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年間4万件の紙の手続きのうち、6割をオンライン化。
業務効率化の成果が認められ、総務省消防庁長官賞を受賞。
DX推進で非効率を脱却。未来を創るスマートな働き方へ。
私たちの暮らしを守る消防署では、火災現場に駆け付け、火災を食い止めるのはもちろん、事前に火災を予防するためにさまざまな取り組みや手続きを行っている。「消防同意」も重要な手続きの一つで、新たに建物を建てたり、増築や改築をしたりするときに、建物が消防法をはじめとした防火に関する規定に適合しているかを審査するものだ。具体的には、消防用設備等が適切に設置されているかどうかや、非常用進入口、避難経路があるかなどを審査する。それら防火に関する規定を満たす場合に同意されるもので、安全性を左右する重要な手続きだ。
ちなみに東京消防庁への消防同意の依頼は、年間約4万件、1日に換算すると100件以上もの膨大な量になる。それに加えて消防同意は、小規模の建物では3日以内、どれだけ大規模であっても7日以内(土日祝を含む)というわずかな期間で行わなければならず、現場担当者は懸命に締め切りを守っている。消防署に書類が到着した日の翌日を1日目としてカウントが始まるのだが、手続きを行う消防署予防課でも優先順位の高い業務として位置付けられているという。
「建築主または代理人である設計者から指定確認検査機関へ確認申請したのちに管轄消防署へ消防同意の依頼をする仕組みです。そもそも設計に関わる図書は、申請書類を含めてパソコンで作成されたデジタルデータです。消防同意依頼システムができる前は、指定確認検査機関には、デジタルデータにより確認申請したにも関わらず、指定確認検査機関から当庁には当庁の審査のために紙に印刷したものを郵送していただいていました。それに消防同意は業務フローが複雑です。審査中に申請書類に不備等があれば、審査の段階に応じて異なった業務フローで進める必要があり、それが何度も繰り返される場合もあります。それに、この手続きは法令を順守しなければならないため、ミスが許されないうえ、早急な対応が求められます。全国的なDX推進の流れを受け、今回システム化に踏み切ったわけですが、庁内でも随分前から非効率な手続きを改善したいという要望はありましたので現場の事務が効率的に進められるシステムとなるよう意識しました。」(東京消防庁 予防部予防課 林 怜史 氏)
申請書類の消防署内の決裁にかかる時間を考慮すると、手続きを行う現場担当者の持ち時間は、実質1~2日しかない一方で、審査を行う側の東京消防庁ではミスが許されない。ミスをすれば、建物の安全性に関わり、ひいては人命に影響も与えかねないからだ。
徹底ヒアリングで描いた、精密な業務フロー
東京消防庁は、システム開発にあたり、ローコード開発ツールであるマイクロソフト社のPower Platformで開発を行うという条件を提示。それを受け、複数の会社が入札を行ったが、最も要望に添った提案内容だったパソナに開発を委託することになった。
開発が着手されたのは2022年4月。まずはパソナによる東京消防庁 予防部 予防課へのヒアリングが始まった。紙での手続きがどのような業務フローで行われているのかを数か月かけて、徹底的に調査。それをもとに業務フローの原型をパソナ側が可視化し、それをベースに東京消防庁側が考えられる手続きのケースを上げ、細かく枝分かれさせていく作業を行い、両者で何度もやりとりが繰り返された。
当初、システムの開発期間は1年を予定していたが、実際の開発期間は9カ月間だった。残りの3カ月間はシステムのテスト期間に充てられていたからだ。というのも、消防同意の手続きは消防法に則って行わなければならないため、システムトラブルなどで手続きが止まることが許されないという特殊な事情があったためだ。
隔週に一度のペースで行う定例会議で基本的な要件を決め、それ以外にも必要に応じて、多いときには週3回のペースでやりとりを行ったときもあった。要件定義はお互い丁寧に進めていたが、システム開発の後半に「もっとこうした方が良い」という追加の要件も出てきた。そこで納期と追加要件のバランスを見比べながら、双方話し合いのうえ、優先順位の高いものからシステムに反映していくことを決定していった。
