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行動変容とは?5つのステージと適切な働きかけを解説

近年は、禁煙のために研究されてきた「行動変容」というテーマが健康経営やミドルシニアのキャリア支援の領域で注目を集めています。

人がこれまでの習慣を見直し、新しい行動パターンを身につけることは容易ではありません。これは多くの人が思いあたるでしょう。しかし、行動変容のプロセスを理解し必要な働きかけをおこなうことで、スムーズに変化できるようになります。

この記事では、行動変容の5つのステージや企業で実践できるアプローチ、健康経営を成功に導くポイントについて解説します。

行動変容とは

行動変容とは、人の意識が変わり行動や習慣が変わることです。

元々は米国の健康領域において研究が進んだテーマであり、1980年代に禁煙プログラムの研究から生まれた「行動変容ステージモデル」は、その効果によって各方面から広く注目を集めました。

近年、行動変容ステージモデルは日本の健康・医療・保健の領域でも活用されています。また、マーケティングや人事マネジメントなどのビジネス領域でも注目されつつあります。

行動変容が難しい理由

多くの人は自分を変えたいという思いを持ちながら、なかなか変えることができません。定期的な運動や食生活の改善、スポーツジムに通うなどの目標を立てても継続できる人は少数派でしょう。

これは、人の心にはアンビバレンスな性質があるためです。人は変わりたいという気持ちと無意識下では現状を維持したいという気持ちをもっており、心が常に揺れ動いています。

そのため「思いがあっても行動に移せない」「行動に移せても継続できない」ということがしばしば起こります。

行動変容ステージモデル

行動変容ステージモデルでは、人が変容するときには「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5つのステージを経ると考えられています。このプロセス及び各ステージで人の心理状態がどうなるかを理解して、行動変容の計画を立てることが大切です。

以下に5つのステージの特徴を解説します。

無関心期

無関心期とは、6か月以内に行動を変えようと思っていない時期です。そもそも自分の行動に問題があると認識しておらず、差し迫った危機意識はありません。変化への意識が芽生える前段階なので、必要性や重要性も感じていません。

たとえば健康面であれば、体調不良などの自覚がないために喫煙や過度の飲酒・過食などの習慣を気にしないといった時期です。

喫煙を続けた場合に起こり得る健康被害を自分事として捉えておらず、医療職から禁煙を促す助言・アドバイスを受けても聞き入れることができません。食事面でも健康的な食生活に関心がなく、生活改善やセルフケアの重要性を理解していないため、好きなものを好きなだけ食べたいと感じています。

無関心期の人は、多くの場合そのテーマに対する情報不足の状態にあり、自分の現状をはっきりと認識できていません。

関心期

関心期とは、何かしらの問題を自覚しており、6か月以内に行動を変えようと思っているステージです。健康面であれば健康診断で異常が見つかったり、身近な人の健康状態に変化があったりすることで、自身の生活習慣に変化を求める気持ちが芽生えてきた段階です。

関心期に入ると、人は自身の行動や習慣について考え、改善する必要性や可能性について興味を持ち始めます。人によっては変化に向けて情報を集めたり自己評価をおこなったりします。

しかし、生活習慣を変えることのメリットとデメリットを天秤にかけている状態でもあり、今すぐに行動を変える意思はありません。

喫煙している人は「禁煙したい」気持ちが芽生えたものの、それと同時に「このままタバコを吸い続けたい」という気持ちも持っています。食事面では健康的な食生活に関心が出てきても、これまでの食生活を改善する手間を負担に感じ、行動に踏み出せない状態にあります。

準備期

準備期とは、1か月以内に行動を変えようと思い、具体的に情報を集めたり行動計画を立てたりするステージです。変化へのモチベーションが高い時期であり課題意識も強く、目標を掲げて自分の理想のイメージに向かって、どのような行動をいつまでにおこなうかを計画します。

