それぞれのセカンドキャリア「元Jリーガー 長谷川太郎さんにインタビュー!」 【後編】

【中編】では、長谷川さんに、引退を決めてアルバイトをしながら就職活動をしていた時期についてお話しいただきました。そして、【後編】では、実際に就職してみて感じたことや、現在の仕事について、現役選手に伝えたいことなどを伺います。
インタビューは、パソナスポーツメイト担当としてアスリート支援を行う菊池康平が行いました。
電話の取り方も、コピーの仕方も、パソコンも操作出来ない!
まさに何も出来ない状況で自尊心を失いかけていく毎日

菊池:
警備員のアルバイトを終えて、その後はどのように活動していたのですか?
長谷川:
選手として浦安に戻ろうと思ったけれど、タイミングが合わなくて戻れなかったんです。ミャンマーのチームからオファーがあったりして、やっぱりサッカーを継続しようかなと揺れ動いたんですよ。
菊池:
サッカー選手に戻ろうかと悩まれたのですね。
長谷川:
迷ってましたね。最終的には、浦安に戻ることは叶いませんでした。サッカーの神様が「違う道へ行きなさい」と言ってるような気がして、サッカーを辞めることを決断しました。 知り合いからログイン株式会社という包帯パンツ を製造・販売している会社を紹介してもらい入社して会社員になりました。
菊池:
包帯パンツ!どのような製品なんですか?
長谷川:
包帯の素材を使い、ムレやしめつけもない、履いてることすら感じない履き心地のパンツで、スポーツ時も普段も履くことができるという万能な製品なんです。
菊池:
履いてみたいです!!営業マンとして入社されたのですか?
長谷川:
営業として入りました。法人に対して、商品である「包帯パンツ」を販売する仕事でした。
菊池:
法人営業ですね。実際に初めての会社員生活はいかがでしたか?
長谷川:
出来ないことだらけでした。入社したての頃はダンボールに製品を詰めたりしてました。
菊池:
製品を覚えるためにも必要なことですよね。
長谷川:
電話の取り方もわからないし、コピーのやり方もわからない。そして、パソコンも操作出来ない。まさに、何も出来ない状況で、自尊心を失いかけていく毎日でしたが、その時に社長が教えてくれたことが今の社会人としての軸になっています。
菊池:
サッカーのプレーでチームメイトやサポーターから期待されてた状況から、何も貢献出来ない状況に一変するのは精神的にも厳しいですよね。社長からはどんなことを教えてもらいましたか?
長谷川:
社長は厳しくしっかりした方で「こんなことも出来ないのか!」とか注意を受けたりもしましたが、色々と教えてくれて厳しいけれど凄く優しい人でした。今があるのはその社長のお陰なんです。最終的にこの会社は辞めることになりましたが、あの社会人経験がなかったら今の自分はないと思っています。 サッカー選手から社会人としてキャリアチェンジし、セカンドキャリアを進む上で価値観を良い方向に変えてくれたのがこの社長でした。
菊池:
どの位の期間、その会社で働いていたのですか?
長谷川:
2014年 9月から2015年1月の終わりまでなので約5ヶ月です。何も出来なくて、何も貢献出来てなくて。
それでも、社長にも色々と相談に乗っていただいてました。ある日「お前はやっぱりサッカーが好きだろ!もう一度自分のことや、やりたいことを考えてみてはどうだ。」と提案をしてくださいました。
菊池:
退職されてからはどうしましたか?
長谷川:
コンディショニングの道へ進もうと思い、整骨院でアルバイトをしました。タイ式マッサージの資格も持っていましたし、ストレッチの勉強もしていたので、もともとコンディショニングには興味がありました。
菊池:
そんな中、2030年にW杯得点王を育てようという目的から、ストライカーを育成する「TRE2030 STRIKER ACADEMY」を立ち上げられましたよね。何かきっかけがあったんですか?
長谷川:
2015年1月23日の日本代表 VS UAE(アジアカップ)を見て決定力不足の解消に貢献したいという使命感に駆られて、3月に会社を設立しました。整骨院では4月いっぱいまで働いてました。 2015年4月に無料体験を行い、5月に「TRE2030 STRIKER ACADEMY」が本格的にスタートしました!

