コラム
2022/03/30

レジリエンスを健康経営にどう取り入れるか? ~「アフターコロナに求められるレジリエンス」特別講演レポート

先の2月3日は、日本のレジリエンス研究における第一人者、レジリエ研究所所長で医学博士の市川佳居先生をお招きし、オンライン特別講演「アフターコロナに求められるレジリエンス」を開催いたしました。講演では、新型コロナウイルスによるメンタルヘルスへの影響にふれ、職場や日々の生活にレジリエンスの考え方をどう取り入れていくか、その具体的な方法について、全国の保健師を対象にお話がされました。

なお、参加者は自分自身のレジリエンス力を把握できるアセスメント*を事前に受け、各自が自分のレジリエンスの状態を見ながら受講できたため、とてもわかりやすい展開となりました。

本稿の前半は、講演の要諦を踏まえたレポートとなっております。後半は、講演で示されたレジリエンスの考え方を健康経営に落とし込んでいく方法として、保健師の活用について解説しました。

1. コロナ禍におけるメンタルヘルスへの影響

講演では、まずコロナ禍における人々のメンタルヘルスへの影響について、具体的なデータをもとに紹介されました。

「内閣府によるインターネット調査では、コロナ疲れを感じている人が全体の約7割。これにより自分の健康や将来、人間関係について、不安が増大したと感じている人が67.3%に上っています。また、15歳以上の約1万人を対象にした厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査結果」では、2020年2月~9月において、不安やうつを感じた人が、おおよそ50%いる状況です。」

日本だけでなく、世界中で猛威をふるう新型コロナウイルスですが、このような非常事態の中、アメリカでは今、レジリエンスに大きな期待が高まっていると、市川先生は言います。

「アメリカ保健福祉省は、医療職のレジリエンス向上のために3年間で1億ドル(110億円)を拠出することを決定しています。」

市川先生によるレジリエンスの定義は、以下のように解説されました。

「レジリエンスという言葉は、もとは物理学用語です。例えば、ゴムを引っ張れば、元に戻ろうとします。ここから派生して、レジリエンスとは、仕事や日々の生活で、何か大きなプレッシャーがかかったとしても、元の状態に戻ることができる“回復力”を指します。

さらに、レジリエ研究所が目指すレジリエンスとは、もう一段高みをゆく考えであることも示されました。

私たちが目指す高いレジリエンス力とは、元に戻るだけではなく、さらに人として成長した状態へ移行できる力です。例えば、大変な病気で倒れて、休職を余儀なくされてしまった人が、仕事に復帰し、その後、晴れて管理職になれたとします。こういった人は、部下が病気になった時など、部下の気持ちに寄り添うことができ、いい管理職になれる可能性が高いものです。そんな風に、自分が苦労することによって、他者への共感力や理解力が高まり、人間的に成長する。このような回復力こそが、高いレジリエンス力だと言えます。」

さて、コロナによる厳しい状況が続く今後においても、このような高いレジリエンス力をつけていくためには、どうすればよいのでしょうか?

講演では、レジリエンス力を構成する6つの要素について、話が進みます。

2. レジリエンスを構成する6つの要素

レジリエンスは6つの要素から構成されています。これら6つの要素がすべて高いレベルにあることが、レジリエンス力のある状態であると言えます。講演の参加者は、事前のアセスメントで結果を見ながら、6つの要素における今の自分の状態をそれぞれ把握することができました。

出典:©PositiveLives Ltd. (原版)/©レジリエ研究所(株)日本語版

市川先生は、「6つの要素のうち、高いレベルにある要素をさらに伸ばすことが重要」と言います。短所を克服するより、長所を伸ばすほうが確実であり、長所を伸ばした結果、短所もそれにつられて伸びることがあるからです。

各要素について、以下のように解説がされました。

その1:自分の軸

「自分の軸」とは、価値観です。なにか大変なことを乗り越えるとき、なかなか答えの出ない課題に直面することがあります。例えばコロナ禍では、ウイルスから身を守り安全で健康な状態こそが大事なのか、逆に多少のリスクをとっても人とつながる社会性が大事なのか、いくつか違う価値観が出てきます。はっきりとした正解がない状況でも、自分の価値観がしっかりあれば、判断に迷うことがありません。次にとるべき行動も自ずとわかってきます。また、自分の価値観に添って決断ができれば、あとで後悔することがありません。

その2:しなやかな思考

自分自身の価値観がしっかりしていたとしても、それだけでは、自分よがりの人間になってしまいます。ここで必要になってくるのが、「しなやかな思考」です。自分とは違う意見にも耳を傾けられる力です。聞く耳をもつと、情報量が増えます。情報量が増えると、当然いい決断ができる可能性が高まります。常にいい決断ができれば、早く確実に困難な状況を克服することができます。

その3:対応力

情報量が増えたところで、問題への「対応力」がなければ、解決に至りません。対応力には、計画力や実行力も含まれます。問題に直面した際に、計画的に対処できなかったり、行動に移すことが出来なかったりすれば、対応力が高いとは言えません。

