コラム
2024.7.3 更新

行動変容はいかにして生まれるのか?保健指導の第一人者から学ぶウェビナーレポート

5月31日、弊社パソナに所属する保健師向けに「少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座」が開講されました。これまで数多くの保健指導の現場や研究に携わられ、保健指導の第一人者としてご活躍の女子栄養大学特任教授、津下一代先生をお招きし、成果につながる行動変容への導き方や受診勧奨の方法について、ご指導いただきました。

健康に無関心な社員をどう行動変容につなげていくか。これは、保健師だけでなく、人事担当者にも共通の課題です。そして、保健師が学ぶ実践的方法には、人事担当者にとっても、たくさんの学びがあります。本稿では、今回の講座内容のうち、当コラム編集部がとりわけ人事担当者にも知っていただきたい内容をピックアップし、ダイジェスト版としてお届けします。また、各要所で人事担当者が学ぶべきポイントを、弊社パソナの健康経営コンサルタントによる「ひと言メモ」として、添えております。

 

 

津下 一代

津下 一代
女子栄養大学 特任教授

名古屋大学医学部医学科卒業、国立名古屋病院内科(内分泌代謝科)、名古屋大学第一内科での臨床・研究活動を経て、平成4年愛知県総合保健センター、12年あいち健康の森健康科学総合センター、23年より同センター長。令和2年より女子栄養大学特任教授。
健康日本21(第二次)推進専門委員会、健診・保健指導の在り方に関する検討会などの厚生労働省等の委員、健康・医療新産業協議会・健康投資WGなどの経済産業省の委員を務めるなど、多方面で活躍。

 

 

 

1. 少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座(ダイジェスト版)

健康行動を実行しやすい状況づくりが大切

講座ではまず、健診から保健指導を経て、行動変容に繋がるプロセスについて整理がありました。

「多くの企業では、健診を行った後、特に何のフォローもなく、やりっぱなしの傾向にありました。検査値の説明が不十分だったり、保健指導を実施しても、理想論の押し付けに終わっていたり、指導がワンパターンになっていたりしたのです。当然ですが、これでは対象者に行動変容は起きません。大切なことは、本人の心の準備度に合わせたアプローチや環境づくりをすることです。

津下先生は、下図の右側で示したプロセスを理想とした上で、健康行動を起こしてもらうためには、いかに相手の気持ちに届く働きかけや伝え方ができるかが課題と言います。

 

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

保健指導の有効性はすでに立証済み

次に、厚生労働省におけるワーキンググループの取りまとめデータから、保健指導の有効性についても、お話がありました。

「私たちが国のNDB(ナショナルデータベース)で研究を進めているように、保健指導を受けた人は、受けなかった人に比べて、翌年以降の健診で明らかに良い結果を出していることがわかっています。」

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

 

特筆して、保健指導を受けた人のヘモグロビンA1cは、上昇率が緩やかになっています。糖尿病の発症抑制につながっている可能性があると言うことです。

ひと言メモ
健診結果の改善には、まず徹底した保健指導が有効と言えます。保健指導では、健康に関する指導だけでなく、対象者の健診結果や健康状態に応じて受診勧奨を行ったり、他の健康施策を案内したりすることもあります。つまり、保健指導は他の健康行動への“誘導ハブ”として期待できるのです。人事担当者としては、保健師との連携を密にしながら、健康経営の中で保健指導をどう位置付けていくか、明確にしていくことが肝要です。

行動変容を促す基本スタンスとは?

保健指導の理想的なプロセスと有効性がわかったところで、具体的な保健指導の方法に話が移ります。津下先生は、行動変容を促す基本スタンスとして、「ヘルスプロモーション」「エンパワーメント」「自己効力感」の3つを示されました。

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

 

また、指導する立場にある保健師が心得ておくべき、成人学習の基本についても触れられます。

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

 

「大人の人に学んでいただくには、まず本人にとって意味があると感じてもらうことが第一です。指導よりも支援を行い、できないことよりも、どうやったらできるかを一緒に考えるようにします。生活習慣が悪いからこうなってしまったと伝えるのではなく、改善していくことで予防できる病気があると知ってもらうことが重要です。

ひと言メモ
保健指導では、保健師は対象者と一対一になるため、社員一人ひとりの気持ちに寄り添うことができます。一方、人事担当者は、組織全体で健康経営に取り組む意味を示していく役割を担います。健康経営に取り組む意味が全体に理解され、その土台がある上で、保健師の細やかなフォローが入れば、大きな相乗効果が生まれます。

無関心社員を行動変容に導くSPIKESとは?

