健康経営戦略マップの作り方と今年作るべき3つの理由

健康経営を進めるにあたり、戦略マップの重要性が高まっています。2020年3月に経済産業省が発表した「健康投資管理会計ガイドライン」で、その説明がなされており、同省の統計データによると、2020年度のホワイト500認定法人のうち、じつに4社に3社以上が戦略マップを作成していることが報告されています。認定取得を目指す企業にとって、戦略マップの作成は、もはや必須と言えます。

そこで本稿では、戦略マップ初心者の方のために、4部構成で戦略マップのことをできる限りわかりやすくまとめています。第一部では、まず健康投資管理会計の概要を説明しています。戦略マップを作るうえで、健康投資管理会計との関係性を理解する必要があるからです。第二部では、戦略マップの中身の詳細を解説しながら、作り方についてまとめました。第三部では、今年度、戦略マップを作るべき3つの理由を書いています。戦略マップを作ることで、経営陣が本腰を入れ、健康経営を考えるようになり、成果をともなう健康経営のPDCAが回り始めます。そして、今年度の健康経営度調査においても有利な評価を得やすくなるなど、メリットを詳しく解説しています。第四部では、戦略マップをどう活用していけばよいかということについてまとめました。

戦略マップについて、まだよく知らないという方は第一部から、既に知っているがうまく書けていない、これから初めて書くという方は、第二部からお読みいただいて問題ございません。

本稿を読めば、基本的には戦略マップを担当者おひとりで書くことができるようになりますが、「第三者の意見がほしい」「作ってみたがどこか判然としない」という方は、本ページ下部の「お問い合わせ」よりお気軽にご相談下さい。

それでは、まず健康投資管理会計と戦略マップの関係を整理していきましょう!

1.健康投資管理会計と戦略マップの関係性

戦略マップとは何であるかを理解するためには、健康投資管理会計ガイドラインが何なのかを理解する必要があります。経済産業省は、健康投資管理会計の定義を、そのハンドブック資料の中で、以下のように説明しています。

出所:経済産業省 健康投資管理会計 実践ハンドブックより

簡単に言えば、健康経営の取り組みの“投資対効果”を出すための会計と言えます。つまり、健康経営のあらゆる取り組みにかかった費用を“投資”と考え、それによって従業員の生産性向上など“効果”がどれほど得られたかを分かるようにしましょうということです。

そのために、健康投資管理会計では、(A)戦略マップ、(B)健康投資シート、(C)健康投資効果シート、(D)健康資源シートの4つのドキュメントを作ることを推奨しています。この4つのドキュメントを作って管理すれば、健康経営の投資対効果がしっかり見えてきますよと経済産業省は言っているのです。

ここで、戦略マップとは何なのかを確認しておきましょう。健康投資管理会計ガイドラインのハンドブック資料では、以下のように説明されています。

出所:経済産業省 健康投資管理会計 実践ハンドブックより

つまり、戦略マップとは、健康経営を進めるにあたっての「計画書」と言えます。ただの計画書ではなく、目的(健康経営で解決したい経営課題)とそれを解決するための手段がタスクレベルにまで落とし込まれ明記されている計画書のことです。

ところで、他3つのドキュメントの説明は、本稿の主旨から外れますので詳細は控えますが、簡単に説明すると、(B)健康投資シートは健康経営の取り組みにかかった費用(投資額)を集計したものです。そして(C)健康投資効果シートとは投資した結果、得られた効果を金額換算し集計したものです。(D)健康資源シートとは健康経営に活用できる社内リソースをまとめたものです。いずれも健康経営の投資対効果を見ていくうえで、とても重要な書類となりますので、次回以降でこれらについても解説したいと思います。

さて、戦略マップの概要がわかったところで、戦略マップの中身について解説していきます。どういう項目で構成され、そこには何を書いていけばいいのでしょうか?

2. 戦略マップの健康経営課題と各指標の書き方

まず、戦略マップの全体構成について見ていきましょう。以下に戦略マップのサンプルを作りました。なるべく分かりやすくするため、シンプルにしています。

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先ほど、戦略マップとは「健康経営で解決したい経営課題とそれを解決するための手段がタスクレベルにまで落とし込まれ明記されている計画書」と述べました。
戦略マップの構成は決まっています。まず、一番右側に、①「健康経営で解決したい経営課題」を書きます。次に、①で設定した経営課題を定量的に表した目標を、②「健康関連の最終的な目標指標(アウトカム指標)」として書いていきます。そして、②を達成するために日々改善努力していくべき目標指標を、③「従業員等の意識変容・行動変容に関する指標(パフォーマンス指標)」として書きます。それから、③の改善を促す施策の参加量を表した指標が、④「健康投資施策の取組状況に関する指標(アウトプット指標)」となります。最後に、④の各々に該当する具体的な施策名を、⑤「健康投資」に書きます。

