おすすめ特集・コラム“等身大の幸せ”から始まる、NOKの人的資本経営―人を本気で大切にする経営をどう実現するのか

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“等身大の幸せ”から始まる、NOKの人的資本経営―人を本気で大切にする経営をどう実現するのか

NOK株式会社は「多様な人財を活かす基盤の構築」を中期経営計画の柱の一つに据えている。その推進役を担うのが、2024年にグループCHROとして就任した江上茂樹氏だ。三菱自動車や三菱ふそうトラック・バス、ブリヂストンなどにおける人事畑での経験を経て、江上氏が目指すのは「人を本気で大切にする経営」の進化だ。創業当時から息づくNOKの精神を、現代の経営にどう生かすのか。人的資本経営の狙いとその実践について語ってもらった。 

※この記事では、同社の表記ルールに合わせて一部、「人材」をあえて「人財」と表記する。 

<プロフィール> 

NOK株式会社 執行役員 グループCHRO 

江上 茂樹 氏 

1995年三菱自動車工業に入社。トラック・バス分社化に伴い、2003年三菱ふそうトラック・バスに転籍後、39歳で人事・総務本部長(のちに兼ダイムラートラックアジア人事責任者を兼務)に就任。その後、サトーホールディングスで執行役員CHRO兼北上事業所長、ブリヂストンでHRX推進・基盤人事・労務・総務統括部門長等を歴任し、人事改革を推進。2024年1月NOKに入社し同年6月より現職。現在は中期経営計画に基づき、グローバル人財マネジメントの基盤づくりと文化醸成などをけん引している。 

参考URL:統合報告書

想定外の昇進で見つめ直した自分のキャリア 

―長く人事畑を歩まれてきた江上さんのキャリアについて教えていただけますか。 

39歳の時、三菱ふそうトラック・バスで開発本部から人事に戻ってきて人事・総務本部長に任命されたことが、私にとって大きなキャリアの転機になりました。当時は年功序列がまだ残っている時代で、キャリアを自分で選ぶ発想も私にはありませんでした。ですから想定外だった抜擢人事に驚いたのと同時に、初めて「自分のキャリアをどう歩んでいきたいのか」を真剣に考えるようになったのです。 

―想定外のポジションへ抜擢されたことで、結果として転職の決意をされたということでしょうか。 

転職を決めたのは44歳の時でしたが、抜擢人事がなかったら転職していなかったと思います。当時のサトーホールディングス松山一雄社長(現アサヒビール社長)が語る「人事のグローバル化」というビジョンに共感し、ダイムラーグループの日本法人人事責任者の経験を生かせる場だと感じたのです。また対話を通じて「この人の元で働きたい」と素直に思い、決断に至りました。 

―2024年1月にNOKへ入社されましたが、鶴正雄グループCEOと会われたとき、どのような印象を持たれましたか? 

第一印象で、この人は本気で“人を大切にしよう”と考えているな、という印象を受けました。一般論とはなりますが、世の中には“人を大切に”とメッセージを掲げながらも実態は異なる会社が存在します。しかし彼の言葉や表情、雰囲気から、社員の幸せについて真剣に考えていると確信しました。人事とは、人と人との信頼関係の上に成り立つ仕事です。NOKに入社したのも、その信念を共有できると感じたからです。 

変革期のいまこそ、“基盤の基”をつくる 

―2023年4月から中期経営計画が始まり、2024年度からNOKグループの国内における人事制度は大きく変わりました。 

私は今、グループCHROとして、海外も含めたNOKグループ全体の人事変革を推進しています。当社は、自動車業界や電子機器業界に向けて、オイルシールやフレキシブルプリント基板(FPC)などの製品を提供し、強固なビジネスモデルを築いてきました。しかし、電動化や新エネルギーへの移行、カーボンニュートラル対応など、事業環境はかつてないスピードで変化しています。こうした変化の中で、新たな価値を創造し、グローバルで持続的な成長を実現するために、当社は今まさに変革の真っただ中にあります。過去の延長線上では未来を切り拓けない――その危機感こそが、変革の原点です。 

