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安芸太田町

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「町民、誰ひとり取り残さない防災DX」の実現へ。安芸太田町の挑戦を支えるパソナの伴走支援とは。

DX推進計画の策定を機に、動き始めた新たな防災の仕組み

広島県北西部に位置する安芸太田町。山間地特有の急峻な地形を有し、人口5,293人※1のうち65歳以上が53%※1を占めるなど高齢化が進んでいる。このような地域特性のもと、町が直面していたのが「災害時に要支援者をどう確実に支援するか」という課題だった。安芸太田町健康福祉課主幹の佐々木文義氏は、当時の状況をこう振り返る。

「以前は、ネットワークに接続していないPCで避難行動要支援者名簿を管理していました。住民の同意を得て約500名分のデータがありましたが、情報の更新が追いつかず、データは登録当初のまま放置されていました。残念ながら有事の際には“使えないデータ”となっていました。さらに、その名簿の存在を把握している職員も限られ、情報がどこにあるのかさえ知らない職員もいたのです」(佐々木氏)

名簿情報は民生委員などが地域の高齢者に聞き取りを行い集めたものだったが、実際に支援が必要な人を的確に把握できていたとは言い難かった。「町の取り組みだから協力した、という方も多かったと思います」と佐々木氏は話す。こうした“名簿はあるが活用できない”状況を変える転機となったのが、令和4年度に策定された『安芸太田町DX推進計画』だった。その中で避難行動要支援者対策のDXが明記され、町を挙げた取り組みが本格的に始動したのである。

災害リスクに対して町民に避難行動を促す、危機管理室室長(主幹)の栗栖剛氏は「危機管理室は令和2年8月に発足した新しい組織です。当時の町長選で両陣営が“危機管理室設置”を公約に掲げられており、どちらの町長候補が当選しても設置されるであろうと想定していました」と説明する。発足当初から、災害時の初動対応をいかに迅速に行い、正確な情報共有を実現するかが課題だった。DXによる抜本的な改革は、町にとってまさに待ったなしのテーマだったのである。

※1:いずれも令和7年3月末時点の情報。

町内の防災DXをけん引する『防災ヘルプサービス』導入

避難行動要支援者対策のDXをどう進めるか。安芸太田町が協力先を模索していた当時、パソナは「防災のデジタル化を進めている自治体がある」との情報を取引先から聞き、すぐに町役場を訪問。というのもパソナは、災害時に高齢や障がいなどの理由で自力での避難(自助)が困難な方と、地域の自主防災組織などの支援者を、システム上でマッチングさせる『防災ヘルプサービス』を提供していたため、町への提案を考えた。

パソナX-TECH本部の水野将史によれば、安芸太田町への提案はサービスの運用が始まって間もないころだったという。「全国的に防災DXの必要性が高まる中、自治体の声を反映しながら改良を重ねていました。課題を仕組みに反映し、自治体と並走して進化させることが当時のミッションでした」(水野)

サービスの提案を受け、健康福祉課の佐々木氏はこう振り返る。「私どもが検討していた当時は、要支援者の情報を職員が直接データ入力する方式が主流でした。そのような中でパソナさんからご提案のあった『防災ヘルプサービス』は、名簿管理をデジタル化し、職員のみならず要支援者本人や親族がアプリを使って最新情報を更新できる点が魅力的でした。既に他自治体での導入実績もあり、担当者さんの対応も丁寧で信頼できました」

一方で危機管理室の栗栖氏は、震災発生時の“住民の避難率※2の低さ”という課題に注目していた。「避難率は全国的にも平均4%程度と低く、安芸太田町も例にもれず避難率が低かったので改善が急務でした。『防災ヘルプサービス』によって要支援者の安全確保だけでなく、自主避難者への波及効果も期待でき、避難率の向上につながると考えました」

町として前向きに導入を検討し始めた一方で、正直不安もあったという。「『防災アプリ』を導入した際、ご協力いただく民生委員の・児童委員方たちがご高齢で、スマートフォン操作に慣れていない点が大きな課題でした。どう支援すればスムーズに使っていただけるのか、ということが懸念材料としてあったのです」(佐々木氏)

パソナと約1年の協議を経て、安芸太田町は令和5(2023)年1月に「誰ひとり取り残さない防災」を掲げ、要支援者情報をリアルタイムに管理・共有できる『防災ヘルプサービス』の導入を決定した。

※2:避難勧告や避難指示が発令された際の、対象地域住民のうち避難所に避難した住民の割合。

情報整理を行う町役場と成長を支えるパソナ

既存の要支援者情報は平成25年当時のまま更新が止まっていて、登録情報の中には既に故人となった方も含まれていた。そのことから、安芸太田町はゼロから情報を再整備する決断を下した。