さて、具体的な説明をして行きましょう。まず、はじめにやることは、①の明文化です。あなたの会社の経営課題のうち、健康経営で解決したい課題とは何でしょうか?これを明文化するには、今までの健康施策を振り返ることが有効です。

例えば、あなたの会社は昨年、「運動習慣・食習慣の要改善者割合を5%下げる」という目標を立て、その対策として年4回の健康セミナーを開催してきたとします。それでは、そもそも、あなたの会社はなぜそのような目標を立てていたのでしょうか?それは、実は「従業員の労働生産性の向上」が真の目的だったのかもしれません。このように一段深掘りして「なぜ、それをやってきたのか?」を問うてみることで、健康経営で解決したい経営課題を再認識することができます。これが①の明文化のコツです。

サンプル図では、①の「健康経営で解決したい経営課題」から②の「アウトカム指標」に落としこみやすくするために、①を2段階(A)と(B)に分けています。
もっとも大きな目標に(A)「持続的な成長に向けた人材の定着化及びパフォーマンス向上」を置いています。これが健康経営で解決したい“経営課題”です。そして、これを実現するために“従業員の健康面では何をやるべきか”ということを書いたのが(B)で、「経営課題解決に繋がる健康課題」としています。ここでは、「労働生産性の向上」「望まない離職の低減」「社員満足度・働きがいの向上」の3つを取り組むべき“健康課題”として設定しています。ここまで落とし込むことができれば、②のアウトカム指標が導き出しやすくなります。

健康投資管理会計ガイドラインやハンドブックでは①(A)の「健康経営で解決したい経営課題」から②「アウトカム指標」に直接落としこんでいますが、サンプル図のように、間に①(B)「経営課題解決に繋がる健康課題」を入れ、順を追って考えてみると、目指すべきアウトカム指標が設定しやすくなります。

それでは、次に②の設定に移りましょう。②は一般的にアウトカム指標と言われます。「Outcome」とは直訳すれば「成果」という意味ですね。成果が“出て来る”と覚えて下さい。
サンプル図では「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」「フィジカル起因での離職率」「メンタル起因での離職率」「ワークエンゲージメント」の5つを書きました。ここには、先の①の(B)を実現するために、あなたの会社が達成しなければならない定量的な目標を考え、書いて下さい。サンプル図では、例えば「メンタル起因での離職率を0%にする」といったような具体的数値までは書いていません。具体的な数値は、もちろん戦略マップを完成させるうえで、最終的には設定する必要がありますが、まずは②にどんな指標が入るか考えていきましょう。

サンプル図では、②に書いた通り、「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」「フィジカル起因での離職率」「メンタル起因での離職率」「ワークエンゲージメント」の5つの指標で設定した数値さえ達成できれば、最終的に①の経営課題は解決できるものだとして書きました。

また、ここの数値が健康経営の目指すべき最終的な定量的ゴールとなります。ただし、戦略マップは、あくまで計画書です。つまり、②で立てた数値目標を達成すれば、きっと①の経営課題は解決されるだろうという“予測”として、設定してもらって問題ありません。

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再掲:戦略マップサンプル

そして、③では、従業員の日常的な行動を表す指標を書いていきます。③は一般的に「パフォーマンス指標」と言われるものです。「Performance」とは「出来具合」と訳すことができます。従業員の日常的なパフォーマンス(出来具合)をみる指標と覚えて下さい。
サンプル図では、「生活習慣比率」「治療・服薬継続率」「ラインケア・セルフケア行動」「組織内コミュニケーション量」「長時間労働者率」の5つを書いています。そもそも戦略マップでは、従業員の意識や行動が変われば、②の結果が良くなると考えます。たしかにその通りですね。
サンプル図でいうと、例えば「長時間労働者率」が下がれば、「高ストレス率」の低減と「ワークエンゲージメント」の向上が見込めます。
このように②の成果につながる従業員の健康意識や行動には、どんな指標があるでしょうか?それを書くのが③です。

それから④では、施策に対する従業員の取り組み状況を表す指標を書いていきます。一般的に「アウトプット指標」と呼ばれます。サンプル図では、「セミナー参加率」「プログラム参加率」「保健指導実施率」など、合計8つの指標を書いています。ここの指標でも考え方は同じです。つまり、③の成果をあげるためには、具体的にどんな取り組みの参加率や実施率、利用率をあげていけばいいのかという指標を書いていきます。
サンプル図でいうと、例えば「生活習慣比率」をあげるためには、「セミナー参加率」「プログラム参加率」「保健指導実施率」「健康相談件数」をあげていけば良いという考えで、指標に落とし込んでいます。

最後に⑤の「健康投資」の項目には、具体的に取り組む健康施策の内容を書いていきましょう。サンプル図では、一般的な保健師による「保健指導」や「健康相談」「精密検査受診勧奨」のほかに、専門業者などに外注する健康支援サービス名(今回はパソナのサービス)も書いています。