これまでのNOKは、グループ各社が独立的に最適化を図ってきましたが、変化のスピードにグループ全体として対応しづらい面もありました。そこで私たちは「Global One NOK」として、グループ全体が一枚岩となって前進するための仕組みづくりに取り組んでいます。その実現に向けて導入したのが、グローバル・マトリックス組織体制です。外資系企業では一般的な形ともいえますが、NOKにとっては新しい挑戦です。 

“点”の施策を“線”でつなぐ 

―「Global One NOK」について人事の観点から詳しく教えていただけますか。 

「Global One NOK」は、その名のとおり「NOKグループがグローバルで一つになる」ということです。人々をつなぐためには何をすればいいだろう、と思って足元の人事部門を見ると、日本本社の人事部門と海外現地法人の人事部門との接点がほとんどない、ということに気が付きました。これでは「Global One NOK」を実現することはできません。そこで最初に着手したのが、グローバルで人事部門同士がつながるネットワークづくりです。まずはお互いを知り、信頼関係を築き、情報や想いを共有できる「人のつながり」を整えること。これが、全ての変革において欠かせない“基盤の基”と信じて活動を始めました。 

一方、国内では既にいくつかの新しい人事施策が進んでいました。新しい役割等級制度や幹部候補選抜研修などの取り組みがありましたが、私の目にはそれぞれが“点”として存在しているように映ったのです。「この施策は何のためにあるのか」「会社としてどんな未来を描いているのか」。これらをつなぐ“拠りどころ”がなければ、立派な施策を進めても全体として力を発揮しません。中期経営計画に掲げられた「多様な人財を活かす基盤の構築」という言葉を読み解きつつ、私は基盤をゼロからつくることに注力することにしたのです。 

NOKグループの人事ポリシーを拠りどころに 

―では、基盤づくりのために何から着手されたのでしょうか。 

私が着任してから今まで、まさに“基盤の基”を固める時期と捉えています。その象徴が「NOKグループ人事ポリシー」の策定です。これは単に人事施策を集めたものではなく「私たちNOKグループの人事部門は何を大切にし、どこへ向かい、そして、どんな姿勢で人や組織に向き合うのか」をまとめたもので、各々の施策よりも想いの共有を重視しました。なぜなら、グローバルで多様な仲間と働く上で共通の拠りどころがあるかどうかが、その後の一体感や判断の基準を大きく左右するからです。 

このポリシーを出発点に、今後は世界中にいるNOKの人事の仲間が同じ想いのもとで人事施策を実施し、結果として個人の幸せと会社の幸せを実現できる環境を整えていきたいと考えています。変革とは、大きな制度改革や構造転換だけではなく、人と人のつながりや想いの共有から始まるものだと、私は信じています。 

―現在、具体的にはどのような施策を進めているのでしょうか。 

いわゆる“インパクトのあるクイックイン”、つまりスピード感を持って出来る施策を中心にまずは進めています。 

例えば、一般的な人事施策をそのまま導入するのでは親しみやすさに欠けるので、ネーミングにNOKらしさをプラスしました。社内公募制度は「グローバルキャリアチャレンジ制度(通称:キャリチャレ)」と命名。教育体系も手上げ式に変え「ラーニングステーション(通称:ラーステ)」という形で運営しています。360度フィードバックもそのままでは味気ないので「みんなからのフィードバック(通称:=みんから)」と呼んでいます。内容そのものは他社と大きく変わらなくても、名前ひとつで印象はずいぶん違いますし、ちょっとした遊び心を入れることで、社員も親しみやすくなると思うのです。日常の会話で「キャリチャレ」や「ラーステ」という言葉が出てくるようになってきているので、着実に浸透していると感じています。 

―親しみやすい名前にすると、心理的ハードルが下がりそうですね。 

その効果を狙っています。例えば「ラーステ」を立ち上げたのは、単なる研修にとどまらず、気軽に学び合える場をつくりたかったから。哲学者などを招き、定時後にお酒を飲みながらみんなで自由に語り合うイベント「みんなでしゃべり”Bar”」では、ユニークなテーマで学び合う場づくりを行っています。 

こういった活動は、まずは小さく始めることを意識しています。製造業ではその産業構造上の特徴からも決められたことをきちんと守ることが求められる風土が根付いています。したがって、自ら手を挙げて学ぶというアクションが起こりにくい傾向にある、というのが私の今までの経験で感じていることです。ですから、いきなり全社的なイベントを開催するよりも、小さく始めて輪を少しずつ広げることが文化を変える上での近道になると考えていますし、「しゃべり”Bar”」の場合は、着実に輪が広がりつつあります。 

「NOKグループ人事ポリシー」のイメージ 

―「NOKグループ人事ポリシー」の絵に込められた想いを教えていただけますか?  

