コラム
2022/05/30 更新

健康診断の二次受診率アップに役立つ10のチェックリスト

健康診断の結果が悪いのに、再検査を受けようとしない。そんな社員には、どのようなフォローや対応をしていけばいいのでしょうか?

本稿では、二次受診勧奨のプロである産業保健師10名に、受診率を高める方法について聞き取り調査を行い、わかりやすい10のチェックリストとしてまとめました。はじめの3項目は、人事部主導で比較的すぐに取り組めること、次の4項目は保健師と連携して取り組めること、最後の3項目は経営層や管理職と連携して取り組めることをあげています。

二次受診勧奨の重要性は痛いほどわかっているが、他の業務に時間をとられ、充分な対策がとれていないという人事担当者の方は、ぜひご一読下さい。本稿をお読みいただくだけで、明日からでも、すぐに取り組める施策が見つかるはずです。

 

 

 

1. 人事部主導ですぐに取り組めること

(1)社内ルールと受診勧奨のオペレーションは明確か

二次受診率を上げるために、まずやるべきことは、受診を徹底する社内ルールを、目に見える形で作ることです。単純なことですが、例えば、「要精密検査や要治療の判定が出た人は、必ず受診して下さい」という案内を、社内報や社内イントラにきっちりと書くだけでも、受診率は高まります。加えて、受診に行かない社員が出た場合に、誰から、いつ、どのような方法で、本人に連絡し受診を促すか、人事部や上長など、関係者のオペレーションをはっきりさせておくことで、着実に二次受診率は上がります。

(1)社内ルールと受診勧奨のオペレーションは明確か

(2)各社員研修に健康管理の内容を盛り込んでいるか

二次受診率が上がらない要因のひとつに、社員の健康管理への意識の低さがあげられます。さらに言えば、二次受診の重大性が伝わっておらず、軽視されてしまうのです。健康管理への意識を高める方法として、今すぐできることは、社内研修に、健康管理の内容を盛り込むことです。例えば、新入社員研修では、社会人としての健康管理について座学を行い、その中で定期健康診断と二次検査の位置づけについて、具体的に教えます。要再検査や要治療の判定が出れば、受診するのが当たり前という意識づけができれば、将来的な二次受診率アップに繋がります。また、新任管理職研修では、マネージャー自身だけでなく、メンバーの健康管理も含めて、マネジメントが求められることを伝えるのも効果的です。

(3)受診すべき社員への声かけはできているか

要再検査や要治療など、二次受診が必要な社員への声かけも大切です。なぜ受診したほうがいいのか、なぜ今受診すべきなのかなど、産業医の先生の意見を仰ぎ、メールや電話等で、該当する社員に個別に連絡をとっていきます。また、緊急性が求められる場合には、上長や経営層へ働きかけ、速やかな受診に繋がるようにします。ただし、人事担当者が、専門的な医療知識なしで、受診すべき理由を伝えていくのは、限界があります。どうしても、事務的に捉えられてしまったり、形骸化してしまったりする恐れがあります。これに関しては、(6)でより効果的なやり方を紹介したいと思います。

(3)受診すべき社員への声かけはできているか

 

さて、以上が人事部主導で取り組める二次受診率アップのための施策です。未着手のものがあれば、ぜひ取り掛かってみて下さい。続いて、保健師と連携しながら取り組むべき施策を紹介しましょう。

2. 保健師と連携して取り組めること

(4)健診結果は一人ずつ確認できているか

二次受診を促そうと、人事担当者が社員一人ひとりの健診結果を見ることはできません。また、産業医の先生も常にいるわけではありません。そこで、保健師がいれば、守秘義務の範囲内で、全社員の健診結果を医療的な視点で個別チェックができます。また、経年変化を踏まえた上で、誰にどんな健康リスクがあるかも知ることができます。さらに、要再検査や要治療の判定がでた社員に対しても、その緊急度を判断することができます。それぞれの社員の職種や働き方なども考慮した上で、二次受診を急いだほうがいい社員、いったん生活習慣の改善を試みてから再診としても大丈夫な社員など、的確に現状を説明できるからこそ、二次受診を促すことができるのです。

(5)二次受診に行かない理由を把握できているか

二次受診に行かない理由は、社員それぞれにあります。場合によっては、人事部の立場では、うまく話してもらえないこともあります。例えば、業務遂行に支障はなくとも、特殊な病気をかかえる社員がいたとして、「医療知識のない人事部に話しても理解してもらえないだろう」と考えているかもしれません。また、「人事部に話せば評価に影響するのではないか」と心配する社員もいます。このような場合でも、保健師が聞き手であれば、守秘義務があり、医療職だからこそ、話してもらいやすくなります。それぞれの受診に行かない本当の理由がわかれば、よりパーソナルな部分に寄り添った形で、かつ医療的な視点で、新しい提案をすることも可能になります。

(6)受診に行かない社員にも継続的なフォローを

どれだけ個別に的確な声かけをしても、結果的に受診に行かない社員は一定数出てきます。そのような社員に対しては、たとえ今は受診せずとも、どうすれば今後行ってもらえるか、少なくとも生活改善はできているかなど、メールや電話で継続的なフォローを行い、行動変容の機会を伺います。ここでも、保健師がいれば、医療的に具体的なフォローを行うことができ、人事担当だけではできない説得を継続することができます。