3. 戦略マップを今すぐ作成すべき3つの理由

戦略マップを作るべき理由は、健康経営を進めるにあたり、3つの大きなメリットがあるからです。

まず(1)について、これまで健康経営の担当者の頭を悩ませてきたことが、経営陣との視点のズレです。例えば、経営側はホワイト500などの認定取得に関して、特に意識が行きがちで、そのプロセスまで細かく見ることはあまりありません。年々、認定取得が難しくなっていることも伝わっておらず、担当者としては「経営陣に予算拡大の必要性を理解してもらえない」という悩みがあります。
戦略マップがあれば、認定取得のために必要な健康施策やインフラ整備など、アウトカム指標から順を追って、経営陣に説明できるようになります。より本質的な取り組みについて、生産的に議論を進めることができるようになりますので、予算取りもしやすくなります。
ところで、このメリットを充分に得るために、1つ心がけるべきポイントがあります。それは、戦略マップは担当者の中だけで作るのではなく、経営陣の承認のもと作成することが必要不可欠であるということです。当然のことですが、担当者だけで作った戦略マップでは、会社全体の取り組みとして、経営陣から協力を得られない可能性が高いからです。

そして、(2)のメリットです。「成果を伴う健康経営」は、PDCAサイクルに則った運用から実現されます。これまで本稿をお読みいただいた方であれば、容易にご理解いただけると思いますが、戦略マップは「計画書」であり、PDCAサイクルの「P:計画」を担います。
しかし、これまでの健康経営は、「P:計画」が無いまま、あるいは曖昧なまま進められてきたため、明確な成果を見出すことができませんでした。
戦略マップがあれば、健康経営の起点となる「P:計画」を得ることができます。そして同時に、健康経営の全体像を俯瞰的に見ることができるようになるため、何を「C:確認」し「A:改善」すべきかも、容易に判断がつくようになります。

そして、(3)のメリットです。こちらは、まだご存じのない方も多いかもしれません。実は、既に2020年度の健康経営度調査の設問において、戦略マップの有無に関する問いが盛り込まれています。

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出所:経済産業省 令和2年度健康経営度調査 調査票【サンプル】

さらに、ご存じの通り、2019年度から健康経営度調査の評価ウェイトは「制度・施策実行」より、「評価・改善」に重きが置かれるようになりました。(※下図参照)
やみくもに施策を連発するよりも、施策実行後の評価をきっちりと行い、改善をしていく健康経営ほど、認定取得につながりやすいということがわかります。

出所:経済産業省 第21回次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資ワーキンググループ2019年7月19日開催資料より

4. 戦略マップはこう使う!3つの活用術

最後に日々の健康施策を実行していく中で、戦略マップをどのように使っていけばよいのか説明したいと思います。

・アウトプット指標を定点管理し改善していく

担当者が直接的に変化を起こしていける唯一の指標が施策への参加量、つまりアウトプット指標と言えます。アウトプット指標がより良い結果となるように働きかければ、おのずとパフォーマンス指標に変化が現れてきます。アウトプット指標を定期的にモニタリングしながら、これを高めていくためにはどうしたら良いかということに担当者は時間をかけるべきなのです。

・指標間の相関をしっかりと検証する

戦略マップでは、「指標間の相関関係」を確認することができます。例えば、サンプル図でいうと、保健指導を受けた人は生活習慣が良い方向に変化し、受けなかった人は不変もしくは悪い方向に変化したというようなことが見えてきます。さらには、生活習慣が改善した人と改善しなかった人を比べて、プレゼンティーズムロスの変化が実際に起こっているのかといった検証にも、戦略マップを活用できます。

・検証結果を経営に報告する

戦略マップにより、指標間の相関関係が“見える化”されれば、経営陣へ現状報告する際に、施策レベルで具体的な改善案まで提案していくことができます。例えば、施策参加率を向上させるために管理システムを導入したい、食事の改善が必要なので食生活に関するセミナーを新たに実施したいなど、PDCAに根差したサステナブルな健康経営ができるようになります。

5. まとめ

さて、戦略マップについて、その重要性と作り方、活用方法を述べてきました。PDCAサイクルに則った健康経営を進めていくうえで、戦略マップがいかに重要で、かつ有用であるかお分かりいただけたかと思います。
一方、戦略マップは健康経営の土台となるもので、なかなか担当者おひとりで完成させるには大変な部分もあります。健康経営課題の策定は、経営陣との議論が必要になってきますし、各指標の設定についても、本当に健康経営課題を解決できるKPIとして正しいのか、よく吟味していく必要があります。

パソナでは、戦略マップ作成にあたり、無料相談窓口を設けております。「戦略マップを作ったが一度見てほしい」「これから作るのでアドバイスがほしい」「何から始めればいいかわからない」という方は、以下よりご連絡下さい。
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