この時期は、自分は変化できるという自己効力感も高めです。健康面であれば生活習慣の改善計画を詳細に立てる、ジムに申し込むなどの準備をします。

喫煙している人は「禁煙すること」のメリットを十分に理解し、禁煙するためにはどうすればよいのか自ら情報を探すようになります。食生活においても健康的な食事のレシピを検索したり、間食の頻度を減らそうとしたりと、自分の食生活を見直して改善に向けた準備を始める時期です。

実行期

実行期とは、行動を変えて6か月未満の時期です。健康面であれば定期的にジムに通い始めたような時期です。行動を変えたメリットをすぐに感じる人もいれば、成果がなかなか出ないと感じる人もいます。習慣を変えたことで、自覚の有無は別としてストレスを感じやすい状態になっています。

実行期は気持ちが揺れ動きやすく、成果を感じられなかったり外部からの刺激があったりすると、元の状態に戻ってしまいやすい時期でもあり注意が必要です。

たとえば禁煙であれば離脱症状(タバコをやめたあとにイライラしたり落ち着かなくなったりするニコチン切れ症状)を乗り越えるために努力しているものの、禁煙を継続することへの負担も感じています。

食事面でも野菜を多くとる、毎日の摂取カロリーを制限するといった具体的な行動に移しつつも、本当に効果があるのか、今後も続けていけるのか不安になりやすい時期といえます。

維持期

行動を変えて6か月以上たった時期です。維持期では新しい習慣や行動が定着し、日常生活の一部となっています。継続できたことによる自信もついてきているため、変化が持続しやすい状態になっています。

禁煙を続けている人にとっては「禁煙すること」が当たり前となり、何か問題が起こっても医療職の手を借りずに自分で解決できるなど、自立に向かっている時期です。食事面においても栄養バランスのよい健康的な食生活を継続し、自分自身が食生活改善による効果を実感できています。

この維持期に習慣を定着させることが非常に重要です。外部のストレスに上手に対処したり、新しい目標を設定したりするなどして成長や向上を目指すことでマンネリを防ぐなど、行動の変容を完全に定着させるための工夫や動機づけをおこなうことが大切です。

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行動変容を促すステージ別の働きかけ

人によって行動変容のどのステージにいるかは異なるので、ステージを特定することと各ステージに合わせた働きかけをすることが大切です。

参考:e-ヘルスネット「行動変容ステージモデル」|厚生労働省

無関心期の働きかけ

無関心期への働きかけとして以下の3点が挙げられます。

無関心期は、本人が問題に興味がなく知識も少なく困ってもいない段階なため、外部から気づきを促す働きかけが必要です。健康面であれば定期的な健康診断受診の機会や健康に関するセミナーの開催などがあります。変化を経験した人の成功事例や体験談を共有するなどメリット面を強調するのもよいでしょう。

行動を変容させるメリットとこのままでいるデメリットを感じてもらうことがポイントです。本人だけでなく自分が与える周囲への影響にも目を向けてもらうことも有効です。

支援のポイントとして、まずは無関心期にある対象者と信頼関係を築くことが重要です。この時期の対象者は行動変容の助言に対して抵抗を示すこともあるため、本人と丁寧に向き合って今の気持ちを確認し、彼らのニーズに合わせた情報を提供します。

相手の考え方を否定せずに、対象者自らが自分の現状に気づけるような働きかけをおこないます。

 

関心期の働きかけ

関心期への働きかけは「自己の再評価」を促すことです。

関心期は、動機付けを促す働きかけをおこないます。この時期は行動変容の必要性を理解はし始めていますが、不安や抵抗の心理が生まれる時期でもあります。また、変容のメリットだけでなくデメリットも懸念するステージです。

そのため、適切な情報提供によって不安を取り除いてもらうことが大切です。情報提供する側と受ける側の信頼関係も重要なステージなので、課題によっては専門家からのアドバイスを受けられるような環境づくりをするとよいでしょう。