(6)受診に行かない社員にも継続的なフォローを

(7)全社的な情報発信はできているか

(3)~(6)で見てきた通り、二次受診勧奨において、できる限り徹底したいことは、社員一人ひとりに合わせた個別対応をとっていくことです。しかしながら、これでは多大な工数がかかるため、現実的に難しいところです。これを補う形で、二次受診率を高める押しの一手となるのが、積極的な全社レベルでの情報発信です。社内メールやイントラ、社内報を活用し、健康情報を発信していく仕組みを整えます。健診時期には、二次受診や特定保健指導に関するコラムを配信したり、それ以外の時期には、季節性インフルエンザや養生、健康トレンドなど、社員が興味を持つ内容を積極的に発信していきます。このような発信作業は、人事担当だけでもできますが、保健師に任せるとより効果的です。医療職だからこそ、信頼性が増し、説得力が出てくるからです。また、発信した内容に質問があった場合、迅速かつ的確に回答することもできます。質問があるということは、興味関心があるということです。適切なフォローを行えば、保健指導につながることも、往々にしてあり得ます。地道な情報発信によって芽生えた社員の健康意識を、気づかぬうちに摘んでしまわぬよう、保健師は積極的に活用していくべきと言えます。

以上が、保健師との連携でできる二次受診率アップのための施策でした。以降は、経営層や管理職と連携して取り組める施策について、述べていきます。

3. 経営層・管理職と連携して取り組めること

(8)経営層からのトップダウン発信はできているか

社員の行動変容を促す最もパワフルな手段は、経営層からの直接発信です。会社として目指すべき姿を、根拠を述べて社員に伝えることができるのは、経営層だけです。会社が進める健康経営の文脈で、二次受診の重要性を示してもらえれば、それだけでインパクトは変わってきます。具体的には、全社メールでの発信、全社的な行事での発信など、なるべくパフォーマンス性があがる形で実施することもポイントです。

(8)経営層からのトップダウン発信はできているか

(9)管理職と連携し発信はできているか

(8)の経営層からのトップダウン発信に次いで、管理職と連携し発信してもらうことも、二次受診率を向上させる上で、大きな役割を果たします。経営層が会社としての方針を示す一方で、管理職は実際的に現場で声かけができる立場にあります。日々の業務の中で、部下の様子を気にかけたり、場合によっては、業務上のワンオンワンミーティングで、健康状態を確認するタイミングを設けることもできます。なお、管理職との連携を密にするためにも、 (2)で述べた管理職研修での健康管理教育は欠かせません。

(10)就業時間内に受診できる体制づくりを

経営層、管理職としっかり連携がとれれば、併せて進めるべき施策は、就業時間内の受診を許可する体制づくりです。体制づくりと言っても、受診OKとするルールを作るだけでは機能しないことがあります。社員はどうしても遠慮しがちになったり、周囲の様子を伺って、受診に行きづらかったりするもので、ここでは、雰囲気づくりも含めた対策が必要です。具体的には、上長から部下に声かけをしたり、メールで受診を促したりします。また、保健師がいれば、保健師から上長に、受診を急ぐ人にはなるべく配慮してほしい旨を伝えることも有効です。

(10)就業時間内に受診できる体制づくりを

4. 二次受診率だけを追いかける会社は失敗する

二次受診率アップに役立つチェックリストとして、人事部主導ですぐに取り組めること(3項目)、保健師と連携して取り組めること(4項目)、経営層や管理職と連携して取り組めること(3項目)を紹介してきました。

最後に、ひとつ注意点をお伝えしておきたいと思います。二次受診率を上げることは重要ですが、数字を追いかけることだけが、必ずしも会社として良い方向に進むわけではありません。

例えば、再診判定が出た社員の中にも、健康リスクにはグラデーションがあります。医療職から見て、今すぐ受診したほうがいい社員もいれば、少なからぬ緊急性が低い社員もいます。当然、前者に対するフォローと後者に対するフォローは、質も量も変えていかなければなりません。一様に取り扱ってしまえば、受診勧奨が本当に必要な社員に届かない恐れが出てきます。また、健康リスクが軽微な社員に対して、しつこく二次受診を勧めるあまり、本当に重大な時に行ってもらえないケースも出てきます。これでは本末転倒です。

二次受診率を向上させることは手段であって、目的ではないと言えます。本来的には、社員一人ひとりの健康管理のために、ある一定のレベルで信頼できるKPIとして、二次受診率は捉えるべきなのです。

5. 最悪の事態を未然に防ぐ正しい産業保健体制とは?

健康診断の二次受診率にフォーカスし、向上させていくことは、組織の健康状態を全体的により良くしていくための有効な手段であることは間違いありません。しかし一方で、数字では見えづらい社員一人ひとりの個別の健康状態を見落としてしまう危険性をはらみます。大切なことは、全体的な底上げと、局所的な問題解決を両輪で回していける盤石な産業保健体制を作っていくことです。

あなたの会社の産業保健体制はどうでしょうか?ここで述べた10項目のチェックリストは、簡易的ではありますが、現在の産業保健体制を見直すきっかけとしても、ご活用いただけます。なお、より詳しく産業保健を見直したい方は、以下の無料で診断できる産保サーベイをお試しください。72の問いに答えるだけで、あなたの会社の産業保健の強化すべきポイントが見えてきます。

 

 

 

 

 

著者名:パソナ・健康経営コラム編集部

健康経営・産業保健の推進パートナーとして健康経営の「着実な一歩」を伴走サポートするパソナが運営しています。
企業のご支援経験だけでなく、パソナ自身が健康経営銘柄に初選出、ホワイト500を7年連続取得する過程で得たノウハウを踏まえ、皆様にお役に立つ情報を発信しています。
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