「地域リーグでダブルキャリアを磨くには?」
つくばFC代表、石川慎之助さんに聞く【前編】

サッカーの地域リーグに所属する選手のほとんどが、競技とは別に仕事を持つ、いわゆるダブルキャリアで収入を得ながら日々トレーニングに励んでいます。厳しい練習の合間を縫って選手たちはどのような仕事に就き、どうやってキャリアを磨いているのでしょうか。
地方リーグで活躍するサッカー選手の“ダブルキャリアのリアル”を知るため、茨城県つくば市でサッカークラブ「つくばFC」を運営する石川慎之助さんに、パソナスポーツメイト担当としてアスリート支援を行う菊池康平がインタビューを行いました。

サッカークラブ「つくばFC」を作ったきっかけ

- 石川さんは、かなりお若いときに「つくばFC」を作られたそうですね。

筑波大学在学中、私はサッカー部に所属しながら地域の子どもたちにボランティアでサッカーを教えていました。大学ではサッカーしかしていなかったため、大学院でロボット工学をしっかり勉強し、将来はその知識を社会に役立てようと考えていたのです。

修士課程中に教え子たちの成長が気になり中学校へ様子を見に行くと、正直、上手くはなっていませんでした。なぜだろうと考え、私は “土のグラウンド” つまり練習環境に原因があるのではないかと思ったのです。冬は日中に霜が溶けてグチャグチャに、夜はカチカチに凍ってしまいます。更には照明が無いので、練習時間も限られています。さすがにこの状態で上手になるはずがない…と感じ、『子どもたちに、もっと良いサッカー環境を作ってあげよう!』と思ったのが、つくばFCを作ることになった一番のきっかけでした。

子どもたちの進路のためトップチームを作ることに

- 「子どもたちに良い環境でプレイさせてあげたい」という想いから立ち上げられたのですね。

立ち上げ当初から、つくばFCは『すべての人が、素晴らしい環境でスポーツを楽しめるようにすること』をクラブ理念として掲げて活動しています。なので、子どもたちやそのご家族が良い環境でサッカーができるようにしたい、初めはその想いしかなく、トップチーム(Jリーグ・なでしこリーグ参入を目指すチーム)を持つことは想定していませんでした。

ただ、子どもたちがどんどん成長していくと、彼らの進路を用意する必要性が見えてきたので、大学院修士の1年目(22歳)で本格的につくばFCの運営に取り組むことにしました。昼は大学でロボットを作りながら、夕方と土日は子どもたちに良いサッカー環境を提供することが、自分の中では気分転換にもなっていたんですね。

元々サッカークラブ運営で生計をたてようとは考えていなかったので、ゆくゆくは後輩に託し、自分はロボット工学の道を歩もうとしていました。ですが、修士2年生のときに子どもたちのご家族から『NPO法人にしませんか?』と声をかけてもらい、NPOを立ち上げるための書類を次々と渡されました(笑)。思えば、つくばFCを続けてほしいというメッセージだったんですよね。その後、調べる中で『自分に出来ないことでは無いな』と感じたので、その後3年間は博士号をとりながら、クラブ運営も継続することにしたんです。

地域の方々につくばFCへ関心を持ってもらうための工夫

- チームで農業や芝生作りもされていますが、どのような想いから事業を始めたのですか?

当初は後ろ盾となる企業も無かったので、子どもたちの会費で運営していたサッカークラブがトップチームを持つには資金的に厳しい状況でした。ただ、『お金は後からついてくるだろう』と考えていたので、とにかく初めは地域と接点を持とうとしたのです。それが “食べること(農業)” と “芝生作り” でした。

地域の方々にスポーツと食べ物のつながりを意識してもらうことで、つくばFCにも関心を持ってもらえるだろうと考えました。また、勝つためにはきちんとした食事をとることが大切ですので、クラブとして選手に“食への意識”を高めてもらえるよう取り組むべきだと思ったのです。

また、天然芝や人工芝作りに関しては、市内にある公共グラウンドが土でデコボコしているなどと良い環境でなかったので、自前で作ることにしたのがきっかけです。また、『我々が困っていることは、きっと日本全国のサッカークラブが困っていることだ!』と考え、畑を農地転用して芝生を育てる知恵を他のクラブにもシェアすることにしました。そのときの経験や苦労を、つくばFC内で終わらせたくなかったんですね。

地域のサッカークラブですので、最高級の芝生というよりも “費用を押さえながら、選手が怪我をしにくい芝生” を作ることが目標でした。クラブ運営側がグラウンドの作り方を知っておけば、グラウンド整備業者に発注するにしても経費削減方法を交渉できますよね。我々が身につけた知恵を広めることで、日本全体のスポーツ環境が良くなればいいなと思ったのです。

実際、静岡県にあるフットサルコート整備のお手伝いをしたところ、つくばFCへトップ選手を送り込んでもらえるなど、芝生を通じての仲間作りといった良い関係が出来ています。農業に関しても同じで、作物を通じた繋がりが生まれています。本当はお金儲けが出来ればいいのですが、なかなか難しくて(笑)。今のところは利益を求めず、10年後20年後を見据えた良い関係作りを大事にしたいなと思っています。

(2018年2月2日)

プロフィール

石川 慎之助

1979年生まれ。東京都出身。
小学校からサッカーを始める。筑波大学大学院在学中につくばFCの前身となる活動を引き継ぎ、2003年にNPO法人つくばフットボールクラブを、2005年に株式会社つくばFCを設立。トップチームをはじめ、社会人からキッズまでと幅広い年代のチームを抱えるまでに成長。現在、株式会社つくばFC代表取締役、NPO法人つくばフットボールクラブ理事長、一般財団法人日本クラブユースサッカー連盟理事。

ライタープロフィール

菊池 康平

1982年7月27日生まれ。
海外でプロサッカー選手になる夢を達成するべく、大学時代より複数の国の海外チームに飛び込みで挑戦。2008年にパソナを1年休職して渡ったボリビアでプロ契約を果たした。現在は16ヶ国でサッカーに挑戦した経験を夢先生などの活動を通して子どもたちに伝えている。また、パソナスポーツメイト事業の担当として、アスリートへの就労支援にも従事。

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