目的に応じたエクササイズを選択し、適切な「強度」「量」「頻度」を設定する

運動・トレーニングといっても、様々な運動やエクササイズの種類があります。目的や目標に応じ、どのようなエクササイズを選択するかで結果が全く変わってきます。
今回は目的に応じて適切なエクササイズの強度、量、頻度をどのように設定するかについて紹介します。

自身の体力レベルを知り、計画的に行うことが重要

筋トレを開始するにあたって、誰もが「筋肉を付けて身体を大きくしたい」「ダイエットのために」等、何らかの目標を設定してからトレーニングを行うことでしょう。

筋トレを始めたばかりの頃は、ウェイト(負荷)や各エクササイズの動作に慣れることが大切なので、なるべく多くの種類のエクササイズを行うことが重要です。そこではじめて、今の自分の筋力レベルや体力レベルが大体どの位なのか把握することができます。

なお、筋トレ(レジスタンストレーニング)を実施するうえで重要な変数は、強度(負荷の大きさ)、量(トレーニングの量)、頻度(1週間にどの程度やれば良いか)の3つです。

筋トレを開始するにあたって、この3つの変数が明確になっていないと、自身の目標に対する成長度合を見極めることができなくなります。

ちなみに持久的なトレーニング(有酸素トレーニング)だと、量は10分間走、20分間走といった“持続時間”で表されるのに対し、負荷を扱う無酸素運動の筋トレ(レジスタンストレーニング)でいう量とは、“ウェイトの挙上回数とセット数の合計”になります。有酸素運動と無酸素運動といった生物学的エネルギー機構の違いによって、量の指標は変わってきます。

1.トレーニング強度の基準となる1RMについて

筋トレの場合、一般的には「最大挙上重量」あるいは「等張力性最大筋力」と呼ばれる1RM(1Repetition Maximum)という強度基準が使用されます。
1RMとは「1回だけ反復できる最大の筋力」のことで、この1RMを調べて基準とすることにより、レジスタンストレーニングにおける負荷の設定がなされます。(森永製菓株式会社発行:新トレーニング用語辞典より)

目標や目的に応じ、1RMの何%の負荷を用いたトレーニングを行うかによって、効果や結果が大きく変わってきます。なお、1RMの何%の負荷であれば、おおよそ何回挙上できるか等の換算表が多くの教科書やインターネット上にも掲載されていますので、それを参考にして強度設定すると良いでしょう。

ここでは、一般的な例を下表にてご紹介いたします。

表1. 1RMに対するパーセンテージと反復回数の関係

上記、表1を参照して頂くとお分かりかと思いますが、「最大筋力」の向上が目的の場合は、自分が扱えるMAX重量(1RM)の90%以上の負荷(3回~4回で限界に来る重量)を設定します。セット間のインターバルを4分~5分程度とり、これを3~5セット目安にトレーニングします。

一方、「筋肥大」が目的の場合は、1RMの70%~80%(8回~15回)の負荷を選択し、セット間のインターバルは1分~2分程度で3~5セットを目安に行うのですが、「筋肥大」が目的のトレーニングでは“オールアウト(力を出し切る)するまで追い込むこと”が重要になってきます。なお、1RMに対して60%以下の負荷を設定すると、筋肥大や筋力アップの効果は低くなり、「筋持久力」が増加します。

しかし、何故1RMに応じた負荷の割合によって、効果が変わってくるのでしょうか。ここでポイントとなるのは、“最大挙上重量(1RM)に近づくにつれて、筋力や筋肥大への効果が高くなるのは、神経系の関与が大きくなるため”ということです。

筋肉を形づくる「筋線維」は大きく分けて、早く縮む「速筋線維」と遅く縮む「遅筋線維」の2つに分類されます。それぞれの筋線維は運動単位(*)によって支配されているのですが、軽い負荷の場合は「遅筋線維」から優先的に動員されていき、負荷が上がるにつれて「速筋線維」の運動単位が動員されるようになります。さらに負荷が最大筋力に近づくと、「速筋線維」、「遅筋線維」の全てが動員されます。トレーニングによって肥大する可能性は「遅筋線維」のグループよりも「速筋線維」のグループの方が大きいため、大きな負荷で「速筋線維」をよく使う運動をしないと筋の肥大も起こらないと考えられています。

このような「速筋線維」と「遅筋線維」の2つの筋線維の性質の違いと、負荷の大きさ(割合)によって、トレーニングの効果が変わってくるのです。

(*)運動単位とは、1本の運動神経の神経線維が枝分かれして、多数の筋線維を支配しているまとまりのこと。このような神経線維は、筋収縮を起こす際の機能的な単位となっていることから、1個の運動神経とそれに支配される筋線維をまとめて運動単位(motor unit)と呼んでいる。(参考文献:スポーツ医学 「基礎と臨床」日本体力医学会学術委員会)

身体づくりのために、毎日「腕立て伏せを100回やっている」という人もいると思います。しかし、先ほどの内容を踏まえると「100回の腕立て伏せ」は、筋力アップや筋肥大ではなく筋持久力を向上させるために有効なトレーニングということになります。

ただし、同じ腕立て伏せでも、やり方によって効果は変わってきます。例えば、すばやく爆発的に床を押すような腕立て伏せでは、筋力やパワーを向上させる効果がありますが、このようなやり方でやる「腕立て伏せ100回」は非常に強度が高い(特に体重が重いほど高くなります)ため、初心者には難しいでしょう。

