おすすめ特集・コラム人事制度改定の壁を乗り越える!~浸透する制度運用とリスクマネジメント~

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  • イベントレポート

人事制度改定の壁を乗り越える!~浸透する制度運用とリスクマネジメント~

人的資本経営の潮流や多様な働き方の実現に向けて、人事制度を改定する企業が増えていますが、改定したものの運用面に課題がある企業も多いのではないでしょうか。
2023年6月19日、社会保険労務士の鈴木 孝嗣 氏と弁護士の増井 邦繁 氏をお招きし、人事制度改定における制度運用と、リスクマネジメントの重要性について解説いただくセミナーを開催しました。





登壇者情報

鈴木孝嗣 様
鈴木孝嗣 様
鈴木たかつぐ社会保険労務士事務所
代表
特定社会保険労務士
●略歴
東京大学法学部卒
日立電線と日立製作所で人事労務、総務、経営企画に従事 グローバル規模のタレントマネジメント、賃金、評価制度設計、労使交渉他に携わる
日立製作所人材戦略室部長、日立電線人事総務部門長他歴任
2013:
ドイツ系医療機器会社のマッケ・ジャパン(株)
人事総務法務本部長 企業合併を経て、
ゲティンゲグループ・ジャパン(株)取締役人事総務本部長
2019:
鈴木たかつぐ社会保険労務士事務所開設
人事労務コンサルティング、グローバルタレントマネジメント
コンサルティング、労務顧問、和英就業規則作成、助成金手続他のサービスを提供、現在に至る。
増井邦繁 様
増井邦繁 様
増井総合法律事務所
代表弁護士(マネージング・パートナー)
弁護士・ニューヨーク州弁護士
●略歴
2006:大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎 卒業
2010:京都大学法学部 卒業
2011:大阪大学法科大学院 中退
2013:東京大学法科大学院 修了
2014-2021:長島・大野・常松法律事務所 勤務
2020:University of California, Irvine, School of Law(LL.M.) 卒業
2020-2021:Smith, Gambrell & Russell, LLP(Atlanta) 勤務
2021:増井法律総合事務所設立

人事制度改定における運用のポイント
(スピーカー:鈴木孝嗣氏)

はじめに

はじめに、最近の人事改革の潮流ということで、メンバーシップ型と言われる、いわゆる日本型雇用システムからジョブ型に移行すべきとの流れがあります。

立法・行政も続々といろいろな方向性を示しており、「ジョブ型雇用の推進」、「労働移動の円滑化」、「学び直し支援」が強調されております。こういった 背景から人事制度の改革を目指すという企業も大変増えてきていると思います。

次に、経営と人事制度の関係性についてです。経営の3要素はヒト・モノ・カネであり、人は重要な経営資源の1つです。そして、人事方針は会社の経営方針に基づかなければなりません。

経営の3要素

経営ビジョンと人事

そもそも、人事制度とは3つの経営資源の中の「人」に関する処遇を決定する仕組みのことであり、人事制度を導入する目的は「①経営戦略を実行する」、「②社員に意欲を持って働いてもらう」という2つです。それから、人事制度の基本構成としては「等級制度」「報酬制度」「評価制度」の3つがあります。

よくある人事制度の運用課題

次に、コンサルティングをしているとよく見られる人事(評価)の運用課題の事例について見ていきます。また皆さんの会社の今の人事評価制度でどんな課題があるのかをこちらの表に◯△✕で評価してみてください。人事制度の変更を検討するにあたって、まずは現場の課題を把握してから検討することが大切です。

人事・評価制度の課題

コンサルティング事例①

それではここからは3つの事例を紹介します。
事例の1つ目は、大手コンサルティング会社を利用して、年功型から職務給型制度への移行を試みた企業の事例です。説明不足と導入方法の問題により従業員から反発を招き、プロジェクトが停滞しました。特に、減収になる人への対策が不十分な上に、パッケージ商品をそのまま適用しようとしていました。さらには、人事責任者やスタッフの離脱も起きました。
私が対応した内容としては、まず役員の理解確認から始め、制度詳細と経過措置について再コンサルティングを行いました。その結果、全員への再説明会を開催し、質問に応じつつ、従業員の理解と承認を得て、制度を導入することができました。

コンサルティング事例②

2つ目は、役割等級制度を導入した企業の事例です。
年功制から役割等級制に移行したところ、自社での制度運用が難しく、伴走型のコンサル支援を依頼されました。コンサル会社からの研修を受けたものの、従業員への浸透が不十分だったため、評価運用にばらつきが生じるなど定着が難しい状況でした。
私が対応した内容としては、役割等級の定義を会社に合わせて修正し、評価者 研修を再度実施しました。また、報酬制度の詳細、例えばレンジ幅やゾーン数、昇給昇格基準などを見直し、これらを定期的にミーティングで評価しながら、 従業員に対して再説明会を開催しました。

