コラム
2021/11/12

ナッジ式健康経営で無関心社員を巻き込む方法

健康に無関心な社員をどうやって巻き込んでいくか。健康経営に取り組めば、ほとんどの組織がこの課題に直面します。社内健康セミナーやウォーキングイベントを開催しても、参加率はいっこうに上がりません。会社としてもっと一体感のある健康経営を進めたい、もっと多くの社員に関心を持ってもらいたいと、健康経営担当者は頭を抱えます。

そこで本稿では、無関心社員の巻き込みに抜群の効果を発揮する「ナッジ式健康経営」の手法を紹介したいと思います。その効果はすでに立証済みで、毎年、健康経営優良法人に認定される成功企業でも多数実践されています。大掛かりな準備や予算は一切不要です。本稿をお読みいただきながら、ふと沸きあがるアイデアだけで、明日からあなたの会社で取り組める非常にシンプルな健康経営手法なのです。

それでは「ナッジ式健康経営」の詳しい説明に入る前に、まずは、健康に無関心な社員について、もう少し理解を深めておきたいと思います。彼・彼女らは一体なにを考えているのでしょうか?なぜ、健康意識が低く、セミナーやイベントにも一切参加しないのでしょうか?「彼を知り 己を知れば 百戦危うからず」という言葉があるように、“無関心社員”を理解することで、こちらの打つ手は自然と見えてきます。

1. 健康に無関心な社員は一体何を考えているのか?

「運動しない。食事の改善もしない。健康施策にも参加しない。」つまり、“健康的な行動をしない”というのが、健康に無関心な社員の態度ですが、一体彼らは何を考えているのでしょうか?この疑問に答える重要な調査結果があります。

当コラム編集部がある弊社パソナでは、健康経営を行う企業の従業員約40,000名を対象に、3年間に渡り、ライフスタイル調査を行ってきました。この大規模調査から見えてきたことは、上記のような健康無関心層には、実は2つのパターンがあるということです。

1つは、健康づくりに全く興味がなく行動しようとしない「真の無関心層」。2つめは、健康に問題意識はあるが、行動できていない「問題認識層」です。おもてに見える態度としては、両者はいずれも“行動しない”のですが、後者は実は、“できれば行動したい”意思を持っているのです。

今まで私たちが一括りにしてきた「健康無関心層」とは、実際には「真の無関心層」と「問題認識層」の2層に分かれています。そして、健康づくりに取り組む社員を「改善意欲層」と定義すれば、下図のように分類することができます。

ここで、健康経営担当者として知っておくべき重要な情報がもう一つあります。これら3つの層は、ほとんどの場合、従業員の一定の割合を占めるということです。「真の無関心層」は全体の約2割、「問題認識層」は5~6割、改善意欲層は2~3割であり、この比率は、組織における有名な「2-6-2の法則」にピタリと当てはまります。

2. 巻き込むべきは社員の過半数を占める問題認識層

これまで「無関心層」だと思っていた社員のうち、実は「問題認識層」に属する社員がたくさんいるとわかれば、うまく「改善意欲層」にステップアップさせることが、健康経営担当者の役割です。5~6割もいる「問題認識層」を「改善意欲層」に押し上げることで、結果として、8割の社員が健康づくりに参加することになります。全社的な健康経営も夢ではありません。ちなみに、「真の無関心層」はここではいったん横に置いておくことになりますが、心配は無用です。8割の社員が動けば、意識が変わる人も出てきます。頑なに拒む社員もいますが、彼らに受け入れてもらう方法は、後日別のコラムで紹介したいと思います。

3. わかっちゃいるけど動けない健康づくり4つのハードル

さて、「問題認識層」を健康づくりに引き込むには、どうにか行動してもらうことが決め手となります。「運動しないと…」「野菜食べないと…」という問題意識はあるわけです。では、どうして行動に移せないのでしょうか?多くの場合、行動に移せない理由は4つに集約することができます。

問題認識層にとって、日々の健康づくりはハードルだらけです。例えば、「いま体調が悪いわけではないし、業務が忙しいから」という社員は、健康づくりに時間をさくメリットを感じていません。実践イメージが沸かない社員は、大げさに考えすぎる傾向にあります。「ジムに通わなければ…」「毎日自炊しなければ…」と、いきなり高いゴールを設定しがちです。ほかにも、取り組むきっかけが無いというハードルもあります。健康づくりが自分事になっていないため、取り組む動機を外に求めてしまうのです。また、過去の挫折経験がハードルとなることもあります。

社員個人で飛び越えられないハードルがあるならば、会社がうまく支援する手はないでしょうか?ハードルを低くする、あるいはハードルの存在を感じさせない形で、健康施策を展開していくことができれば、過半数を占める問題認識層は、晴れて健康づくりに取り組み始めることができます。そして、その実現に非常に効果的な健康経営手法こそが「ナッジ式健康経営」なのです。

4. 健康づくりに社員が目覚めるナッジ式健康経営とは?