「実務に即した弾力的な運用ができることを目指していたので、分岐が増えてしまいました。そうすると当然ですが、システム側でより個別に応じた設定を多く行う必要が出てきます。どこまで柔軟なシステムにするのかは、迷ったところもありました。ただ、システム開発では標準的な事務機能はもちろんのこと、実務上はこうした方が使いやすいということをパソナ様がすべて盛り込んでくれました。開発当初は、紙で行っている運用以上に柔軟な対応をするのは難しいと考えていましたが、細かいところまでパソナ様にヒアリングいただいたおかげで、円滑な事務を行えるシステムになりました。」(林氏)
電子化率6割達成。庁内に広がる驚きと革新。
2023年4月から運用開始をする予定だったが、東京消防庁内の通信環境の影響により、本番稼働は10月23日にずれ込んだ。マイクロソフト社のOffice365を運用すること自体初めてだったため、東京消防庁内で想定外に調整が必要だったためだ。システムが稼働した後は順調に稼働している。
「電子化されたのは半数から6割近くに上っています。これは当庁としては、かなり衝撃的な数字です。既にいくつか他にも電子化した事例がありますが、他は1ケタもしくは2ケタ台ですから」(林氏)
このように電子化が進んだことで、業務効率が大幅に上がったことを実感していると話す。システム導入前は、指定確認検査機関はもちろん、管轄消防署などで何度も申請書類の送付漏れがないか、確認が行われていた。ミスがないよう複数人でダブルチェックをする、確認が1人の場合には送付前に何度もチェックするなど、林氏が消防署勤務時代に“かなり神経を使っていた”という一連の確認作業は、システム導入を機に一切なくなった。また、指定確認検査機関から東京消防庁への郵送時間とコストの削減も実現。これまで郵送コストは、指定確認検査機関が負担していたが、この費用負担も不要になった。また手続きの進捗確認も、管轄消防署では問い合わせがあるたび、署内を回って進捗を追う必要もあった。しかし今ではシステム上でワンクリックするだけで進捗を即時確認できるようになったという。
「計測したわけではありませんが、システム導入により業務負荷軽減に大きな効果を感じています。システム開発当時はまだ感染症の影響があり、職員を集めた集合研修などが難しい状況でした。そこで使い方のマニュアル、動画などもご用意いただきました。システム開発も佳境になっていたころですが、丁寧に操作方法についてもレクチャーする素材をパソナ様が用意してくれたおかげで、現場にシステムが円滑に浸透しました」(林氏)
デジタルデータの二次活用へ。次なる一歩は庁内システム連携
今回導入された消防同意システムは、模範となる優れた予防業務に与えられる2024年度の総務省消防庁長官賞を受けるなど、庁外でも高い評価を得ている。また東京消防庁は、定期的にシステムを利用する指定確認検査機関の会合に出向き、要望をヒアリングする機会があるというが、消防同意システムに関しては「オンライン化してくれて本当に良かった」という声が多く、好評を博しているという。
「データの容量や画面の制約がある部分があっても、電子化したことのメリットは大きい」と林氏。
ちなみに現状、運用しているなかで困っていることがないか尋ねると、運用担当の佐藤氏と渋谷氏は「配布や起案などの際、現場でシステム操作を間違えて進めなくなると、私たちに連絡が来ます。ただ、私たちでは修正の操作が難しく、パソナ様に対応を依頼させていただいています。今後はそのあたりも自分たちで対応できるようになりたいですね」と話す。
今後はこの消防同意依頼システムを安定稼働させ、庁内にある他のシステムと連携を行い、データの二次活用も目指したいという。
「消防同意システムには建物名、規模や広さ、何階などのような建物の基本情報を保有していますが、現在消防同意の情報を別のシステムで使用する際、手作業で転記しているので、これも自動でできるようになれば、より業務効率化が進むでしょう。また、国土交通省が新電子申請システムを構築していると聞いているので、当庁の消防同意システムとの連携を視野に入れていきたいと考えています。」(林氏)
DX推進で非効率を抜け出し、効率化を目指すことで、私たちの暮らしはさらによくなるに違いない。
東京消防庁
東京消防庁 予防部 予防課
林 怜史 氏 佐藤 大輔 氏 渋谷 拓馬 氏
インタビュー日時:2024年6月11日
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