まず着手したのは「誰を要支援者とするのか」という定義づけだ。定義を決めるにあたり全国の自治体で参考となる取り組みを探していたところ、とある自治体が作成した、自宅環境や日常状況から避難の優先順位を点数化し、可視化するためのチェックシートを発見。これを参考に、支援が本当に必要な町民を整理した結果、町民5,295人のうち約100人が個別避難計画作成の優先度が高い避難行動要支援者として抽出された。

そのうえで、情報登録を進める際に大きな力となったのが、パソナによる伴走型のDX支援である。福祉専門職などが本人や家族の同意を得て紙で情報を収集し、避難経路や健康情報などを『防災ヘルプサービス』に反映する。避難行動要支援者である高齢者などが避難所へ避難した際に生じやすい、服薬管理の課題(持病の薬の確保や医師へ代替薬の提案)へ対応したいという町の要望を受け、パソナのエンジニアはお薬手帳の画像を添付できるようカスタマイズも行った。

「対応がとても早く、実務の負担が軽減されました」と佐々木氏。これまで全て職員がPCで行っていた入力の手間が省け、煩雑に管理されていたデータが“使える情報”として再整備されたことも大きな成果だった。避難行動要支援者である高齢者および家族などが直感的に使える操作性を追求しながら、町とパソナが一体となってサービスの改善を重ねたことで、より実効性の高い防災支援体制が形づくられたのである。

サービス導入で見えてきた次へとつながる課題

『防災ヘルプサービス』導入の本質は、単なる業務効率化ではない。それは「町民の命を自分たちの手で守る」という文化を根づかせることにあると、佐々木氏と栗栖氏は強調する。同サービスをより多くの人に知ってもらうよう、町のイメージキャラクター「もりみん」を活用。安芸太田町恐羅漢山に生息する小動物・ヤマネをモチーフにした「もりみん」にちなんで、アプリ名を『防災もりみん』とした。地域通貨アプリ『morica(もりか)』から起動できる導線も設計し、町民にとって馴染みのあるサービスへ成長させる仕掛けも準備した。

併せて、シニア向けスマートフォン教室をはじめとするデジタルデバイド(情報格差)対策も並行して進めている。「幅広い世代の皆さまに『防災もりみん』を知って使ってもらえるよう、行政や教育機関が率先してデジタル活用を進め、町民の安心につなげたいですね」(栗栖氏)

さらに安芸太田町は、同サービスを認知症施策にも活用する構想を進めている。個別避難計画の対象者には認知症を患う人も多く、支援対象が重なる点に着目したのだ。本格運用はこれからだが、家族の同意を得たうえで対象となる方に無料でGPS機器を貸し出し、『防災もりみん』で位置情報を把握する。「3年前には、行方不明になった高齢者の捜索事例もありました。この取り組みが進めば避難行動要支援者のみならず、町民の潜在的なニーズがもっと見えてくるだけでなく、行方不明者捜索の場面でも捜索効率が向上することで、早期に発見できるのではないかと期待しています。」(栗栖氏)

引き続きパソナは「自走型のDX推進」をキーワードに、職員自らがアップデートし続ける仕組みづくりを支援していく方針だ。

テクノロジーを活用し、町民とともに作り上げる防災の未来

この公助・共助が実行できる環境をデジタルで実現する仕組みについて、佐々木・栗栖両氏は、本当の意味で定着させるのに10年はかかるだろうと見据えている。日常的にスマートフォンを使いこなしている今の60代が70代になったとき、はじめて実際に活用できるのではと話す。

「今まさに支援が必要な高齢者がアプリを使いこなすのは、正直難しいだろうというのが現状です。しかし10年後、支援する側の人が支援される側になったときにこそ、この仕組みは上手く回るでしょう。なかなか時間のかかる事業ですが、継続していくことで実現可能だと思います」(栗栖氏)

今後、町ではそれぞれの個別避難計画を策定し、計画に沿って避難を行うことを視野に入れている。町の福祉専門職が情報を常時更新し、いざとなれば危機管理室も協力して避難指示を出す形を目指している。

安芸太田町が描くのは、テクノロジーが支える温かい防災行政の未来だ。全国でも最先端となるこの取り組みは、全国の自治体にとっても新たな防災DXの好事例となるだろう。


パソナの「防災ヘルプサービス」は、災害時に自力避難が困難な方(要配慮者)と地域の支援者をシステム上でマッチングし、迅速な救助を可能にする自治体向け「共助」支援ソリューションです。高齢者や障がいを持つ方の「個別避難計画」をデジタル化することで、従来の紙ベースによる管理の煩雑さや緊急時の実効性における課題を解決します。
防災ヘルプサービス

安芸太田町

安芸太田町 健康福祉課 主管主幹兼福祉事務所長 佐々木 文義 氏
安芸太田町 危機管理室 主査室長(主幹)  栗栖 剛 氏

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