コンサルティング事例③

3つ目の事例です。
トップの意向により、人事制度全般の見直しの依頼がありましたが、具体的な 取り組みが不明確なままディスカッションがはじまりました。会社の人事報酬データ分析を行い、大胆な役割等級制度に基づく提案をしました。途中から社長も参加し、進展がありましたが、トップと人事部門の間で意見が一致せず、統一見解が得られずにプロジェクトがフリーズしました。コンサルティングは途中で終了し、内部での検討が続くこととなりました。

人事制度改定における共通課題

3つのコンサルティング事例の共通課題について

①事業戦略との連携不足
事業が苦境にある企業に、世間で流行している人事制度を導入することが必ずしも改善につながるかどうか、また日本的なジョブ型雇用が本当に自社に有効なのかなど、事業戦略に基づく人事戦略を考える必要があります。
またトップとの十分な連携も重要です。

②導入・改定目的の明確化不足
人的資本経営やSDGs、ESG経営の時代であるからといって、自社が本当に改定する必要があるのかをしっかりと考えることが重要です。

③従業員のエンゲージメント向上への事前検証の欠如
人事制度の導入・改定が、どれだけ従業員のやる気や参加意欲を高めることにつながるかを事前に検証する必要があります。

④運用や定着に手が回らないこと
制度の導入だけでなく、継続的な運用や改善にも十分なリソースを割く必要があります。

⑤従業員への丁寧な説明不足
導入目的や趣旨の説明だけでなく、従業員の処遇や影響に対する配慮や納得感の醸成も重要です。人事制度改定においては、導入だけでなく、運用や改善を重視し、従業員の参加や理解を促すために常に見直しを行うことが必要です。
また、評価のばらつきが生じることにも留意し、運用と教育の継続的な取り組みが不可欠です。

人事制度改定における留意点

制度改定における留意すべき点について、以下の要点が挙げられます。

①現行制度の課題の検証を行いましょう。賃金分布、昇格スピード、役割
責任と報酬のバランスなど、現行制度における課題を再評価します。

②ゴールイメージや改定戦略を明確化しましょう。経営トップと人事部門が共通のゴールイメージや改定戦略を共有することが重要です。

③人的リソースの確保にも留意が必要です。人事部門の人的リソースの確保や外部コンサルティングの活用を検討しましょう。

④従業員との丁寧なコミュニケーションをとりましょう。導入前の従業員とのコミュニケーションを通じて、説明や意見交換を行い、十分な理解と納得感を持ってもらうことが大切です。

⑤運用定着のための継続的なプロセスを確立しましょう。処遇の変更に影響を受ける従業員への経過措置の検討や、自社の人的リソースを活用した運用改定の体制構築、定点観測や従業員の意見を取り入れた改善プロセスの実施などを検討します。

以上が、制度改定の際に留意すべき重要なポイントです。ご参考までにご活用ください。

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人事制度改定におけるリスクポイント
(スピーカー:増井 邦繁氏)

人事制度の「流れ」

人事制度は多角的な見方が存在し、その運用は法律と強く関連する部分もあります。制度作りは採用や入社の時点から始めるべきであり、評価や指導の過程 だけでなく、処遇の反映にも影響します。制度作りにおいては、法律家の視点からも考え、紛争を防ぐ観点からの設計が重要です。
処遇の変更や退職の必要性が生じた時、その対応は採用時の雇用条件が前提となります。制度を設計する際には、これらの事例が生じた場合にも対応できるような規定が必要です。また、従業員の同意を事後的に得るのは難しいため、早期に同意を得ておくこと、特に制度改定時には、同意を得られる人数を増やすことが重要です。

人事制度の「流れ」

法的リスク管理の2大ツール

人事制度の運用において、特に重要なツールとして①労働条件通知書と②就業規則が挙げられます。これらは裁判所が労働関係を評価する際に重視する契約書類であり、就業規則は会社側が作成し、雇用契約を基礎づける重要な要素です。
また、労働条件通知書に記載される内容も極めて重要で、これが企業の命運を分けることがしばしばあります。特に、ジョブ型雇用が導入される企業では、ジョブディスクリプション(職務内容)の記載内容が重要となります。それはジョブディスクリプションが契約内容を決める上での重要なツールだからです。
最終的には、雇用労働条件通知書にジョブディスクリプションに準じた内容を盛り込むことが理想的ですが、その一方で、一定程度の内容を記載することが推奨されます。
また、就業規則も非常に重要です。多くの企業が持っているものの、服務規定が薄くなっていることが多いです。ここでは、行動の規定、懲戒規定、休職休暇などが含まれるべきですが、これらが不十分だと問題が生じます。

