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部分最適を超え、市役所内のカルチャー変革へ。前橋市DXを加速させるパソナの支援。
従来の仕組みを超え、新たな行政の形づくりに挑戦
前橋市役所は従来の仕組みにとらわれず、新たな行政のあり方を模索してきた。令和3(2021)年度に策定された『前橋市DX推進計画』は「住民の利便性向上」「新たな価値創造」「すべての住民に」という3つの柱を軸に、8つの重点事業を定めている。そして、重点事業に沿って全庁横断のワーキンググループ(WG)を設置し、現場での議論と実践を積み重ね、その結果を市長およびCIOである副市長へ報告し、評価を通じて次年度施策に反映するPDCAサイクルを確立している。
前橋市未来創造部では、総合計画や包括協定の取りまとめ、ブランド戦略、広報、自動運転バスの実証、国勢調査など、実に幅広い業務を行っている。このなかでDX推進の中核を担っているのが情報政策課であり、同課のDX推進担当係長である松永光仁氏は「市役所全体の業務をDXの観点から変えるのが私たちの役割です」と語る。
Microsoft 365やTeamsを活用した協働の推進や、ローコード/ノーコード開発プラットフォームPower Platformによるアプリ開発の内製化、さらには生成AIなどといった最先端技術を導入するとともに、職員自らが課題を解決する文化を育てている。
同課の佐藤萌恵氏は、DX推進担当として全庁横断の取り組みを支えている。「私は前橋市のDX推進計画に基づき、大きく3つの業務を進めています。1つ目は、各部署の業務改善(BPR)の伴走支援で、現場の職員とともに具体的な改善を実施しています。2つ目は、全体最適の視点での取り組みです。例えば市民課の窓口業務など、市役所全体に関わるプロセスを横断的に見直し、より効率的で市民にとって便利な仕組みを考えています。そして3つ目は、職員が主体となって改善に取り組むワーキング活動において、ファシリテーターを務めることです。毎年度、その時々で必要とされるテーマを設定し、業務改善を目的としたワーキングチームを編成しています。ワーキングは固定メンバーではなく、テーマに応じて担当職員が入れ替わりながら主体的に取り組む仕組みです。私はそのような現場発の改善活動が着実に進むよう、ファシリテーターとしてサポートしています」(佐藤萌恵氏)
DXに関わる現場担当者を増やし、成果も可視化
『前橋市DX推進計画』は5カ年計画として、令和7(2025)年度に最終年度を迎える。これまで市役所内では多彩なWGが設置され、マイナンバーカード活用やデジタルデバイド※1解消、地域DXの推進、若手・中堅職員によるミライズWGなどが展開されてきた。
マイナンバーカードは普及が大きく進み、市民サービスのデジタル化を力強く後押ししている。「計画策定時は3割以下だったマイナンバーカード普及率が、今では大多数の市民がカードを保有する状況になりました」と松永氏は語る。デジタルデバイド解消では、地域ボランティアの力を借りてスマートフォン教室を開催し、自助的にデジタル格差を解消できる仕組みを整えている。
そして、ミライズWGでは参加メンバーがスキルを公開し合い、庁内で副業的に協力する仕組みが生まれ、横断的な働き方が定着した。また「BPRリーダー会議」では、各部署のキーパーソンが組織文化の変革を議論。庁内DX窓口の一本化やQ&Aの作成、階層別研修などを行い、職員が積極的にDXへ関わる風土を醸成した。
BPR推進WGでは、情報政策課が現場職員を支援するかたちで、各部署の業務フローを分析。当初は個別課題解決から始まり、全庁展開可能な共通課題の改善へと進化。3年目には全所属展開となり、100名以上の職員が関与する体制へ拡大し、デジタル化対象業務の検討を行い、DXの種をまいた。
4年目となる令和6(2024)年度からは伴走支援を導入。「ただノウハウを示すのではなく、一緒に手を動かす姿勢を見せたことで、職員自らがDXを進める文化が浸透したのは大きな転換点でした」と佐藤萌恵氏は振り返る。これらの取り組みをPower Platformの側面から支援したのがパソナである。
※1:デジタルデバイド…インターネットやパソコンのような情報通信技術を使える人と使えない人の間に生まれる差、つまり情報格差を意味する。
DX推進の本質は「現場とともに未来を思い描くこと」
松永氏は、紙の業務を単にデジタル化するだけでは改革にはつながらないと考えている。
「重要なのは、その先にどんな未来を描くかです」と松永氏。前橋市では「As-Is/To-Be分析」を導入し、現状の課題と理想の状態を各部署にイメージしてもらい、ギャップを分析して改善策を検討している。
対話を通じて「こうなれば便利」「将来的にこうなれば助かる」といった前向きな意見が引き出され、現状の業務をどう変えれば理想に近づくかをともに考える文化が育まれた。取り組み開始から5年。職員の手から離れ自動化された仕組みや、必要なソリューションを自分たちで準備できる未来像は、少しずつ形になっている。