菊池:
思いついてから会社を設立するまでのスピード感が凄いです!!社長になったということですか?
長谷川:
一般社団法人だから名前としては代表理事です。
菊池:
アルバイトも会社員も経験され、今度は自分が代表としてマネジメントもしていく立場になっていかがでしたか?
長谷川:
代表の大変さというのが、わかりました。やった分だけ売り上げになるので休みの日も仕事をしますし、仕事を取るためには宣伝もしなければなりません。今考えると当時、自分がもっと頑張る姿勢を見せていれば、包帯パンツの会社の社長はもっと期待を込めて教えてくれただろうな、と自分が代表になって初めて感じました。
あとは、1人でやっていくのはツライなと思いました。立ち上げは複数人でやりましたが、実際の活動は1人だったので。立ち上げたスクールを世の中の方へ知ってもらうのは、とても大変だなと実感しました。
菊池:
認知度をあげることやスクール生集めも大変ですよね。苦にはならなかったのですか?
長谷川:
初心を忘れて、売り上げだけに走ってしまうようなことがあれば辞めよう、という覚悟でこの事業を始めました。周りの方からは心配されますけど(笑)「決定力不足を解消したい!」という思いから始めたので苦にはならなかったです。

周りからしてみれば僕が何をやり始めたのかわからない状況のなか、サッカークリニックの依頼をいただいたりと、本当に周りの方々に助けられました。手伝ってくれたメンバーもたくさんいて、そういう方々がいなかったらここまでは出来なかったですし、仕事をいただいている責任感や、先方のニーズに合わせてメニューを考えていく重要性を感じています。
菊池:
資料や企画書は自力で作られていたのですか?
長谷川:
手伝っていただいてましたが、企画書は自分の思いを載せるものだから、自分が書かないといけないと思って、パソコン操作を覚えながら自力で作っていました。友達に企画書の雛形を送ってもらって、参考にしたりもしました。
菊池:
時間はかかるけれど自力でちょっとずつ覚えていかれたのですね。
長谷川:
資料を作っていったらパソコン操作は自然と覚えていきました。
菊池:
こうやったらパワーポイントに写真が貼れるんだとか、やりながら覚えていけますもんね。
長谷川:
あとは運動量を上げることを意識していました。新聞配達をしてでも生活出来るようにすると嫁さんには約束していました。
菊池:
運動量を上げるために何かされていましたか?
長谷川:
多くの方が眠っている、朝の時間を活かしたくて、新聞配達を本気で考えていた中、朝にプライベートレッスンやトレーニングをやることになりました。
菊池:
「Coso-Tre(コソトレ)」でしたっけ?
長谷川:
「Coso-Tre」はプライベートレッスンで、「朝TRE(アサトレ)」っていうものもあります。「朝TRE」は、足立区と学校の協力のもと始まりました。朝の習慣を大事にしようということと、たまたま足立区のテーマが「早寝早起き朝ごはん」というもので、自分の目的ともマッチしたんです。2015年4月から「朝TRE」はスタートしました。
菊池:
どんな方が「朝TRE」に参加されていますか?
長谷川:
出勤前のお父さんが子供を連れて一緒に参加してくれることが多いです。朝の親子サッカーみたいなイメージです。
菊池:
何時くらいからやっているのですか?
長谷川:
朝の6時10分~7時迄です。
菊池:
早朝ですね!お父さん達は仕事に行く前に身体を動かせて健康的ですね。