支援のポイントとしては、対象者との信頼関係の構築に努めたうえで、行動変容によってどのようなメリットがもたらされるのか具体的に伝えていきます。たとえば「間食がやめられない」という悩みがある場合、間食の頻度を減らすための具体的な方法やそれによる成功例を提示するとよいでしょう。

一方的に情報を提供するのではなく、本人と一緒に今の状況を振り返り、自ら生活改善の必要性を理解してもらうことが大切です。

 

準備期の働きかけ

準備期に対する有効な働きかけは「自己の解放」です。

準備期の働きかけは、ポジティブな成果が得られることに目を向けてもらえるように、具体的な方法の選択と決定のためのサポートをおこないます。具体的には、有用な情報の提供、必要なツールや専門家のサポートなどがあります。提供したいプログラムがある場合、申込日程の案内など行動に移るきっかけとなる情報を提供します。

支援のポイントとしては、行動変容の短期的なゴールと長期的なゴールを決め、低いハードルから一つずつ乗り越えるイメージを持ってもらいます。行動変容の意識を高めるために、自分で記録を付けてもらうセルフモニタリングも効果的です。

この時期は本人の変化に対するモチベーションが高い時期なので、いろいろなことを自己決定できるようにサポートすることが大切です。

一方で、これまでの行動を変えていくことに不安な気持ちを抱えている対象者もいます。この場合は過去の成功例を賞賛したり、ポジティブな方向性を一緒に探ったりと、行動変容に対する本人のモチベーションを上げることを意識するとよいでしょう。

 

実行期・維持期の働きかけ

実行期・維持期への働きかけとして以下の4点が挙げられます。

実行に移ったステージでは、小さな変化をポジティブに認めて賞賛するようなサポートが有効です。「行動を起こしたこと」「変化を起こしたこと」自体が素晴らしいという振り返りをすることで、変化を継続しようというモチベーションが高まります。

この時期におこなう支援のポイントは、小さな変化でも「できたこと」に着目し、相手をほめて自信をつけさせることです。実行期・維持期に入っても、行動変容前のステージに戻る「逆戻り」は起こり得ます。行動を変えることでどのようなメリットがあったのか振り返ってもらい、本人が健康行動を続けたくなる働きかけをすることが大切です。

本人だけでは難しい面もあるため、カウンセラーやコーチなどのサポートがあるとよいでしょう。順調に変容できた人でも第3者がアシストすることによって、さらに変化を継続していく意欲が高まります。

全ステージへの働きかけ

行動変容の全ステージに共通する働きかけは、指導者・援助者が一方的に情報を提供したり変化を促したりするのではなく、本人の考えを聞きながら状況を整理し、自ら健康をコントロールできるようにサポートすることです。はじめから大きな目標の達成を目指すのではなく、小さな目標から一つずつクリアしていき、成功体験を積み重ねることが大切です。これにより健康への意識が徐々に高まり、自らの意思で行動を変えていくモチベーションが向上します。

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前のステージに後退する「逆戻り」に注意

行動変容のステージを進んだ人が、前のステージに戻ってしまう「逆戻り」はしばしば起こります。

特に実行期に起こる傾向があります。また、維持期に入った人でも身近な人の影響や何らかのきっかけによって逆戻りすることがあります。以前のステージに戻ってしまうと一般に自己効力感が低下します。

ただ、逆戻りが起きても本人が自覚すれば再び行動を変容することは可能です。むしろ、逆戻りはある程度起こりうると理解することが行動変容のカギです。

まとめ

行動変容には5つのステージがあり、社員の健康意識を醸成し具体的な行動につなげるためにはステージごとの適切な働きかけが必要です。健康経営を実践するうえでも理解すべきテーマとして、より多くの人を巻き込みながら無関心層の行動を促したり、社員が健康行動を起こしやすい環境を整備したりと、組織全体で行動変容を促進するアプローチを講じていく必要があります。

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