おすすめ特集・コラム“着信”から始まる共感の連鎖が、企業価値を高める原動力に―MUFGの挑戦、新たな人的資本経営の形
更新日:2025.09.19
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MUFGは「人的資本経営」を経営戦略の中核に据え、従業員一人ひとりへの“着信”を重視し、従業員たちの力を原動力に、企業価値の向上を目指している。CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)としてグループ全体の人材戦略を統括する國行昌裕氏は、グループの企業価値向上を目指し、4つの重点課題を軸にさまざまな施策を展開している。今回、グループHRトップの視点から人的資本経営の狙いと「Human Capital Report 2025」を通じて社内外に対話を広げている取り組みについて語ってもらった。
<プロフィール>
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
執行役常務 グループCHRO
國行 昌裕 氏
1994年三菱信託銀行へ入行。MUFG経営企画部、三菱UFJ信託銀行(以下同社)ニューヨーク支店、市場国際部、英国法人Co-CEO、MUFG・三菱UFJ銀行常務執行役員財務企画部長等を歴任し、2025年4月より現職。
参考URL:Human Capital Report 2025
一人ひとりへの“着信”がグループ成長を加速させる原動力へ
—2025年6月に発行された、MUFGで働く社員に焦点を当てたレポート「Human Capital Report 2025 ~“世界をつなぐ”MUFG の仲間へ~」は図解も多く、わかりやすいという印象を受けました。このレポートが発行された背景、その裏にある課題などを教えていただけますか。
「Human Capital Report 2025」の源流は、2015年のダイバーシティレポートに始まり、サステナビリティレポートなどを経て、現在の形に至っています。レポートで取り扱う領域は年々拡大し、人材育成に関わる多様な取り組みを盛り込んできました。一方で、従業員に本当に伝わっているのか、理解してもらえているのかという不安もあったのです。そこで本レポートでは、まず「従業員への着信」を主眼に据えています。当グループが行っている取り組みを、従業員の皆さんに実感してもらうことこそが最優先であると考えているからです。
―「従業員への着信」がなぜ最優先なのか、詳しく説明いただけますか。
私が用いた“着信”という表現は、単なる情報発信を意味するものではありません。重要なのは、発したメッセージが確かに相手へ届き、受け止められることです。人に何かを伝える際、一般的には“伝達”や“周知”といった言葉が使われますが、そこには送り手の視点が強く反映されています。私はむしろ、受け手がどう感じるのか、どのように理解し、次の行動に移してくれるのかという点を重視しています。その思いを表す言葉として“着信”を選んでいるのです。
従業員向けのレポートや冊子を作成する際、私は常に「本当に読んでもらえるのだろうか?」という観点から構成を考えています。文字情報ばかりでは、皆さんに読み進めてもらえないかもしれません。だからこそ、必要に応じて図解や写真といったビジュアルを添え、テンポ良く理解できるよう工夫を重ねました。情報は投げっぱなしではなく、受け止められて初めて意味を持つという意識で、一つひとつの表現に心を配っています。
—なぜ読者ターゲットを投資家ではなく、従業員に定めたのでしょう。
私はかつて財務企画部長としてIR(Investor Relations)を担当し、投資家との対話を重ねてまいりました。企業価値といえば時価総額が指標となりますが、単に「努力している」と説明するだけでは限界があると痛感しています。投資家が求めるのは、経営陣の言葉ではなく、組織の実像です。従業員が日常的に何を感じ、何を語っているかに強い関心が寄せられています。
例えば、投資家が従業員に「仕事に対してやりがいを感じているかどうか」を問うたとき、返ってくる答えが「普通である」では説得力を欠きます。また、成長している企業を分析すると、会社に対するエンゲージメントが高いことが判明しています。ですから、MUFGグループの成長を押し上げるためには、従業員一人ひとりに「自社は良い企業だ」「働きがいがある」と心から思ってもらうことが不可欠なのです。その積み重ねがお客様からの評価や投資家の信頼につながり、結果として企業価値を押し上げると考えています。