昨年の統合報告書ではNOKグループ全体を船で表現していましたが、特定のイメージが付きにくい方がいいだろうと考え抽象的なデザインに変えました。デザインは変更しましたが、伝えたいことは変えていません。このポリシーの基本になるのは、 “NOKのバリュー”に共感する方に我々の仲間になっていただきたい、ということ。会社が何のために存在し、どこへ向かおうとしているのか。そこに共感がないと、仲間として同じ方向には進めないと考えています。 

この図には3つの重要な要素を込めています。1つ目は「会社と個人が共感でつながること」、2つ目は「自分の人生は自分のもの」という考え方です。これは私が転職を経験する中で、強く感じてきたことでもあります。グループCEO鶴正雄の言葉にも通じますが、会社が個人の人生を決めるものではありません。だからこそ、NOKグループのバリューに共感できないのであれば、無理に留まらなくてもいいと考えます。よって、図には“社外へ出る矢印”も描き、外に出る自由も表現しました。ここまで表現するのは珍しいかもしれません。 

その上で大切なのが、3つ目の考え方「個人の幸せと会社の幸せの両立」です。どちらか一方に偏っても持続しません。例えば、個人の自由や自己実現ばかりを重視すれば、わがままを許す組織となってしまいますし、反対に会社ばかりが強くなりすぎると、個人の想いが置き去りになります。だからこそ私は、お互いが責務を果たし信頼し合う「対等な関係」が大事だと考えますし、もう一つ大事なのは、個人の幸せの定義は人それぞれ違うということです。これを私は「等身大の幸せ」と表現していますが、これは前述の2つ目のポイント「自分の人生は自分のもの」にも繋がります。 

―「対等な関係」とは、従来の日本企業のあり方とも一線を画しているようです。 

これまでの日本企業は、会社が社員を“守る”代わりに、“従う”ことを求めてきました。終身雇用や社宅や福利厚生、退職金などの仕組みがその象徴です。一方で、社員も「会社の言うことに従っていれば定年まで守ってもらえる」という意識もあったと思います。、つまり、ある意味“お互いの甘え”がどこかあったのではないでしょうか。 

しかしこれからは、互いが責任を果たすことが前提です。“健全な緊張関係”という言い方もできるでしょう。社員は会社の期待に応えてパフォーマンスを発揮する責任を負い、会社はその成果に見合った報酬・処遇や機会を提供する。どちらかが依存する関係ではなく、信頼と成果で結ばれる関係を目指しています。 

―更にグローバルで注力することを3つ、決めておられるそうですね。 

NOKのパーパスは『可能性を技術で「カタチ」に』です。これを実現するために、人事としてグローバルで特に注力しようと決めたのが以下の3本柱です。 

  1. 人財を育てる(Development) 
  2. 人財パフォーマンスの最大化(Performance) 
  3. スリムで強い組織(Organization) 

―3本柱を支える“エンジン”のような要素もあるとか。 

人事ポリシーの世界観を実現するための“エンジン”として、「Values」「企業文化」や「DE&I(ダイバーシティ、イクイティ&インクルージョン)」「人事システム」をおいています。これらが基盤になって我々の活動を支えるイメージです。 

―まさに、形よりも“本質”を描いた図ですね。 

世の中には、もっと制度的な内容を細かく描いた人事方針もありますが、私はあえて少し抽象的なものに留めました。それは、各社の人事部門だけでなく社員一人ひとりが「自分ごと」として考えてほしいからです。例えばキャリアチャレンジ(キャリチャレ)という制度は、自分で自分の道を選ぶことで個人の幸せを実現する取り組みです。そして自分らしい挑戦が会社の成長につながり、最終的には“個人の幸せ”と“会社の幸せ”が重なり合う、そんな循環を生み出そうとしています。こうして共感で結ばれたNOKの仲間と共に、対等な関係で未来を描いていきたいと考えています。 

この記事を書いた人

パソナ 編集部

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