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全日本空輸株式会社(ANA)

#実証実験  #アプリ開発 

全日本空輸株式会社(ANA)

業界
空輸
効果
DX推進

「誰もが移動をあきらめない世界へ」
パソナが技術と人で支える、Universal MaaS

移動の壁を越える共創型MaaS開発

「誰もが移動をあきらめない世界へ」。そのようなビジョンを掲げ、全日本空輸株式会社(以下ANA)が2019年に本格的にスタートさせたUniversal MaaS(ユニバーサル・マース) ※1プロジェクト。高齢者や障がいのある方など、移動に制約を抱える人々の行動支援を目的に、当初は京浜急行電鉄株式会社(以下京急電鉄)や横須賀市、横浜国立大学と、2025年現在は60近い産学官連携パートナーと連携し、door-to-doorの移動サービスにおける情報提供のデジタル化に取り組んでいる。

株式会社パソナ 山崎 直輝氏 株式会社パソナ 山崎 直輝氏

株式会社パソナ(以下パソナ)はこの構想段階からプロジェクトに関与し、開発・デザイン・運用など多面的に支援。テクノロジーと想いの両輪で、プロジェクトの推進を支えてきた。立ち上げ当初から関わるパソナのフロントエンドエンジニア・山崎直輝氏は、プロジェクトの発端を次のように振り返る。

「ANAの大澤信陽さんの実体験が原点です。大澤さんの90代になるおばあさまが、車いすを使って岡山から上京し、ひ孫に会いに行ったそうです。移動は大変だったものの、喜ぶ姿を見て『誰もが自由に移動できる社会を作りたい』と考えるようになったと聞いています。私たちもその想いに共鳴し、挑戦を続けています」(山崎氏)

当初はAndroidアプリ(ユーザー向け)とiOSアプリ(事業者向け)をそれぞれネイティブアプリで構築。駅構内に設置したBeacon(ビーコン)※2と連携し、屋内での位置情報を提供するなど独自の試みにも挑戦した。しかし運用を重ねるなかで、ユーザー層の多様化や迅速なアップデートへのニーズが顕在化。その状況からANAとパソナで協議し、ブラウザ上で動くWebアプリへと移行した。ユーザー用・事業者用の2系統を再設計し、画面遷移や導線も刷新。現在ではPC、スマートフォン、タブレットなど、マルチデバイス対応のプラットフォームへと進化し、「ユニバーサル地図/ナビ」「一括サポート手配」という二つのサービスを提供している。

※1:MaaS(マース)…Mobility as a Serviceの略。地域住民や旅行者の移動ニーズに応じて、複数の公共交通やその他の移動サービスを最適に組み合わせて提供するサービスのことを意味する。これにより、ユーザーは一括で検索や予約、決済を行うことができ、移動の際の利便性が大幅に向上する。また、MaaSは自動運転やAIなどのテクノロジーを活用し、次世代の交通サービスとして期待されている。
※2:Beacon(ビーコン)…無線技術を使い、近距離で位置情報などを送信する端末。

柔軟な開発支援体制で、変わり続けるニーズに応える

Universal MaaSプロジェクトを技術面で支えているのが、パソナのエンジニアチームだ。プロジェクトの特長は、パソナの社内リソースを活用した横断的な支援体制。フロントエンド、バックエンド、UI/UXといった専門領域をまたいで、柔軟な開発支援が可能な点にある。
要件定義から設計、実装、改善までを一手に担う山崎氏は、こう語る。
「毎年、実際に車いすや杖を使う方、視覚障がいのある方などに使っていただき、フィードバックを受けています。それをもとにANA様と改善項目をすり合わせ、重要度の高い順に優先順位を決定しながらアップデートに取り組んでいます」(山崎氏)

株式会社パソナ 遠藤 幸治氏 株式会社パソナ 遠藤 幸治氏

アプリのWeb化が進んだ2022年には、新たに地図機能の開発を担当するエンジニア・遠藤幸治氏がプロジェクトに参加。組み込み系エンジニアとしての経験を持つ遠藤氏は、Webエンジニアに転向した後、本プロジェクトで即戦力として活躍している。

「アクセシビリティを重視しながらのWeb開発は、難しい面もあります。例えば、一般的なユーザーインターフェースをそのまま採用してもうまくいかないことが多い。高齢者や障がいのある方の視点に立ち、しっかり作り込む必要があります」(遠藤氏)

2024年4月からはビジュアル面を強化するため、デザイナーの佐々木和美氏が新たにプロジェクトに加わった。学生時代から現場経験を積み重ねてきた佐々木氏は、視認性・操作性を重視したUI/UXデザインを通じてUniversal MaaSプロジェクトの“顔”を設計。見た目の美しさはもちろん、“誰もが使いやすいこと”を最優先にデザインのブラッシュアップを進めている。