したがって、本レポートも投資家向けではなく、まずは従業員にしっかり届くことを目的としています。従業員が自分たちの会社に誇りを持って語る姿が自然と伝わること。そしてその先の投資家やステークホルダーの共感と期待を得ていくこと。そうして好循環を生み出すことが、私たちの狙いです。
本気の人的資本経営を、未来への原動力に
—好循環を生み出すことが企業価値を押し上げることにつながるとのことですが、具体的にMUFGグループに対してどのような未来像を思い描いているのですか。
私が社会人として歩み始めた1990年代、日本の銀行は米国市場でも時価総額ランキングの上位を占めていたこともあり「世界一の企業を目指す」という気概を胸に入行しました。しかしその後、30年にわたって日本経済の低迷が続き、私自身とても悔しい思いを重ねてきました。ですが今、再び世界トップ企業に伍していけるという確かな反転の兆しを感じています。ただ、それを実現するためには役員の力だけでは成し得ません。若手からベテランまで、すべての従業員が本気で挑戦しようと思えるかどうかにかかっています。
人的資本経営は、一見すると収益に直結せず、コストにも見える取り組みではあります。しかし、役員が未来への投資としてやり抜く姿勢を示すことで「会社がここまでやるなら、自分もがんばろう」と従業員が応えてくれる。その好循環をつくることが、企業の成長を支える基盤になると考えています。
私は引き続き「世界一の企業を目指す」という想いを持ち続けています。そのために、人的資本経営を軸にした挑戦を続け、組織全体が前向きなエネルギーを持てる環境を築いていこうとしているのです。
―レポートと称してはいるものの、MUFGグループ従業員15万人とのコミュニケーションツールのようですね。
私にとって本レポートは、単なる報告書ではなく、社員一人ひとりとの対話を重ねるためのコミュニケーションツールです。例えるならばピッチャーが剛速球を投げ続けても、キャッチャーが球を取れなければ意味がありません。最初から完成形を目指すというよりも、社員との対話を通じて磨き込み、よりよい形に進化させていくことを大切にしています。これからも優れた仲間とともに、より多くの“着信”を生み出し、組織全体の理解と共感を深めていくことが、当グループの持続的な成長を支えてくれると信じています。
人が育ち、人が輝く―MUFGの持続的成長を支える4つの基盤
―MUFGの人的資本経営の考え方で掲げている、4つの重点課題とそれらを選んだ背景について教えていただけますか。
MUFGが「プロフェッショナリズム(プロ度)の追求」「エンゲージメントの向上」「DEI(多様性・公平性・包摂性)の推進」「健康経営」の4つを人的資本経営における重点課題として掲げたのは、単なる標語ではなく、持続的成長を実現するための不可欠な基盤と位置づけているからです。
グループ経営における最重要目標は、株主資本利益率(ROE)の向上にあります。その達成に資する企業群を調査すると、業種を問わず業績を伸ばしている企業には明確な共通点が存在します。
第一に、複雑化する業務を高い水準で遂行できる「プロフェッショナル人材」が豊富であること。第二に、社員の組織へのエンゲージメントが高いこと。第三に、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍しており、とりわけ女性の参画が進んでいること。これらは、まさに当社が掲げる課題と合致しています。
加えて私自身が強い思い入れを持つのが、第四の「健康経営」です。従業員一人ひとりが心身ともに健やかであることは、必ずしも短期的な企業価値に直結するものではありません。長期的な視点においても「MUFGで働いた人は健康寿命が長い」「ここで働く人々は長く活躍し、幸せに暮らしている」と社会から評価される企業こそ、優秀な人材を引きつけ続けられるのではないかと思います。
―4つの重点課題のうち、多様性(DEI)の推進についてももう少し詳しく教えていただけますか。
従来、日本企業における組織文化は、上司の価値観や行動様式に部下が同調し、集団が同一方向に傾く傾向がありました。私自身も若手時代、周囲に合わせることを優先した経験があります。しかし、やがて管理職となり、部署全体が単一的な価値観に偏る危険性を認識するようになると、あえて異なる視点を提示することの重要性を学びました。
