SAP HECって何?S/4HANA導入オプションのSAP HANA Enterprise Cloudをご紹介

SAP用語は非常に多く、すべてを把握するのは不可能だとも言えるでしょう。また、それだけでは物足りなかったのか、SAP用語は常に変化しています。そのため、迷い込まないように背景を理解することがより重要になります。クラウド、パブリック、プライベート、HANA、S/4 HANA、オンプレミス、IaaS、PaaS、SaaS、あるいはBTaaSなど、混乱を防ぐためにSAP HECとはどんな関係があるのかを解説したいと思います。

SAP HANA Enterprise Cloudとは?

SAP HANA Enterprise Cloud (通称:HEC)は2013年にSAP社により導入されているマネージド・プライベートクラウドです。導入された時期にはまだSAP HANAを利用するために特別なハードウェアを高く購入する必要がありました。その壁を超えようと、SAP HANA Enterprise CloudというIaaS(サービスとしてのインフラ)が発表されました。現在はS/4HANAへの移行をもっとシンプルにし、普及させるためにSAP HECが存在しています。そのため「S/4HANAへの橋」とも呼ばれていました。

SAP HECはマネージドクラウドのため、SAP社がバックアップ、パッチ、プロビジョニング、アップグレード、リストアとリカバリやインフラの監視とイベント検出などを担当します。それに加え、IaaSであるため、インフラストラクチャーの問題もありません。ハードウェアを購入する必要なく、プライベートクラウドを通じて提供されます。元々SAP HECが必ずSAP社内のデータセンターにホスティングされていましたが、現在は様々なオプションがあります。2017年にAWSとMicrosoft Azureでもホスティングできるようになり、2019年にはGCPが追加されました。さらに2020年には顧客自らのデータセンターにもホスティングすることが実現されました。

SAP HECはインフラストラクチャーとして、SAP S/4HANAのホスティングがメインですが、自社開発のソフトウェアやサードパーティアプリケーションをホスティングすることも可能です。SAP HECのコアは3つあり、ビジネススイート(ERP、 CRM、 SCM、 SRM)、HANAに基づいているアプリケーションとSAP NetWeaver Business Warehouseとも言えるでしょう。ライセンシングは意外に簡単で、BYOL(Bring Your Own License)というコンセプトで前のECCのライセンスが利用できます。またサブスクリプションモデルも利用可能です。

つまりSAP HECによってSAP S/4HANAへの移行や導入がとても楽になります。またプライベートクラウドにあるため、クラウド環境が他社とシェアされず、データがパブリッククラウドより安全です。しかし解決すべき問題もないとは言えません。データ主権、特定の業界のコンプライアンス、低いリスク許容度、特定の企業ポリシー、SAPデータセンターやハイパースケーラーインフラストラクチャオプションへのアクセスが限られている、アクセスがないことが解決すべき問題と言えるでしょう。

そこで2020年に新しい導入モデルのSAP HANA Enterprise Cloud, Customer Editionで顧客のデータセンターでのホスティングが可能になりました。そして2021年にその名前が変わり、現在はSAP S/4HANA Cloud, Private Edition, Customer Data Center Optionと呼ばれており、HPE GreenLakeかLenovo TruScaleを利用して実行します。またはVMwareでもそのオプションを生かせます。

SAP HECのメリット・デメリット

SAP HECにはメリットがいくつかあります。IaaSですのでインフラに関係があるすべての顧客の負担を減らし、会社を回すことに集中できます。導入・運用にかかる時間、手間、コストを削減することもできます。また、HANAのより柔軟な実行方法によって、企業はプラットフォームの変更や技術革新に迅速に対応することもできます。

SAP HECによりオープン性やスケーラビリティを持ちつつ、ディスラプションを起こさず簡易にイノベーションサイクルの高速化が手に入ります。イノベーションの時間が増え、メンテナンスの時間が減ります。プライベートクラウドですのでセキュリティ面の信頼性は高く、カスタマイズもできます。ハードウェアの購入も不要となりますし、SAP社がマネージメントやサポートを負担することで、リスクもかなり低いソリューションです。

しかしデメリットもあります。値段が高いため、顧客が選定するデータセンターでホスティングする場合は、慎重に検討するべきでしょう。そしてIaaSで管理の負担は減りますが、アプリケーションなどを管理する義務が残ります。したがって、SAP S/4HANAのSaaS(サービスとしてのソフトウェア)の方が会社のニーズに合うかもしれません。SAP HECの検討を様々な側面から考えてみましょう。

SAP S/4HANAへの道
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SAP S/4 HANAの導入オプションのひとつとして

現在は、S/4HANAを導入する様々なオプションがあります。SAP S/4HANA Cloudは聞いたことがあっても、具体的にどんなオプションがあるのでしょうか?導入オプションを簡単にご紹介したいと思います。

①SAP Business One

少なくとも1つのユーザーが必要で5から100ユーザーぐらいが操作できるERPシステムです。ユーザー数からわかると思いますが、小規模〜中規模の企業に向いています。プライベートクラウドのSaaSソリューションです。オンプレミスでホスティングするオプションがあります。

②SAP Business ByDesign

5ユーザーから700ユーザーぐらいまでのERPシステムです。SAP Business Oneより機能が多く、中堅企業をターゲットとして作られています。また、SaaSとしてパブリッククラウドにホスティングされています。