松永氏が説く「現場とともに未来を思い描くこと」の重要性は、市役所DXの本質を突いている。80を超える所属部署を抱えた前橋市役所でDXを推進するには、システム導入だけでなく、職員一人ひとりの“自分ごと化”が不可欠だった。そのため、情報政策課のメンバーは現場の声を丁寧に聞き取り、目指す姿を描きながら改善策を積み上げていった。松永氏はこれまでのプロセスを、華やかさとは無縁の泥臭い積み重ねだったと振り返る。
「一番大切なのは、信頼関係を築くことです。上司からは『変わっていく人が増えれば、自然と周囲もついてくる』と教わりましたが、こちらが押し付けるのではなく、自ら動こうとする職員をサポートし、仲間に引き込むことがDXを進める鍵だと実感しています」(佐藤萌恵氏)
“行政特有の業務を踏まえたモデル提示”という、パソナの伴走支援
令和元(2019)年、前橋市役所はDX推進の伴走支援パートナーを選定するにあたり、複数社からの提案を比較検討した。最終的にパソナを選んだ決め手は、「現場に足を運び、実務に即した伴走支援を続ける姿勢」だったという。
パソナのエンジニア佐藤美緑氏は初年度から参画し、現在は3名のメンバーを率いて支援を行っている。「DX推進計画支援」「ハンズオン支援」「成果の可視化と振り返り」の3つが私どものミッションです。職員の皆さんが自らアプリを作れるよう伴走し、研修を受けた方々がリーダーとなり現場へ広げていってくださいました」と振り返る。
職員が主体的にアプリを作れる段階に入ると、自由に相談できる“パソナ相談チャンネル”を設置。令和6(2024)年4月から令和7(2025)年6月にかけてのBPR相談実績は179件で、そのうち完了が105件(約59%)。アプリ関連の相談は32件で、17件(約53%)が完了している。成果の一例として、庁内申請管理、市民対応記録管理、本庁と出先間の依頼対応管理、受付業務の標準化、横展開可能なベースアプリ構築などが挙げられる。
佐藤萌恵氏は「私はPower Appsなどを個人的に学んでいましたが、全組織のWGに展開するとなると、自分ひとりでは体系化や共通化が難しかったです。その点、パソナさんは私たちの要望を丁寧にヒアリングし、ニーズごとにカスタマイズした研修を提供してくれました。そのおかげで、参加した職員が各所属部署へ広げられる仕組みづくりができたと思います。行政特有の業務パターンを踏まえたモデルを示していただいたことで、取り組みをスピーディーに軌道に乗せることができたのが一番大きな成果ですね」と高く評価する。
現在、パソナの支援はオンライン主体だが、月1回の訪問(オフライン)で築いた信頼関係を基盤に、オンラインでも話しかけやすい雰囲気づくりを大切にしているという。
急激に進化するAIを活用し、DX2.0の未来を目指す
次に前橋市役所が目指すのは「AI-Ready」な業務スタイルだ。「AIが常にそばにある環境を整え、正しくデータを蓄積・連携し、政策決定に生かす“データドリブン”な基盤を築くことが不可欠です」と松永氏は語る。それは単なる効率化ではなく、働き方そのものを変革する挑戦だ。これから先は「DX2.0」とも呼べる段階に、前橋市役所は足を踏み入れようとしている。佐藤萌恵氏も「Power Platformの活用は、想像以上のスピードで全組織に展開できました。他のツールも同じように広げられるかが未来を左右します」と語る。
伴走者であるパソナ佐藤美緑氏は、今後の支援方針を次の3点にまとめた。
1. 技術提供者ではなく、自走支援者として職員が自ら課題を発見・解決できる環境づくりを行う
2. 信頼関係を基盤に、継続的なコミュニケーション重視の支援を行う
3. 技術と業務の橋渡し役として、Power Platformを現場に根付かせる
前橋市役所は危機感を力に変え、職員自らDXを進める文化を築き上げてきた。その歩みは「DX2.0」の段階へと進みつつある。伴走者とともに挑戦を続ける前橋市の姿は、地方自治体DXの新たな指標となるだろう。
パソナはDX実現に向け、Microsoft製品を活用した社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)および業務効率化をご支援いたします。Microsoftソリューションとは、Microsoftが提供する多様なソフトウェア、クラウドサービス、デバイス、ツール、そしてサポートの総称です。これらのソリューションは、ビジネスの生産性向上、効率化、セキュリティ強化、そしてイノベーションの促進を目的としています。
Microsoftソリューション導入支援サービス
前橋市役所
前橋市 未来創造部 情報政策課 業務改善室 DX推進担当係長 松永 光仁氏
前橋市 未来創造部 情報政策課 業務改善室 主任 佐藤 萌恵氏
インタビュー日時:2025年8月18日
