な産業保健体制”を作ることが可能となります。

しかし、産業看護職さえ採用すれば、産業保健がうまく回り出すというわけではありません。ここで、産業保健体制を作っていく際のいくつかの注意点を記しておきます。

産業看護職を採用した際に、最もよくある失敗は、会社側(経営陣や人事担当)と看護職側で、健康経営に対する意識のズレが生じることです。最もわかりやすい例は、ホワイト500などの認定取得を目指す場面です。会社側は認定取得に重きを置くあまり、健康経営度調査の偏差値が、組織全体で上がる活動に専念し始め、個の健康が無視されがちになります。一方で、看護職側としては、健康リスクを抱える社員が一人でもいるのであれば、程度によっては最優先に対応すべきと考え、ここに軋轢が生まれます。限られたマンパワーと予算の中で、何を最優先に健康経営を推し進めるか、対話を重ね、双方の信頼関係を築いていくことが重要です。

他にも初歩的なところで、人事担当者が産業看護職に何を頼んでいいかわからないというケースもよくあります。経験値の高い看護職の方であれば、やるべきことを主体的に割り出し、明確な指示がなくとも、目的意識をもって動いてくれますが、経験の浅い人ではそうはいきません。この課題には、先に示した「健康経営の全体像」を、まず人事担当者がしっかりと把握し、健康経営の目指す姿と現状を看護職と共有することが大切です。その上で、今できていること、これからやらなければならないことを施策レベルで洗い出し、看護職を含めたオペレーションの構築を行っていきましょう。

5. 最短ルートで産業保健体制を作る方法

これまでの内容から、健康経営を成功させる上で、産業保健体制の構築は不可欠であることがご理解いただけたかと思います。一方で、産業看護職の採用やマネジメント、オペレーション構築には、初めてのことも多く、大きな工数を要します。このような課題から、昨今多くの企業で取り組まれているのが、産業保健のアウトソーシングです。企業の健康管理室の機能をまるごと専門会社に業務委託する方法で、安定した産業保健体制を迅速に敷き、恒久的に運用することができます。メリットが多い産業保健のアウトソーシングですが、企業規模や状況によっては、うまく機能しない、またはコスト高となるケースもあります。

以下の動画では、産業保健のアウトソーシングの具体例を紹介しながら、導入のメリット、デメリットとともに、どんな企業が適しているか、または適していないかをわかりやすく解説しております。この動画は、2022年12月20日に弊社パソナが開催したオンラインセミナー「なぜ健康管理室を業務委託に出す企業が増えているのか」のアーカイブです。セミナー当日は70名を超える人事担当者、経営者の方にご参加いただきました。大変好評のセミナーとなりましたので、本稿読者の皆さまにもお役立ていただければと思い、この度、期間限定で無料公開させていただくことと致しました。以下の視聴ページより今すぐご視聴下さい。(※ご視聴には登録が必要です。)

 

 

 

 

著者名:パソナ・健康経営コラム編集部

健康経営・産業保健の推進パートナーとして健康経営の「着実な一歩」を伴走サポートするパソナが運営しています。
企業のご支援経験だけでなく、パソナ自身が健康経営銘柄に初選出、ホワイト500を7年連続取得する過程で得たノウハウを踏まえ、皆様にお役に立つ情報を発信しています。
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