法的リスク管理の2大ツール

人事評価制度の法的枠組み

人事評価制度は会社の人事権に直結するもので、会社側の裁量が広範に及びます。一方で、その裁量を濫用することは許されません。したがって、人事評価制度の策定および運用の両面で、濫用性を含めた判断が必要です。
会社の裁量が広いことは、紛争リスクを高める可能性があります。特に、マイナス評価や解雇などの重大な結果を伴う場合、従業員からの不満が紛争リスクにつながることが増えています。
紛争化しやすいケースとして、例えば、従業員が一生懸命働いていることを褒めつつ、実際の人事評価は低い、または「これからも頑張ってほしい」と伝えていたのに突然の解雇通告などがあります。これらはトラブルになりやすく、上司を含む全員が日々意識する必要があります。
また、不満がある場合は、少なくとも人事評価の際にはそれを伝えることが重要です。それにより、従業員の満足度を維持しつつ、同時に会社側の紛争リスクを軽減することができます。
さらに、人事評価制度は各企業が異なる導入目的を持つため、その目的を基に 制度を構築し、法律的な観点も担保することが重要となります。これにより、効果的な評価制度の運用と紛争のリスクを最小限に抑えることが可能となります。

人事制度改定に関わるQ&A

Q1.人事評価の内容に納得がいかない従業員から反発を受けることが多く、パワハラだという主張を受けることもあります。どのように対策しておくことがよいでしょうか。

A.最近、こういう話が増えていますが、パワーハラスメントの線引きは非常に曖昧です。そのため、人事評価制度に関わる場面や評価の伝達、指導の場面がパワーハラスメントとみなされることが非常に多くなっています。当然、パワーハラスメントにならないように注意しなければなりません。しかし、大まかな設計として、まずは人事評価制度に従って進んでいくこと、それに応じて行動することを服務規程に明記しておくべきです。また、それより前段階として、人事部からの指導には随時従うことを就業規則などに明確に盛り込むべきです。これにより、しっかりと服務規定に記載されていれば、就業規則の違反とされることも少なくなるでしょう。このような明確な形で義務を定めることは、パワーハラスメントの発生を減らすために必要な取り組みのひとつです。(増井)

Q2. コンサルティング会社に人事制度改定に入っていただいていますが、こちらの要望も伝えながら上手くコミュニケーションを取るにはどのように進めていけばよろしいでしょうか。

A.コンサルタントの視点から感じることは、自分の会社で実際に何を変えたいのか、本当に解決すべき課題は何なのか、そしてトップとの関係が明確なのかについて、はっきりと示されていないケースが意外に多いということです。私はどちらかと言えば、何でも話し合える雰囲気を作る方ですので、いろいろな話をしながら、ヒアリングを進めることもあります。しかし、多くの場合、いろいろ悩んでなかなか決断できない状況にあるため、非常に難しいのだと思います。ただ、現在の流れとして人的資本の開示が重要視されていることは確かです。まずは、自社の人事データを詳しく分析し、実際に何が問題であるか、特に世間と比較してどのような課題があるのか、そして従業員のエンゲージメントとの関連性はあるのかなど分析し、仮説を立てることが重要です。その上でコンサルタントに相談してみるのは良いアプローチだと思います。例えば、人的資本経営やESGの重要性について話す際には、現実的な状況を把握し、その上で、課題をぶつけていくと進展の可能性があるのではと考えます。 (鈴木)

Q3. 弊社においても年功序列を見直し、メリハリのある処遇制度を志向しております。補足として、ジョブ型も視野に入れつつ、役割等級制度を検討しています。
メリハリの根拠となる評価制度の透明性についてご教示ください。

A.特に対外的な調達業務に対する報酬という場合、中途採用の場合は業種によって一定の基準が存在します。その業種に応じた報酬を明確に定め、さらに業種内でのグレードを別途設け、金額を決定する方法は分かりやすいと思います。これにより、本来のジョブ型に近づいていくことができます。つまり、ジョブ型が本来想定しているような人に報酬が支払われるのではく、ジョブに対して報酬が支払われるという考え方です。一度にこのステップアップを達成することが難しい業種においても、客観的な評価基準を作成し、その基準の達成または不達成によって昇給や降給が行われるルールを作ることができるかと思います。(増井)

Q4.コンサルの役割評価のツールについて、うまく使い切れずに適切に役割の大きさ
を評価できないという点で高ブレしてしまうという課題があります。運用のポイントなどはございますか。

A.日本の多くの会社で行われている役割等級定義は、精緻ではないと感じます。 これは良いか悪いかではなく、ある程度大雑把な方が運用しやすいという特徴があると思います。日本の会社では通常、課長や部長などのライン職位が明確に存在し、それぞれの職位には責任がリンクしていると言えます。そのため、細かな役割定義を書かなくても役割を果たすことができます。逆に言えば、精緻な役割定義が求められることもありますが、私はそれが効率的ではないと考えています。むしろ、会社ごとにブレがある場合、その要因を探る必要があると思います。もし、過去の評価が全般的にブレが高いと仮定すると、それはジョブ型の評価よりも、職能給や能力に基づいた評価の要素が強い可能性があります。長年にわたってそのような評価制度が続いてきたため、その評価制度を変更することは難しいかもしれません。このような場合、経営者や評価者を含めた関係者の マインドセットを変えることが重要です。評価者研修等を行い、会社独自の評価の相場観を築いていくことが一つの方法となるでしょう。(鈴木)

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