その4:人とのつながり

「人とのつながり」は、自分の周囲にいる人や普段の人脈だけでは解決できないことが発生した際に、新たな人とつながり、手を借りることができる力のことを言います。逆に、自分が誰かから頼られ、いつでも人をサポートできる力のことも指します。つまり、「人とのつながり」は双方向であることがポイントです。「人とのつながり」に関しては、とくにコロナ禍で、弱まっている傾向にあります。

その5:セルフコントロール

「セルフコントロール」とは、自分の感情のコントロールを指します。「人とのつながり」が増え、色々な人と接するようになると、多様な価値観にふれ、感情が揺さぶられることが多くなります。ここで、感情のコントロールをできる力が重要になってきます。セルフコントロール力を高めていく上で効果的なのが、マインドフルネスです。

その6:ライフスタイル

「ライフスタイル」とは、その名の通り、生活習慣のことです。どれだけ先の5つの力が高かったとしても、生活習慣が悪く、不健康では本来の力を発揮することができません。ライフスタイルを高める上で、特に重要な要素は、ご存じの通り、「バランスの取れた食事」「適度な運動」「適量で良質な睡眠」です。

講演では、これらのレジリエンスを構成する6つの要素が解説されると同時に、それぞれの力を高める簡単なエクササイズも紹介されました。ここでは文字量の関係で割愛させていただきます。

3. アフターコロナをしなやかに生き抜くためのレジリエンス10か条とは?

さて、講演の締めくくりとして、市川先生は「アフターコロナをしなやかに生き抜くためのレジリエンス10か条」を提唱されました。

アフターコロナ時代では、以下の10か条を意識することで、レジリエンス力を高めていけると、市川先生は言います。それぞれの項目の右側には、6つの要素のどれに良い影響を与えるかが示されています。

4. レジリエンスを健康経営にどう取り入れていくか?

さて、ここからはレジリエンスを健康経営にどう取り入れていくかについて、これまで130社以上の健康経営コンサルティングを行ってきた弊社パソナの知見を踏まえて、お伝えしていきたいと思います。

講演の最後に、「アフターコロナをしなやかに生き抜くためのレジリエンス10か条」が提唱されました。これは、組織で働く場合にも例外ではありません。従業員一人ひとりが10か条を日々意識できるようになれば、高いレジリエンス力をつけることができます。
では、従業員一人ひとりが10か条を日々意識できるようになるために、企業は健康経営の側面からどんなサポートができるでしょうか? 

その答えのひとつとして、“保健師の活用”をあげたいと思います。

社内に保健師がいれば、先の10か条を、従業員に深く意識づけしていくことができます。基本的に10か条すべてにおいて、保健師は優秀な相談役となってくれるからです。

保健師は、従業員への保健指導や面談を通じて、食習慣や生活全般の改善を促してくれます。普段の生活習慣は、一人では、あえて立ち止って振り返ることが少ないものです。しかし、社内に保健師がいるだけで、そのきっかけを従業員一人ひとりに与えることができます。

もちろん、改善を促していくのは、従業員の生活習慣だけではありません。メンタルや人間関係の悩み、昨今では新型コロナウイルス感染症に関する相談や医療機関窓口の紹介など、人事部門や上長だけではカバーしきれない様々な範囲で、保健師は細やかな相談に応じてくれます。

また、従業員にとって職場の人間関係の外にいる保健師と話すことで、気持ちを切り替える助けとなったり、感情を表に出せたことに幸福感や充実感を得られる機会になったりします。つまり、保健師の存在自体が、「人とのつながり」となり得ます。

保健師の技量にもよりますが、従業員がひとりで抱えていた困難な状況に、的確な助言が入ることで、「しなやかな思考」「セルフコントロール」の力も高めていくことができます。

以上のように、保健師がいることで、あらゆる場面やアプローチで、従業員のレジリエンスを向上させていくことができるのです。

健康経営における保健師活用のメリットに関しては、以下の記事でより詳しく解説しております。ホワイト500を目指す法人にとっても、非常に有益な内容となっております。併せて是非ご一読下さい。

市川佳居(かおる) 先生
レジリエ研究所 所長、 (一社)国際EAP協会日本支部理事長

EAPの日本国内およびアジア太平洋地域のパイオニア。日本およびアジア地域における EAP普及に携わりつつ、働く人のメンタルヘルス、健康経営などの側面からレジリエンスを活用した手法を企業にアドバイス。早稲田大学第一文学部を卒業後、米国メリーランド州立大学大学院に留学、米国ソーシャルワークの資格を取得後帰国し、モトローラにて EAPの業務に携わる。その後、杏林大学にて医学博士取得。

* レジリエンス・アセスメント(原版著作権Positivelives, 日本語版著作権 レジリエ研究所)を使用

著者名:パソナ・健康経営コラム編集部

健康経営・産業保健の推進パートナーとして健康経営の「着実な一歩」を伴走サポートするパソナが運営しています。
企業のご支援経験だけでなく、パソナ自身がホワイト500を6年連続認定取得する過程で得たノウハウを踏まえ、皆様にお役に立つ情報を発信しています。
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