③ SAP S/4HANA On-Premise

クラウドではなく、カスタマーデータセンターにあるERPシステムです。カスタマイズや拡張性のあるオプションであり、システム管理はすべて顧客が担います。つまり顧客がセキュリティを完全にコントロールすることができるのです。顧客の機密データは社内サーバーにあります。どのハードウェアとソフトウェアが使われているかを正確に把握し、すべてを最新に保つ責任があり、他社に任せる必要はありません。その結果、セキュリティとシステムに対する完全な制御が実現できます。クラウド上で動作しないため、永久ライセンスモデルで運用され、サブスクリプション料は発生しません。そのため、柔軟性やスケーラビリティなど、クラウド特有のメリットを活かせません。つまりクラウドと比べると、アップグレードのたびに、より多くの時間と費用、そして一定の知識が必要になります。このことは、導入のプロセスにも当てはまり、オンプレミスの大きなデメリットだとも言えるでしょう。

④ SAP HANA Enterprise Cloud

SAP社が管理しているプライベートクラウドオプションです。ホスティングはSAP社、またはハイパースケーラー(AWS, GCP, Microsoft Azure)が行います。SAP HANA Enterprise Cloud, Customer Edition(今はSAP S/4HANA Cloud, Private Edition, Customer Data Center Optionとなっています)の導入ではカスタマーデータセンターでもホスティングできるようになりました。IaaSとしては、インフラのサブスクリプション費を払うか、BYOLで前のSAPシステムのライセンスを利用します。2021年にRISE with SAPが発表されてから、SAP HECはあまり進展がない気がしますが。更にSAP HANA Enterprise Cloud, Customer Editionの新しい名前のオプションの「SAP S/4HANA Cloud, Private Edition」がRISE with SAPと一緒に導入されましたので、代わりにRISE with SAPが取り上げられているのではないでしょうか。

SAP S/4HANA Cloud (RISE with SAP)

SaaSとしてパブリッククラウドにあるERPシステムです。2016年にリリースされたSAP社初のSaaSのERPでした。昔は「S/4HANA Public Cloud」や「Multi Tenant Edition」、または「Essentials Edition」と呼ばれていました。機能はOn-Premiseのバージョンと違い、ベーシックに限られています。ERPのコアがある一方、カスタマイズするのは難しく、新規での導入を実施する必要があります。アップグレードは必須で四半期ごとにあります。アップグレードを実行する日時は選ぶことができません。ライセンスはサブスクリプションモデルであり、基本的にクラウドの最も安価で、最も標準的なオプションです。

SAP S/4HANA Cloud Extended Edition

昔は「Single Tenant Edition」と呼ばれたプライベートクラウドにあるSaaSです。SAP S/4HANA Cloudより値段が高く、よりカスタマイズしたい顧客にすすめられています。そして新規での導入を実施する必要があります。拡張性があっても、On-Premiseと比べたら限られています。ライセンスはサブスクリプションモデルです。アップグレードは1年に最大二回あり、アップグレードを実行する日時が選べます。

SAP S/4HANA Cloud Private Edition / PCE (RISE with SAP)

⑤と⑥の2つのSaaSソリューションではカスタマイズできるところが足りないという声があったため、2021年にPCEがRISE with SAPというプログラムと一緒に導入されました。上の2つのソリューションよりオンプレミスと同様にカスタマイズができるプライベートクラウドです。導入方法が新規導入に限られていないのもメリットのひとつです。つまりテクニカルコンバージョンでも実施できます。普段はSAP社のデータセンターかAWS、GCP、またはMicrosoft Azureというハイパースケーラーでホスティングされますが、SAP S/4HANA Cloud, Private Edition, Customer Data Center Optionのおかげで、顧客のデータセンターにもホスティングできるようになりました。顧客のデータセンターの場合はSAP HECが頼りになります。ただしPCEは完全にSaaSのソリューションではなく、SAPが大部分のサービスを負担しても、実施とアプリケーション管理だけはSAPのパートナーが負担します。契約はSAP社のみと結ぶため、契約形態が複雑になる心配はありません。

PCEはERPである一方、RISE with SAPはBTaaS(Business-Transformation-as-a-Service)です。ソフトウェアではありません。目的としては、三つあります:ビジネスプロセスの再構築、クラウドへの技術的な移行とインテリジェント・エンタープライズの構築です。RISEのパッケージに入っているのはBTP(Business Technology Platform)に基づいている様々な技術群です。S/4HANAも入っており、以前からもあったパブリッククラウドソリューションのSAP S/4HANA Cloud(旧:Essentials Edition)と新しいプライベートクラウドのSAP S/4HANA Cloud Private Editionの二つの選択肢から選べます。

導入オプションについて、もっと詳しく知りたいのであれば、こちらの記事をご覧ください。

まとめ

SAP HECはインフラのサポートで、便利なソリューションですが、今はRISE with SAPに飲み込まれたとも言えるかもしれません。様々な選択肢の中、正確に選んで実施することが複雑で、概要がなければ正しく理解することは難しいと言えるでしょう。この記事がSAP HECに関する用語の理解に少しでも役立てれば幸いです。

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