ここで覚えておいていただきたいのは、同じエクササイズでもやり方によって、効果が変わってくるということです。

自分の目標に応じて、どれくらいの強度で行うか、あるいはどのような方法を選択するかが非常に重要になってくることを覚えておきましょう。

2.トレーニングの量について

筋トレ(レジスタンストレーニング)の量(ボリューム)は、何kgのウェイトを何回、何セット実施したかで判断します。
例えば、100kgのバーベルでスクワットを10回、3セット行った場合は、100kg×10回=1,000kgを3セット実施したということになり、トレーニングの総量(仕事量)は、3,000kg(3t)ということになります。

トレーニング量については、いろいろな考え方があり、セット数を設定する際は、強度(負荷の大きさ)を考慮して考える必要があります。例えば、高負荷を用いる場合はセット数を少なく設定したり、逆に中等度の強度でセットを組む場合はセット数を増やしたりしなければならない場合も出てきます。

このように、強度が違うエクササイズについてセット数を調整して同じ仕事量にしたとしても、強度が高いエクササイズほど、神経系の関与が高くなってくるため、両者のトレーニングは明らかに質的には異なります。

そのため、トレーニング量を決める際には、今の自分の1RMが大体どの位であるか、まずは把握し、次に目的(パワー、筋力向上、筋肥大、筋持久力のうち、どの要素を向上させたいのか)に応じて、1RMに対する%を調整し、回数とセット数を設定すると良いでしょう。

3.トレーニング頻度について

トレーニング頻度については、一概に週何回が良いとはいえません。その理由は個々の体力レベルや、トレーニングからの回復時間が様々だからです。前回のコラムで超回復について触れましたが、超回復については、トレーニングの強度や身体の部位によっても違いがでます。

例えば、小筋群(前腕、上腕、三角筋、腹筋、ふくらはぎ等)は、疲労も早いけれど回復も早い筋肉。一方、大筋群(大殿筋、大腿四頭筋、広背筋、大胸筋、ハムストリングス等)の一つである大殿筋や大腿四頭筋等は、筋肉が大きいため疲労しにくいのですが、その分オールアウト(力を出し切る/疲労困憊)まで追い込むと回復までにかなりの時間を要します。

なお、回復するまでの時間自体にもトレーナビリティ(能力が向上する可能性)があります。例えば、“ダンベルを持って肘を曲げて力こぶを作ったところから、ダンベルの重さに抵抗し、非常にゆっくりとしたスピードで腕を伸ばす(筋肉を伸ばす)”という、いわゆるエキセントリックな筋活動(伸張性筋活動)を伴うエクササイズを初心者に実施してもらうと、ひどい場合は1週間~2週間程度も筋肉痛から解放されないことがあります。しかし、トレーニングを続けていくうちに身体が適応し、同じトレーニングを行っても3日~4日ぐらいでほとんど回復するようになります。

そのため、一般的に大筋群(大腿部、お尻、背中等)をトレーニングする場合は、小筋群(腕、肩等)よりも頻度を落とし、1回のボリュームを多めにするというようなトレーニングが必要です。一方、小筋群の場合はすぐに疲労するので、大筋群よりも頻度を高くしてボリュームは少なめにすると良いでしょう。

まとめ

筋トレ初心者の場合、トレーニングを開始してから1ヵ月半~2ヵ月くらいの間は筋肉が太くなりません。この時期は、今まで使用していなかった筋肉に対して刺激をどんどん送り込んでいる期間であり、身体がこれから変化していくための準備期間でもあるので、目立った変化は見られません。しかし、筋線維の肥大や委縮は神経系の適応に比べてゆっくりと起こるものなので、しばらく継続していると必ずトレーニング効果が目に見えて現れるようになります。
身体が適応する初期段階(神経-筋の適応が起こっている時)で、ドロップアウトしないように頑張ってトレーニングを続けてみましょう。

ライタープロフィール

特定非営利活動法人 NSCAジャパン
ヒューマンパフォーマンスセンター マネージャー
木須 久智 (きす ひさとも)

筑波大学大学院体育研究科修了、専門は運動生化学。「レジスタンス運動における内分泌応答と眼圧の関係について研究を行う」。修了後は医療福祉系専門学校の非常勤講師およびフリーランスのパーソナルトレーナーとして活動。2009年4月にNSCAジャパン事務局に入局、同事務局では試験、会員管理、広報等、各部署を担当し、2017年4月からNSCAジャパンヒューマンパフォーマンスセンターの施設長を務める。
資格:CSCS, NSCA-CPT
一言:筋トレを通じて健全なココロとカラダを手に入れましょう!

トレーナープロフィール

特定非営利活動法人 NSCAジャパン
ヒューマンパフォーマンスセンター ディレクター
ヘッドS&Cコーチ
吉田 直人 (よしだ なおと)

中央大学経済学部卒業後、一度は金融業に就職するも、トレーナーの道を選ぶ。ウイダートレーニングラボヘッドS&Cコーチとして、育成年代からプロ選手まであらゆる競技のアスリートを指導したほか、ビーチバレーの草野選手や、ミス・ユニバース・ジャパンのモデルらの身体作りにも従事。その後、ジャパンラグビートップリーグHonda HEATヘッドS&Cコーチとして5年間従事し、2017年4月よりNSCAジャパンヒューマンパフォーマンセンターヘッドS&Cコーチを務める。
資格:CSCS,NSCA-CPT

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