会社員をしながら世界チャンピオンになった男。
木村悠さんにインタビュー【前編】

商社マンとプロボクサーという二足のわらじを見事に両立した、第 35 代 WBC 世界ライトフライ級チャンピオン・木村悠さん。絶対不利という周囲の予想を覆し、大逆転で勝ち取った世界チャンピオンは、なぜ商社マンとプロボクサーというダブルキャリアを歩むことになったのか。また、引退後に描く未来のビジョンについてもインタビューしました。

敗戦を機に会社員へ 中学生まではプロを目指すサッカー少年

- ボクシングを始めたきっかけはテレビ番組だそうですね。

小学校・中学校の頃は、サッカーをしていました。しかし、その頃から身体が大きい方ではなかった上に、足もそれほど速いわけではなかったので、中学生になった頃に「プロになるのは厳しいな」と自分で悟ったんです。そんな時にテレビを見て、ボクシングという競技を知りました。これなら自分にもできるんじゃないかという想いに駆られ、ボクシングを始めたんですよ。最初はスポーツジムで楽しく始めたボクシングですが、やっているうちにどんどんのめり込んで、習志野高校に入学した頃から本格的にスタートさせました。

- 本腰をいれてからのボクシングの戦績はどうだったのでしょうか?

インターハイでは第3位の成績を収めることができ、アマチュアで日本一になるために法政大学に入学することにしました。努力が実を結び、1年生の時に日本一のタイトルを取って、大学卒業後に帝拳ジムに入り、プロ活動がスタートします。

持ち前のセンスでプロ入りを果たす

- 帝拳ジムに入った時はアルバイトをしていたのですか?

当時はスポーツジムのインストラクターをしながら、帝拳ジムに通っていました。自分がボクシングを始めるきっかけになったのが、スポーツジムのボクササイズだったんですね。プロの道に進む第一歩となったスポーツジムで、自分もアルバイトをすることにしたんです。マシンの使い方や、ストレッチのやり方などを指導していました。アルバイトでは、自分のプロボクシングで培った知識を活かすことができました。

- プロになった頃の生活リズムを教えてください。

朝8時頃に起きて1時間ほどランニングをし、午後は1時頃から練習を始めていましたね。午後の練習を終えたら、夕方からはアルバイトに時間を費やしました。ボクシングの練習は、長時間やるのではなく、短時間に集中してやるのが特徴です。ですから、1日のスケジュールがキツキツになるということはありませんでした。

- 減量中のアルバイトは辛くなかったですか?

試合前に減量を必要とする競技なので、他の人に比べて食への意識は強かったと思います。減量中は常に空腹状態なので辛いこともありましたが、アルバイトの時間は仕事に集中することで気分を紛らわせることができたので、自分にとってはプラスの時間でした。

黒星を経験して就職活動をスタートさせる

- 初黒星がなぜ就活につながったのですか?

負けを経験するというのは、プロにとって屈辱的なこと。今まで以上に練習時間を取って、徹底的に弱点をつぶしていくのが普通の考えだと思うんです。でも、ボクシングの技術を向上させるだけでなく、自分自身が成長しないことには、この先白星を勝ち取ることは難しいと感じたんですよね。自分が今よりも一歩成長するためには、生活環境をガラっと変える必要がありました。そのために社会へ出て、もう一度一から鍛え直そうと考えたんです。

- “ボクサー”という肩書きが邪魔になったことはありませんか?

ボクシングという競技のイメージは、「怖い」とか「ケンカっぽい」などマイナス要素が強いので、そもそも面接にこぎつけることが難しい時もありました。また、せっかく面接まで進んでも、趣味の一環ではなく、プロとして本気でチャンピオンを目指していることを伝える必要もあったので、「そんなの無理じゃないか?」と言われてしまったこともあります。

- 就活中も何か仕事をしていたのですか?

就活のタイミングで、パソナスポーツメイトに登録して派遣の仕事をしていました。営業など他の仕事もあったのですが、自分が選んだ仕事内容は、株券を電子化するにあたり、投資家から集めた株券を数えるというものです。事務的な仕事をしながら、正社員になるため就活を行っていました。

就職が決まりダブルキャリア生活がスタート

- アスリートながらも社会人となり、どんなことを感じましたか?

9時~17時と毎日決められた勤務時間で働くことや、会社ならではの上下関係にスポーツ界との違いを感じました。また、試合前や体調不良の時にお休みを取りやすいアルバイトと比べ、正社員になってからは、ある程度自分にも責任が生じるので、休みたい時に休みが取りづらくなったというのが一番大きかったですね。

- 会社員になって驚いたことなどはありましたか?

そうですね。社会人経験のない自分にとっては、上司への報告や会社のルールを守るということ自体が慣れないことだったので、最初は何もできずに常に怒られてましたね(笑)。コピーの取り方、電話の取り方、名刺の渡し方など、ビジネスマナーの基本をしっかりと叩き込まれました

(2017年4月11日)

プロフィール

木村 悠

1983年11月23日生まれ。千葉県千葉市出身。
第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン。
2016年4月に現役を引退し、現在は株式会社FiNCにてヘルスケアソリューション兼アスリートサポート室長としてアスリートの活動支援を行っている。

【関連記事】