保健指導の基本スタンスを学んだ後は、具体的な保健指導の面談方法について、話が進みます。

ひと言メモ
人事担当者は、健診結果について、社員と直接面談する機会はありませんが、ここで紹介されたSPIKESというコミュニケーション技法には、無関心社員を行動変容につなげるためのヒントがたくさん見つかります。人事発信のポピュレーションアプローチや二次受診勧奨にもSPIKESは応用できます。是非、読み進めてみて下さい。

 

「SPIKESというのは、医師が患者にバッドニュースを適切に伝えられるように考案されたコミュニケーション技法です。これは保健指導の現場でも活用することができます。」

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

「まず、面談はS(場の設定)から始めます。こちらがどういう立場の者で、今日は何の目的で、どんな話をするのか、本人と合意できていることが大前提です。次にP(病状認識)です。今回の健診結果や今の健康状態、生活習慣を踏まえて、本人がどう状況を受け止めているかを聞きます。こちらから指導する前に、本人の“受け止め”を聞くことが大切です。それらをポジティブな姿勢でヒアリングしていくことに徹して下さい。そして、I(意思確認)です。本人の意思に寄り添いながら、相手の知りたいことを明確にしていきます。相手の知りたいことが確認できれば、K(知識の共有)を行いましょう。ここでようやく本人が必要とする知識を伝えることができます。」

※E、Sに関しては、本稿の主旨から外れるため割愛します。

また、面談ではSPIKESを意識しながら、対象者の気持ちを以下の図のようにステップアップさせていくと、津下先生は言います。

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

 

「対象者にいきなり健診結果や医療知識を話しても、心の準備がないため、うまく聞き入れてもらうことができません。一方的な説明や情報提供は不要です。大切なことは、本人に気づきが芽生えるような状況を作り出すことです。先に気づきがあり、そこから専門的な医療知識やアドバイスが入ることで、行動変容が生まれてきます。」

無関心社員が動かない本当の理由

また津下先生は、行動変容ステージモデルを提示した上で、無関心期にある社員に働きかける際の注意点について、言及されました。

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

 

無関心期の人の中には、実は健康を意識した行動を“自分なりに”やっているという人もいます。それに対して周囲から色々と言われてしまうと、抵抗感を感じるのも無理はありません。健康について本人なりに気遣っていること、努力していることを、まず認めることです。その人の努力を労いながら、拝聴し、思いを語ってもらうことで、話の糸口を見つけていきます。」

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

ひと言メモ
無関心社員と言って一括りにしてしまうのは危うい考え方であると言えます。なぜ無関心なのか、その背景や理由は人ぞれぞれです。ポピュレーションアプローチだけでは捉えきれない無関心社員の“動かない理由”は、保健師による健康相談の機会を設けるなど、個別に対応していくことで明らかになり、改善へとつなげることができます。

健康習慣を定着させる目標設定方法と7つの支援ポイント

講座は保健指導における行動目標設定の話へと進みます。

「人が目標に向かう際の行動パターンは2つあります。ブレイクダウン型とコツコツ型です。前者はゴールを決めて、そこに向かって計画的に行動していく人で、後者は毎日できることから考えて、コツコツと積み重ねていく人です。行動目標設定をサポートする際に大切なことは、その人に合ったやり方で支援していくことです。

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

 

また、継続支援時には、本人にとって無理のない状態を維持できるようサポートすることが大切です。そのために支援者として意識すべきポイントは次の7つです。」

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

(出所:少しの工夫が行動変容につながる ―産業保健看護職のための保健指導講座)

 

「日々の健康行動を記録してもらうことは極めて重要です。また対象者の自己効力感をどう高めていくかということを考えながら、こちらからメッセージを発信していくことも大切です。」

ひと言メモ
人事担当者として、社員が健康行動を記録しやすい仕組みづくりができているでしょうか?社員の自己効力感を高める方法があるとすれば、それはどんな方法でしょうか?ドロップアウトの起こりにくい体制づくりとは?組織であることを強みに、社員個人の行動変容を促す施策展開を考えてみましょう。

 

講座の終盤では、保健指導におけるICT活用の有効性、保健指導者に必要とされる能力についてもお話がありましたが、本稿の主旨から外れるため、ここでは割愛させていただきます。

2. 社員の気持ちや受け止め方を起点とする健康経営を

今回の講座では、行動変容を促す工夫について、津下先生からたくさんの助言や提案がされました。

当コラム編集スタッフが聴講する中で、印象に残ったことは、先生が対象者の気持ちに寄り添うことの重要性を繰り返しおっしゃっていたことです。いくら保健師が保健指導に尽力したとしても、本人にとって意味を感じられなければ、行動変容は生まれません。これは、人事担当者にも言えることです。

社員一人ひとりが健康経営に意味を見出すために、人事担当者として、どんな働きかけができるでしょうか?どのような環境づくりやサポートができるでしょうか?今回の講座から、改めて社員の気持ちや受け止め方を起点とした健康経営の推進が大切だと気づかされます。

 

 

 

 

著者名:パソナ・健康経営コラム編集部

健康経営・産業保健の推進パートナーとして健康経営の「着実な一歩」を伴走サポートするパソナが運営しています。
企業のご支援経験だけでなく、パソナ自身が健康経営銘柄に初選出、ホワイト500を7年連続取得する過程で得たノウハウを踏まえ、皆様にお役に立つ情報を発信しています。
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