多様性とは単に性別や国籍の違いを指すものではありません。考え方や価値観の違いを尊重し、組織全体が多角的な視点を持つことによって、変化の激しい経営環境に適応できるようになるのではないかと思うのです。
レポートが職場内での対話の輪を広げるきっかけに
—レポート発行後、グループ内での変化はありましたか。
予想以上に反響がありました。社内ポータルに掲載された私の写真をきっかけに、いろいろな方々からメールが届くようになりました。「研修で話されていた内容がレポートを読んでより深く理解できた」といった声をいただいたことは、まさに狙い通りであり、大変うれしいことです。
こうしたコミュニケーションの広がりは、単に私個人を知ってもらうこと以上に、職場内の対話を促す効果がありました。社員同士が「こんな取り組みをしている」と話題にし、そこから意識が少しずつ変わっていく。これは投資家へのIR活動では得られない、社内向けレポートならではの効用だと実感しています。もちろん、一度の発信で効果が永続するわけではありません。時間の経過とともに関心が薄れるのは自然なことです。だからこそ、折に触れてこのレポートを取り上げ「そういえば」と思い出してもらう仕掛けづくりを続けることが重要だと考えています。積み重ねが組織全体の力につながると信じ、これからも発信を続けていきたいです。
—國行様自身、従業員の方々との接点を持つ機会を増やされているのでしょうか。
私は階層別研修やタウンホール、新入社員向け研修の場などで直接話す機会を持つようにしています。私たちの思いをまとめたレポートを紹介し、読んだ感想をもらうなかで共感が広がっているという手応えを感じています。全員に会うことはできませんが、接点を持った方から周囲に伝わることで波及効果が生まれています。外国籍の社員からも積極的に声が寄せられ、ニックネームで呼ばれることも増え、距離感も近くなりました。
―レポートでは共育て推進についても記載がありましたが、國行様自身、PTAへ積極的に参加されていると伺いました。
娘が中学校に通っているとき、忙しい妻に代わって学校の会議に出席したところ、PTAの広報委員を任されました。写真を撮ること自体は好きで、娘が中学のときに2年、高校へ進学したときに1年、広報委員を担当しました。
体育祭で綱引きなどを行っている最中に生徒のすぐそばで「がんばれ!」と声をかけつつ、広報委員だからこそ入れる絶好のポジションで子どもたちのいきいきとした姿を撮影するのはとても楽しかったですし、女性中心だった他のPTA役員からは、ハッとさせられる異なる感性や視点を感じて、数多くの学びを得ました。娘の友人にも顔を覚えてもらい子育てに参加するいい経験になりましたね。
一人ひとりの未来を形にするキャリア支援
—MUFGにおけるキャリア形成に対する考え方を教えていただけますか。
これまでのように会社が一方的に配属やキャリアを決める時代から、自ら考え、選び取る「自律的キャリア形成」の時代へと移行しています。とはいえ、単に「自分で考えて」と任せきりにするのではなく、1on1ミーティングなどを通じて、上司による適切なフィードバックや評価者向け研修、メンター制度(業務で直接関わりのない先輩が支援する「斜(なな)メンター」など)、キャリアアドバイザーによる相談窓口、自己啓発プログラムなど、多様な支援体制を整えています。
さらに、グループ内でのジョブチャレンジ、副業や社外での挑戦といった機会も用意し、社員が主体的に手を挙げられる環境をつくっています。専門人材コース・処遇の拡充にも取り組んでおり、2024年度には2,164名が利用しています。このように専門領域への道を選ぶことも可能であり、リスキリングや多様な働き方への対応も進めています。こうした仕組みを通じて、社員一人ひとりが自らのキャリアを描き、その実現に向けて挑戦できる組織でありたいと考えています。
自律的キャリアという言葉は魅力的ですが、同時に厳しさも伴うものです。これまでは会社が配属を決め、個人の希望が通りにくい運営も多くありました。しかし今は、自ら考え、意志を持って行動する人に成果を出しやすい仕組みへと変わりつつあります。その分、自分でキャリアを真剣に考える必要がありますが、手を挙げれば以前より多くのチャンスが得られる環境になってきています。私たちは、この変化を恐れず挑戦する仲間を歓迎しています。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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