ナッジとは、人が望ましい行動をとれるように、そっと後押しするための仕掛けやきっかけのことを言います。罰則やインセンティブ、規制により人を行動させるのではなく、人が意思決定する際の環境をデザインすることで、自然と望ましい行動がとれるように促す手法です。行動経済学の言葉で、学術的な定義はもう少し詳細に及びますが、ここでは直観的に理解していただくため、細かな説明は割愛します。ナッジは、2017年にシカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことで、世界的に注目を集めました。現在、多くの国の公共政策などでも活用され、大きな成果を上げています。

例えば、イギリスの環境保全団体が行ったタバコのポイ捨てを減らすキャンペーンが有名です。街に投票箱型の灰皿を設置し、タバコの吸い殻を投票権として、人気投票やアンケート投票を企画しました。例えば、「世界最高のサッカー選手はロナウド?それともメッシ?」というアンケートが灰皿に書いてあります。サッカー好きなイギリスの人びとにとって、この質問を無視することはできません。答えたくなる自発性を利用して、きちんと灰皿に吸い殻を捨てる行動変容を促したのです。これによりタバコのポイ捨ては、約46%削減したと報告されています。(出所:Hubbub)

(出所:Hubbub)

「ナッジ式健康経営」とは、従業員に対して、このような自発的な行動変容を促すための環境づくりや施策を行っていく健康経営のことを言います。ナッジは、すでに多くの組織の健康づくりに一役買っています。いくつか例を紹介しましょう。

社員食堂にナッジ。食事改善に成功

Google社では、社員食堂でナッジを活用し、従業員の食事改善に成功したと報告されています。同社の食堂はバイキング形式です。一番はじめの目立つ場所にサラダを配置します。たったこれだけで、何気なく盛り付けている社員の皿には、自然と野菜が乗るような状況を作り出しました。ナッジを生み出す方法のひとつに、意識的に避けようとしない限り、いつの間にかそれをやってしまう“デフォルト状態”を作り出すというものがあります。いつの間にか野菜が皿に乗っている格好になるのです。さらに、バイキングは無料です。「タダならたくさん取らないと損」と考えるのが、人間の性。皿いっぱいに盛り付けようとしますが、肉料理コーナーにたどり着く頃には、皿はすでに満杯です。これも、ナッジを生み出すコツで、人は得するよりも、損したくないために、しばしば行動をとります。バイキングで取りすぎてしまう理由は、この心理にあります。余談ですが、肉料理を盛り付ける頃にはいっぱいになる皿。実はそれを狙って、あえてひと回り小さいサイズにしてあるそうです。(出所:OneZero)

コミュニケーション不足を「社長のおごり自販機」が改善

コクヨ社では、自販機を通じたコミュニケーション活性化に取り組みました。その方法とは、オフィスに「社長のおごり自販機」を設置したことです。自販機に、社員2人が同時に社員証をタッチし、10秒以内に2人がボタンを押せば、1人1本ずつ無料で飲み物がもらえる仕組みです。飲み物を買えば、そのままの流れで、自然と会話が生まれるものです。少し非日常的な体験を用意することで、人は「やってみたい」という衝動に駆られます。それが、もし“一人ではできない仕組み”になっていれば、どうでしょうか?誰か誘わざるを得ません。結果として、コミュニケーションの生まれる環境がデザインされます。(出所:コクヨ株式会社)

損をしたくない人間心理を突いた受診率向上施策

東京都八王子市の大腸がん検診の受診率向上の取り組みでは、未受診の人に対して、以下のようなハガキを送付することで受診勧奨を行いました。

(出所:株式会社キャンサースキャン)

パターンAでは、「今年受診すれば来年も検査キットが送られてくる」という利得的なメッセージとなっていますが、パターンBでは、「今年受診しなければ、来年は検査キットを受け取れない」という損失的なメッセージとなっています。結果としてAを送付された人たちより、Bを送付された人たちのほうが、受診率が7.2%高かったと報告されています。(出所:株式会社キャンサースキャン)

本来もらえていたはずのものがもらえないとなると、人は行動をとりはじめます。この心理を突っつく仕掛けもナッジとして非常に有効です。

5. 明日からできるナッジアイデアがひらめくヒント

ナッジはアイデアひとつで大きな効果を発揮します。手間のかかる準備や大きな予算は必要ありません。しかしながら、アイデア勝負と言って、そう簡単に思いつくものでもありません。大切なことは、日頃から自社の健康経営にナッジを活用できないかという意識を持っておくことです。そして、ふとした気づきからナッジアイデアが生まれれば、たとえ小さな取り組みであっても、実践すべきです。ナッジは、“さりげなく”人を動かすものです。目立たず地味な改善でも、立派な成果をあげる可能性を秘めています。

また、ナッジを活用した実例にたくさんふれることも、アイデアを生み出す助けとなります。世界を見渡せば、ほかにも健康に関するナッジ活用事例がたくさんあります。日本でも、官公庁や自治体の政策において、ナッジは積極的に活用され、その成果が報告されています。是非、探してみて、自社の健康経営に活かせないか検討してみましょう。

6. テレワーク下でもナッジ活用で健康づくりの習慣化に成功

最後に、テレワーク下でもオンラインでナッジを活用し、健康づくりの習慣化に成功した事例を紹介したいと思います。リコーITソリューションズ株式会社は、今年テレワークが主流となったにも関わらず、健康セミナーへの参加率を3倍にまで引き上げることに成功しました。成功要因は、先述の“健康づくり4つのハードル”すべてにナッジを組み込み、オンライン上で行動変容を促す環境づくりが実現できたところにあります。離れ離れになっても、オンライン上で一体感を作り、健康づくりの習慣化が進むようにナッジ式の健康支援を行いました。詳しい取り組みは、以下の記事で紹介しています。

是非、本稿と併せてご一読ください。

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<参考文献>

  • リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン(著)、遠藤真美(訳)、「実践行動経済学」/日経BP社
  • 阿部誠(監修)、「サクッとわかる ビジネス教養 行動経済学」/新星出版社

著者名:パソナ・健康経営コラム編集部

健康経営・産業保健の推進パートナーとして健康経営の「着実な一歩」を伴走サポートするパソナが運営しています。
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