移動支援開発で重視しているのは「当事者目線」

株式会社パソナ 佐々木 和美氏 株式会社パソナ 佐々木 和美氏

当プロジェクトの核となっているのが「当事者目線」である。移動に困難を抱える方の実際の行動や声に寄り添いながら、本当に役立つサービスを目指し続けているという。

「例えば、デザインについて“明るくポップなトーンにしたい”とご要望をいただいたことがありました。でもリクエストに沿ったデザインにすると、配色によってはコントラストが低下してしまう懸念も。つまり、視覚に課題のある方にとっては見づらくなってしまうのです。このような“デザイン性”と“アクセシビリティ”のバランスについては、悩む場面に直面することもしばしば。ですからデザインをご提案する際には、開発メンバーにも“技術的に実現可能か”や“アクセシビリティの面で問題がないか”などを細かく相談しています」(佐々木氏)

また、エンジニアの山崎氏が中心となって進めているのが「一括サポート手配」だ。車いす利用者などが複数の公共交通機関を横断して利用する際、各事業者へそれぞれ連絡してサポートを依頼する必要があり、それが大変で移動をあきらめてしまうケースも少なくなかった。これを一括で手配可能にする仕組みを開発し、社会実装に向けた検証が進んでいる。

「車いすの方や障がいのある方、高齢者も含め、移動に困難を抱える方たちにとって、今はまだ“移動をあきらめざるを得ない”状況が多くなってしまう現実があります。現在開発中の「一括サポート手配」は、利用される皆さまの煩わしさを解消するためのツールです。エンジニアとして、このサービスをしっかり育てていきたいと考えています」と山崎氏は話してくれた。

“移動の自由”を取り戻すため共に挑戦し続けるUI/UXデザイナー・佐々木氏は、自身の子育てや介護経験が、ユーザー理解の根底にあると語る。
「私は困っている方を見過ごせないタイプで、駅で視覚障がいのある方に「乗り換え方がわからない、移動が怖い」と助けを求められたときに最寄り駅まで送り届けたこともあります。ですから、個人的にもこのサービスにはとても強い思い入れがあります。ANA様の熱意をユーザーに直接届けるのは難しいかもしれないですが、デザイナーとしてその思いをしっかり受け止め、全ての方にとって使いやすいプロダクトを開発することが私たちの使命だと感じています」(佐々木氏)

ちなみに、このプロジェクトを率いるANAの大澤氏は“できる限り楽しく仕事をしよう”と働きかけてくれているという。その前向きさが、パソナメンバーたちへ良い影響を与えているようだ。
パソナの内部では毎日1回ミーティングを行い、必要に応じて、コミュニケーションツールを利用して、メンバー間で密に連携を取っている。遠藤氏は住まいが北海道で、2024年3月までANAやプロジェクトメンバーと対面で会ったことがなかったが、コミュニケーションで困ったことはなかったと笑顔で振り返ってくれた。

広がる、つながる。ストレスフリーな移動の未来

これまでANAを中心に展開されてきたUniversal MaaSプロジェクトは、徐々に全国の自治体や公共機関へと広がってきており、技術基盤の刷新が進められている。例えば、徒歩でのルート案内や地図上への情報登録・公開機能を整備することで、市民自身が情報を活用・発信できる仕組みが構築されつつある。
具体的には、自治体や事業者がさまざまな情報を直接登録できる画面を遠藤氏が開発。登録された施設のバリアフリー情報を、地図上で視覚的に表示する機能も備えている。ルート案内やカテゴリー別の絞り込み表示などにも対応し、視覚障がい者や移動制約者は自身が必要とする情報へ迅速にアクセスできる設計だ。

さらにUI/UXデザイナーの佐々木氏は、当事者視点や自治体の業務フローを反映しながら、画面設計やビジュアル面のブラッシュアップを行っている。高コントラストの配色、わかりやすいアイコン表示、可読性の高い説明文など、初めて利用する人でも迷わないような画面構造や導線といったアクセシビリティを重視し、細部まで多くの配慮が施されている。
こうした継続的なブラッシュアップにより、現在はまだ一部地域ではあるが、各交通機関へのサポート依頼を一括で手配できる、ストレスフリーな移動体験が実現している。
「以前は、移動に必要な連絡をするだけで疲れてしまうという声もありました。今後、自治体がこのアプリを活用することで、より多くの人々の移動支援につながることが期待されます」(山崎氏)

Universal MaaSプロジェクトが目指すのは、誰もが安心して自由に移動できる社会の実現だ。全ての人にとってストレスフリーな移動は、今まさに現在進行形で全国へ広がり始めようとしている。

2020年の実証実験時、ANAのご担当者様にインタビューした記事はこちら

株式会社パソナ

「一括サポート手配」開発担当 山崎 直輝氏
「ユニバーサル地図/ナビ」開発担当 遠藤 幸治氏
UI/UX担当 佐々木 和美氏

インタビュー日時:2025年6月12日

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