長谷川:
「TRE2030 STRIKER ACADEMY」の「TRE」の意味は、イタリア語で「3」という意味なんです。「良い睡眠をトレ」、「良い朝ごはんをトレ」、「親子でのコミュニケーションをトレ」という3つの意味があります。そして、今後は元Jリーガーに、地域のためになる活動をしてもらいたいと思っています。
菊池:
そう思われたきっかけは何かあったのですか?
長谷川:
自身が会社員になった時に「自分は世の中に何も貢献出来てない」と感じました。得意なサッカーを通してだったら、地域のためや世の中のためになっている実感を得られると思うので、「朝TRE」で指導してから、出勤するスタイルも良いと思います。会社員をしていた時は、自分の中の自尊心がなくなっていく日々だったので良くわかるんです。 パソコンも何もかも出来ない自分がいて、「俺なんか生きててもしょうがないよ」と思ったり、ぐれちゃったりという経験をしたので。無気力になってしまうこともありました。
菊池:
サッカーの経験を活かせて、社会にも貢献出来る、この「朝TRE」のコーチは、元選手の方々にはうってつけですね。ただ太郎さんが、そんなに追い詰められていた話を今聞いて驚きました。
長谷川:
元Jリーガーの選手は、当時の僕みたいになる可能性があるので、会社員をやっていたとしても自尊心を保てる機会を作っていきたいです。こういう朝の習慣を色んな所でやってもらえたら、サッカーの普及にもなるし、親子のコミュニケーションのきっかけにもなるし、夜の習慣が減れば電気消費量が減ってエコにもなるし、治安悪化を防ぐのにも一役を担えるのではないかなと思います。
菊池:
成功している方の多くは朝の習慣を大切にされていますよね。
長谷川:
社長とかカズ(三浦知良)さんもそうだし。余談ですが、カズさんもこの活動には「いいよね!」と言ってくれてます。
菊池:
元Jリーガーの方の活躍の場を増やせるかもしれないですよね。
長谷川:
自分がセカンドキャリアの部分で大変な思いもしたので、みんながつまずかないように微力でも協力出来たらなと考えてます。
菊池:
最後に現役選手へメッセージをお願いします。
長谷川:
選手は商品だと例えたくなかったけれど、やはり商品なんです。例えばコンビニとかでお菓子を買う時に「どのお菓子を取ろうかな?」という時に、あまり特徴がなかったりすると、選ばないし選ばれない。「自分がまず棚にのること」、「のってから選んでもらえる様に自分の特徴は何か考え、強みを作ること」、「自分の何が世の中に貢献出来るのか考えること」を現役の時から考えていければ良かったなと、正直今は思っています。
菊池:
なるほど。いかに自分自身のことを知ってセルフブランディング出来るかが重要ですね。
長谷川:
自分は商品だから「その商品をどうやって売り出すか?」、「どういう方法で売るか?」を企画してみても良いかもしれません。例えば自分のサッカーイベントをやってみようと企画するとします。日時はいつで、どういう思いで開催するかなどを考えます。それを企画書にしていけばパソコンも自然と覚えるはずですし。
良い意味で自分を世の中に貢献出来る商品だと思って行動が出来れば、「営業力」「行動力」「企画力」がつくと思います。その3つがあれば強いと思います。アスリートは頑張れるから。ただアスリートは話をいただくのを待つなど、受け身の人が多いと思います。自分もそうだったし、今でもそういう一面はあるので。
菊池:
現役の時からセカンドキャリアについて考えていくことや、選択肢を増やすために色々と行動していくことは大事ですよね。現役のうちからセカンドキャリアを考えることは、守りに入っていくようでネガティブなイメージを持たれがちですが、そうではなくポジティブに考えていくべきだと思います。もちろんサッカーに全力を傾けることが前提ですよ。
長谷川:
自身が現役の時にセカンドキャリアのことをあまり考えてなくて実際に苦労したので、共感できます。
菊池:
だんだんと暖かくなってきたので、私も「朝TRE」に参加させてください!
長谷川:
もちろん!是非みんなで蹴りましょう!
(2017年3月17日)
プロフィール
長谷川 太郎
1979年8月17日生まれ。
ポジション:FW
【サッカー歴】
1998年 柏レイソル
2002年 アルビレックス新潟
2003年 ヴァンフォーレ甲府
2007年 徳島ヴォルティス
2008年 横浜FC
2009年 ニューウェーブ北九州/ギラヴァンツ北九州
2011年 浦安SC
2014年 mohammedanSC(インド)
2014年 現役引退
ライタープロフィール
菊池 康平
1982年7月27日生まれ。
海外でプロサッカー選手になる夢を達成するべく、大学時代より複数の国の海外チームに飛び込みで挑戦。2008年にパソナを1年休職して渡ったボリビアでプロ契約を果たした。現在は16ヶ国でサッカーに挑戦した経験を夢先生などの活動を通して子どもたちに伝えている。また、パソナスポーツメイト事業の担当として、アスリートへの就労支援にも従事。